この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第33話悪夢の始まり 光と闇の章

 四人の時間を日が暮れるまで楽しんだ後、明日もあるということで今日は解散になった。

「あー楽しかった」

 部屋に戻った俺は、そんな感想をもらしながは布団にダイブした。今日はかなり濃い時間を過ごすことができた。

(こんなに楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだ)

 まるで友達と一緒に出かけたような感覚。この世界に来てから一度も味わうことのなかったこの感覚は、俺にとって最高のものとなった。

(明日も楽しみだな)

 コンコン

「はーい」

 少し疲れたので眠ろうかと思った時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。セリーナだろうか?

「ミスティアさん、起きてますか?」

「この声はシャイニーさんですか? どうかしましたか?」

「実はミスティアさんに頼みたいことがあるので、開けてくれますか?」

「今開けますね」

 シャイニーが頼みたいこととはなんだろうか?

「すいません、寝てましたか?」

「少し仮眠を取ろうと思っていた所でしたけど、何かありましたか?」

 彼女を部屋に招き入れる。深刻そうな顔をしているみたいだけれど、何かあったのだろうか?

「ミスティアさん、じ、実はですね……」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 三十分後、俺はシャイニーを連れて外へと出ていた。

「ボクは彼女一人だけを呼び出したんだけどな」

「彼女が私に頼んで来たんですよ。不安だから着いて来てほしいと」

 出た先で待っていたのは、ほとんど暗闇に溶け込んでいるような格好をしているラファエル。

 三十分前。

「え? 知らない誰かに呼び出された?」

「はい。部屋に戻ったこんな紙が」

 シャイニーはそう言って一枚の紙を取り出す。そこに書かれていたのは、指定の時間に外へ出て来いという内容だった。そして最後にはこう書かれていた。

『闇に住まう者』

(これはもしかしたら……)

「正直私一人では、こ、怖いです。よかったら着いて来てくれないでしょうか?」

「分かりました。シャイニーさん一人では危ないと思うので」

「それはどういう事ですか?」

「行けば分かりますよ」

 再び時は戻る。

「何故君はボクの邪魔をするの? ボクを倒すことすらできないのに」

「確かに私はあなたを殺すことはできません。けれど、計画の阻止はできます」

「でも君もいずれボクの手に堕ちる身なんだよ? ついでにそこの彼女もね」

「わわ、私ですか?」

「君は光の姫巫女だよね確か。よく見たらお姉ちゃんにそっくりだけど、そのお姉ちゃんはどこなのかな?」

「っ! あ、あなたには関係ないです! お姉ちゃんは今も生きています」

「へえ、生きているんだ。まあ確かにそうかもね。本来巫女にならないはずの君が、命を落としてまで光の姫巫女になったのだから、当たり前だよね」

「あなたは何を知っているんですか! お姉ちゃんの悪口ばかり言って、許せません!」

「しゃ、シャイニーさん?!」

 あまりに予想外な話ばかりが飛び交っていて、俺が混乱している間に、シャイニーが何かを唱え始めたのを察した俺は、慌てて彼女を止めに入る。

「ミスティアさん、そこをどいてください! 私、この人を倒さないと……」

「こんな所で騒ぎを起こしたら、収穫祭どころの話ではなくなってしまいます! だから今は堪えて」

「そんな事言って、本当はボクを殺してほしくないだけのくせに」

「あんたは黙ってろ!」

 更に煽ろうとするラファエルに、俺は思わず素の自分を出してしまう。今は呑気にミスティアの声でいる場合ではない。

「おーそれが君の本性か。怖い怖い。だけど、彼女は止められていないみたいだよ」

「え?」

 彼女の方を見ると、既に詠唱を終えたのか、いかにも一撃を出そうとするシャイニーがいた。このままではまずい!

「天よ、悪しき者に天罰を与えよ! セイグリットランス!」

「ちっ!」

 もう間に合わないと感じた俺は、慌ててラファエルを突き飛ばす。上空から降る槍を俺も何とか避けようとするが、腕を少し掠め、激しい痛みが腕に走る。

「ミスティアさん!」

「つぅっ」

「君はそこまでお人好しだとは思わなかったよ。だけど、それもいつまでも続かないよきっと」

 ラファエルはそう言い残し、闇の中へと消えていく。俺はというと、掠めた腕からかなりの出血をしており、その場でうずくまってしまった。

「どうしてあんな事をしたんですか! あれは確実に私の敵なんですよ!」

「分かっている、あいつは敵だ。だけど……」

「言い訳なら聞きたくありません! あいつはお姉ちゃんを馬鹿にしたんです。それは絶対に許せないことなんです」

「お前の気持ちは分かっている。けれどあいつだけは駄目だ」

「ミスティアさんは私の仲間だと思っていました。けど、既に闇に堕ちていたんですね」

「違う! 俺はただ……」

「ミスティアさん、私はあなたに失望しました」

「シャイニーさん!」

「さようなら」

 俺を置いてどこかへ去って行くシャイニーを追おうとするが、血が出ているせいで身体を動かせない。それどころか、視界が少しずつ眩んできた。

(あ、やばい……血が出過ぎて……)

 シャイニーを追わないと……。

 このままだとあいつが……。




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