この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第64話世界に響けこの歌よ 前編

 皆が目を覚まし、朝食などを済ませた後、最終調整をしあとはその時を待つのみになった。

(いよいよなんだな)

 近づき始めるその時に、俺は緊張して落ち着けなかった。

「もう何緊張しているんですか。行うのは私達ではないんですよ?」

 そんな俺を見兼ねたのかセリーナが話しかけてくる。

「いや、分かっているんだけどさ。いざ本番が近づくとなると、緊張してな」

「もう巫女様ったら。そんなのではまともな別れができないじゃないですか」

「その時になったら落ち着くから気にするな。そういうお前だって、俺と別れたくなーいとか思っているんじゃないのか?」

 少しからかわれたので、俺は仕返しをする。その言葉を聞いたセリーナからな、突然笑顔が消えた。

「そんなの当たり前じゃないですか! 私だけではなく他の皆さんだって、巫女様と……別れたくないに……」

「セリーナ……」

 涙を流し始めたセリーナに、俺はちょっとやり過ぎたと反省をする。

(昨日シャイニーが言っていた通りか……)

 皆が同じように思っていない。それは分かっている。分かっているからこそ、俺は乗り越えなければならないのだ。

「巫女様、もっといてくださいよこの世界に。姫巫女でなくてもいいですから」

「ごめんセリーナ。それはできない」

「どうしてですか!この世界にいれば、もしかしたら蘇生することだってできるかもしれないんですよ? そうすれば長生きだってできるのに」

「いいんだよセリーナ」

「何がいいんですか! このまま死んでしまうなんて、悲し過ぎますよ……」

「確かに死ぬことは悲しい事だよ。けど、二ヶ月だけこの世界で長生きさせられてもらったんだ。もういいんだよ」

「そんな……」

 それに死んだのは自業自得でもある。溺れた子供を助けて、その代わりに命を落とした。自分の勝手な正義感で、命を落とした。誰のせいでもない、自分の責任なんだ。

「ありがとうなセリーナ、二ヶ月一緒にいてくれて」

「巫女様ぁ」

 泣きつくセリーナを俺は優しく受け止める。まだ時間が残っているとはいえ、ゆっくり話せるのはこれが最後だろう。だからせめて、この一分一秒を大切にしたい。残り少ない命の時間を……。

「うぇえん、えっぐ。巫女様ぁ」

「ごめんな、セリーナ」

 そして運命の時を迎える。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「何かこうして全てが揃うと、ちょっとシュールだですね。ここ」

「何を今更言っているの。これが咲田君の答えなんでしょ?」

「まあ、そうですけど」

 全ての準備が整い、四人の歌姫がステージに立つ。それを俺とアライア姫は眺めながら、そんな会話をする。グリアラ達は巫女の力を使って、四人のバックアップをする為この場にはいない。何もできない俺やセリーナやアライア姫は客席みたいな場所にいる。

「あの、アライア姫」

「どうかした?」

「時空門は本当に今日開かれるんですか?」

「確実か、と聞かれたら難しいけど、ほぼ百パーセントの確率で開くわよ」

「そうですか」

「今になってこの世界が恋しくなった?」

「いえ、そういうわけではないんですけど」

 いざその時が近づいていると考えると、色々思うことがある。

 二ヶ月前姫巫女になったあの日。

 何が何だか分からない俺は、色々な人にサポートしてもらいながら、慣れない仕事をこなして行った。途中で向日葵の声だけ聞けたこともあった。

 グリーンウッドでの収穫祭。

 ラファエルの襲撃により、俺は再び死んでしまう。何とか生還(?)したら、元の体に戻っているという謎の現象が起きたものの、仲間と再会を果たす。

 地下の国での騒動。

 歌姫を探す中で、地下の国で大地の民と激突するが、スウの力もあって何とか脱出。スウが命を落とすという嫌なことも起きてしまったが、四人の歌姫が集まる。

 そして今。

 間もなく世界に光を取り戻すことができる。でもそれはこの世界との別れを意味している。最初から願っていたことがようやく叶うのだから、喜べるはずなのに、この世界が愛おしく感じる。

「咲田君はこの世界が好き?」

「それは好きに決まっているじゃないですか。最初は嫌だなって思っていましたけど」

「この世界を去るのは寂しい?」

「それは寂しいですよ」

「そうね。私もちょっと、寂しいかな」

「え? それはどういう……」

「さて、そろそろ始めるわよ。皆!」

『おー!』

「いや、えっと、お、おー!」

 アライア姫の謎の言葉の意味が分かる前に、作戦が開始されてしまう。

(た、単なる別れの言葉だよな、俺への)

 少し心残りがあるものの、いよいよ始まりを告げる。世界が変わる最初で最後の作戦が。

「じゃあお願いね四人とも!」

 アライア姫の合図と共に、四人が一斉に歌い始めた。


 その歌声に音楽はない。

 全てがアカペラだ。

 だけど確かにそのメロディは、俺たちの耳元へと届けられる。

 四人の美しい歌声が、世界を包み始める。

 一つの光になって。

「このまま……私が終わると思っていましたか? 春風咲田君」

「え?」

 歌声に聞き惚れていると、どこからか声がする。この声は……。

「私はここですよ」

 背後から気配を感じたので、咄嗟に気配から離れる。ついでに体を反対に向ける。背後にいたのは、

「やっぱり生きていたか、マリアーナ」

「私があんなんで死ぬとでも?」

 先の戦いで、瓦礫の中へと消えた水の姫巫女マリアーナだった。

「最初から分かっていたよ。お前が生きているのを。そして、確実に邪魔をしにくることもな」

「嬉しいですね私を理解してくれる人がいて」

「誰が理解するか! 絶対に皆の邪魔はさせない!」

「一般人のあなたが、私に勝てるとでも? まあいいでしょう。またあなたを倒させてもらいます」

「行くぞマリアーナ!」

 最初で最後の作戦、そして全ての決着をつける戦いが幕を開けた。

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