この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第51話闇を照らす希望の光

 光の歌姫の一撃を、彼女を庇いながらモロに食らってしまった俺。どうやら意識は飛んでいないらしいが、全身がかなり痛む。

「ど、どうして私を?」

「あの状況で避けることなんてできなかったし、お前に少しでも傷つけたら他の歌姫に怒られそうだからな」

 ちょっとした冗談を言いながら彼女から離れる。

「咲田君!」

 地面に座り込んでしばらく動けずにいると、シャイニーが駆け寄ってくる。

「あなたが……光の姫巫女ですね」

「はい。シャイニーと言います」

「私はライノと申します。光の歌姫の役目を任されています」

 先程とは違って、普通に会話をする二人。正気に戻ったのか? だとしたら、何がキッカケで……。

「実は私達、ライノさんに頼みがありまして」

「分かっています。どうやら時が来たみたいですね」

「知っているのか? 今この世界で何が起きているのか」

「はい。大体の状況は掴んでいます。突然人が来なくなるのは不自然ですから」

「それはそうだけど、今の言い方だとまるでこの災厄が起きるのを知っていたみたいだな」

「予知夢、とでも言うべきでしょうか。私達歌姫にはそのような能力が備わっているんです」

 予知夢。

 未来に起きるであろう出来事が見えてしまう能力。その能力を彼女達は持っているから、俺達が来るのを知っていたのだろうか? いや、それ以上にこの世界が闇に包まれる事でさえ予知していたのだろうか?

「じゃあ俺達が来るのも分かっていたのか? だったらどうして攻撃をして来たんだ?」

「それがよく分からないんです。あの日、実のところ私も闇に囚われてしまいました。そこからの事はハッキリと覚えていないんです。次に気づいた時には、あなた達が私の目の前にいましたから」

「つまり意識を乗っ取られていたのか」

 だとすると他の歌姫も同じようなことになっているに違いない。一刻も早く助けに向かわなければ。

「ライノ、俺達はこれからグリーンウッドに向かうんだけど、勿論ついて来てくれるよな?」

「はい。そういえばまだあなたの名前を伺っていませんでした」

「俺は春風咲田。元々水の姫巫女だった人間さ」

「あなたが噂の姫巫女でしたか。では咲田様、グリーンウッドに向かう前に一つ頼み事を聞いてくれますか?」

「頼み事?」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 五分後、痛む体を堪えながら神殿の外へと出た俺達は、そのままある場所へと向かった。

「ここら辺でどうでしょうか?」

「はい。高さも充分です」

 ライノの頼みは、なるべく国が見渡せるくらいの高い場所へ連れて行ってほしいとの事だった。俺よりシャイニーの方が詳しいので、その辺は彼女に任せたのだが、かなり高い所に連れて来られた。

「しゃ、シャイニー? わざわざこんな高い所じゃなくてもよかったんじゃないのか?」

「もしかして咲田君、高い所苦手なんですか?」

「そ、そうじゃないけど」

 高すぎて下も見られないくらいの場所を選ばなくても……。

「て、ここで何をするんだ?」

「見てれば分かります」

 そう言うと、ライノは一度深呼吸をして、

 歌った。

「え?」

 その歌声はとても美しく、光に包まれるそんな感じがしてくる。

「綺麗な歌……」

 シャイニーが思わずそんな事を言ってしまうほど、彼女の歌は綺麗だった。そう、俺が初めて水の歌姫の歌声を聞いた時と同じように、その歌声は俺達の心を揺さぶった。

(これが歌姫の歌なのか)

 だがわ歌姫が動かしたのは俺達の心だけではなかった。

「咲田君、あれ!」

「あれは……」

 彼女の歌は光になってセイランスを優しく包み込んだ。荒れ果てた地は、元の形を取り戻し、枯れていた花は新たな蕾を芽吹く。こんな奇跡、一生に一度見れるか見れないかくらいだ。

(この力が四人分、確かに世界を元に戻すことができるかもな)

「光というのはいつも私達を優しく包み込んでくれます。たとえどんなに巨大な闇が襲いかかろうとも、少しでも希望の光があれば、それは大きなものになります」

 いつの間にか歌は終わっていて、ライノは笑顔でそう言った。

「今この世界は巨大な闇に覆われてしまっています。でもあなた達のように常に希望を捨てない人がいれば、全てが闇に覆われることはありません。勿論私も希望は捨てていません。だから今こうして、ほんの少しだけ世界を取り戻すことができました」

「そうだな。まだこの世界は終わっていない。俺達がいる限り」

 諦めなければ必ず希望は取り戻せる。それがどれだけ大変なことであっても俺は……。

 ズキッ

「っ!?」

 あ、あれ? 急に心臓に痛みが。

(さっきの怪我か? いや違う)

 これは……。

「咲田君、どうかしましたか?」

「い、いや、何でもない。さあ、早くグリーンウッドへ向かおうぜ」

「? は、はい」

 アライア姫は言っていた。俺にいつ何が起きてもおかしくないと。一度死んでいる身である以上、長くはこの体で居られないことを。

(分かっている。分かっているけど)

 まだこんな所で終われない。全てを終わらすまで死ねない。まだ…………。

 俺は……死ねな……

 ドサッ

「え? そ、咲田君?  咲田君!」


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