この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第2話二年の歳月が作り上げた新たな形 前編

 それから何とか向日葵も連れて、セリーナが指定した場所へ。そこにはいかにもと言わんばかりの扉がそこにはあった。

(六年前と二年前は、こんな物なかったんだよな)

 もしかしたらその常々にこの扉が出現はしていたのかもしれない。

「さてと、この先はいよいよ異世界だ。二人とも準備はできているか?」

「ああ」

「勿論だよ」

「じゃあ行くか」

 俺は高鳴る鼓動を抑えながら、扉を開く。いよいよ俺は二年ぶりにあの世界へと帰ってくるのだ。

(セリーナや皆、元気だといいけど)

 俺の視界は扉から漏れ出た光によって、一時的に覆われたもののその先で待っていたのは、

「え?」

「あ、えっと……どなたでしょうか?」

「しゃ、シャイニー……だよな?」

「その声もしかし……きゃぁぁ」

 何と不運にも着替え中だったシャイニーがいる部屋だった。見た目は女であるが声が俺だと分かってしまった以上、これはアウトな訳で。

「どうした咲田……ぶっ」

「ちょ、ちょっと雄一君?!」

 おまけに後ろには正真正銘の男が一人います。さて、俺はこの後どうなったでしょうか。

「咲田君の馬鹿! 変態!」

 答えは皆さんが御察しの通りです。

 ■□■□■□
「あはは、まさか咲田がそんなタイミングで私達の世界に来るなんて思わなかったわ」

「笑い事じゃねえよ」

 あれから一時間経って、ようやくほとぼりが冷めた所でグリアラが話しだす。ちなみに雄一は先程の騒ぎでしばらく寝てなければならないので、この場にはいない。

「随分と可愛らしい姿になられましたね、咲田様」

 お茶を運んできたセリーナが言う。今俺達は城の客間にやって来ているのだが、朝がまだ早いためかムウナがまだ寝ているのでその姿はない。シャイニーもしばらく俺の顔は見たくないそうだ。

「それでお隣におられるのが、咲田様のご友人の方ですね。ようこそ私達の世界ラグラディアへ。私はラグラディア王国の王女セリーナです。以前は咲田様の……水の姫巫女様のメイドをやっていました」

「あ、えっと私は夏野向日葵です。咲ちゃんがものすごくお世話になりました。えっと、セリーナ……様で呼んだ方がいいですか?」

「様付けなんてしなくていいですよ。王女とはいえど、私そんなに偉くないですから」

「じゃあセリちゃんで」

「ぶっ」

 飲んでいたお茶を俺とグリアラ、そして呼ばれた本人も同時に吹き出してしまう。確かに向日葵は大概の人を変な呼び方で呼ぶ癖があるけど、王女に対してセリちゃんって流石にそれはちょっと……。

「ゲホゲホ、せ、セリちゃんですか? せめて呼び捨てで構いませんから、その呼び方は」

「じゃあセッちゃんで」

「もうセリちゃんで構いませんので、セッちゃんはやめてください」

 ほとんど動揺をしないセリーナをここまで動揺させるとは、向日葵恐ろしい子。

「えっと、次は私かな。私はこの世界の森の姫巫女をやっていたグリアラよ。よろしくね向日葵」

「よろしくねグリちゃん」

「やっぱり私もそうなるのね」

 落胆するグリアラ。まあ、諦める以外道はないから仕方がない。

「あと一人、倒れた馬鹿がいるけどそれは後で紹介する。どうせムウナとシャイニーとも顔合わせしないといけないし」

「シャイニーさんのは咲田様が責任を取ってくださいよ」

「俺は悪くねえよ。むしろこれセリーナが仕組んだんじゃないのか?」

「さあ?」

 どうやら確信犯らしい。とりあえず一通り挨拶が終わったので、セリーナには向日葵が寝泊まりする場所を用意してもらうことしにた。俺とグリアラはその間、お茶を飲みながら待つ事にしていたのだが、俺は先程の会話で気になった事を彼女に尋ねた。

「なあグリアラ。お前さっき森の姫巫女をやっていたって言っていたけど、もしかしてやめたのか?」

「あー、それは、その」

「お主がいない二年の間に色々あってのう。正直妾も姫巫女の立場としては危うい」

 会話の途中で久しぶりに聞く声に遮られる。後ろを振り返ると、ムウナの姿があった。

「セリーナに聞いてここに来たのじゃが、咲田も立派な女になったのう」

「馬鹿いえ。俺は元は男だ」

「そうじゃったの。久しぶりじゃの咲田」

「ああ、久しぶりだなム……名前なんだっけ?」

「お主わざとじゃな」

「ああ思い出した。ムウだ」

「一文字足りんわ! 全く、折角の二年ぶりの再会も素直に喜べぬじゃろうが」

「冗談だよ。ムウナ」

 グリアラの隣にムウナが座る。こうして彼女の顔を見れるのも、久しぶりだが元気なのは変わりないようだ。

「それで話を戻すけど、さっき言った言葉はどういう意味だムウナ」

「そのままの意味じゃよ咲田。この二年で世界は変化したのじゃ、よい意味でも悪い意味でも」

 ■□■□■□
「もう咲田君は……」

 まさか彼とあんな形での再会をする事になるとは思っていなかった。見た目が丸々変わってしまっていたけど、声は咲田君そのものだった。だけどまさか、着替えのタイミングでこの世界にやってくるなんて、一人の女の子としてすごく恥ずかしい。

「こんなの仕組めるのはセリーナさんくらいですし、後で文句を言わないといけませんね」

 ようやく心が落ち着いたので、私は部屋の外に出る。どんな顔して私は彼と会えばいいのだろう。二年ぶりの再会とはいえど、この世界も……私達も大きく変わってしまった。それを彼が知る事にはなるだろうけど、それは多分今まで以上に彼に迷惑をかける事になる。

(でも大丈夫ですよね、きっと)

 一々悩んでいるのも馬鹿馬鹿しくなった私は、二年ぶりに会う彼の元へと向かうのであった。

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