第29話 グロリアスと言う英雄

微妙に憂鬱な気分のまま次の日の朝を迎えた。

「はあ〜・・・」

いや何贅沢言ってんだよ！王女様が許婚だぞ！もっと喜ぶだろ！
みたいな事をおもわれている方々に是非言いたい。

「そんな事は決してない！」

と。

何故？ってそりゃまずそもそも地位が無理。
中身が平民以下の人間に王女押し付けられてもなんか気を使うでしょうが。
心が休まらない。

次に現実の王女様なんて我儘ヤンチャガールと相場が決まっている。
それと最低限礼儀をわきまえてる人間としてはあの感謝の仕方が気にくわない。
こっちが圧倒的に下だとはわかっているがそれでも怒るほどではないが、元いじめられっ子ぼっち少年だったとしてもやはり好感度は少し下がる。
是非とも納得のいく説明が欲しい。

あと頭がいいってところにもなんか尻に敷かれそうで怖い。
尻に敷かれるだけなら別に構わないのだが、納得いかないことを理路整然と説き伏せられると逃げたくなってくるのだ。

と散々悩んだがよく考えたら、

(俺、冒険者になる予定だから別に関係ないな)

と気が付いた。

「なら気軽に行きますか。
失礼は無いようにYESmanやれば問題なし」

と開き直る事に成功した。

しばらく時間を潰していると

「レイン様、準備は出来ておりますか」

「はい大丈夫です」

とすぐな扉を開け、スクナとメイドが入ってきた。

「朝食の準備が整っております」

「今行きます」

と返事をしてスクナとメイドを伴って朝食に行く。

すると直ぐにお父様から声をかけられる。

「おお、レイン。
今日の調子はどうだ？」

調子？最悪一歩手前っす。

そういうわけにもいかず、

「はい、大丈夫です」

と言う。

「そうか、重ねていうが失礼の無いようにな」

「わかっておりますよ。王女殿下を怒らせ無いようにするのですね」

「うむ！頼むぞ！お前だけが頼りだ！」

「それとどこで会う予定なのですか？」

「王城内に庭があっただろう。
そこにイスと机を置いてお茶をする予定だ」

プリムと2人で歩いたところか。

「わかりました。では時間になったら呼んだください」

「わかった」

「ではお先に失礼します」

と言って席を立ち、部屋に戻る。

また時間まで本を読みながら時間を潰す。
『ポルネシア戦歴』とかの戦争物の実用書はもう読み飽きたので、ここ最近は同じものばかり見返している。
伝説話だ。いわゆる英雄とか神獣の話が面白い。

しかもこの世界だと存在が確認されている決定的証拠があるらしい。
そう言われると俄然気になってくる。

特に最南端にある大陸最大の大国を創ったグロリアス・ノアという男の伝説はマジでヤバイ。
世に出回っている子供兼大人用の伝説と真偽の程は定かではないが裏話を集めている本を合わせるとこう言った話になる。

この男はとある平民の家の出身で産まれながらに剣と魔法の才能に恵まれていたようだ。
彼が大きくなり、15歳になった時冒険者で直ぐに才能を開花させた。
迷宮に入って半年も経つと当然の様に第一線で活躍をし出した。
それから四年の月日が経ち、20歳になった時とある知らせが入った。

それは神級の龍が大陸に侵入、国が瞬く間に滅んだという話だ。
彼はこの龍の撃退という依頼を受け、準備をして立ち向かった。この時既に３つの国が滅ぼされており、それでもなお龍にほとんどダメージを与えられていなかったらしい。

そして最初の一撃で彼以外の仲間が全滅した。
そう彼以外、だ。

そう彼は山が消し飛ぶ一撃を耐え抜いたのだ。
それから龍は彼に幾万もの攻撃をした。
だが彼は、山が裂け、渓谷ができる様な一撃を受けてもなお平然と立ち上がって見せたのだ。
そして、一週間の激闘の末、龍を封印という形で撃退して見せた。
地図が大きく変わる程の戦闘で彼の衣服はボロボロ、体のあちこちに傷があってなお彼はそこに平然と立っていた。

と、ここまではまあいいのだ。
おお！すげー！かっこいいな〜くらいで終わらせられる。
こいつのヤバイところはココからである。

それからしばらくして滅んだ国をまとめ大国を作り、国政に励んでいた。
だがここで問題が起きた。
瞬く間に国が滅び、そしてそれらがまとまり新たな大国ができた。
当然周辺諸国は密偵、出来るなら暗殺も含めた探りを入れた。
なんとこの王様はその密偵を探り出し、満面の笑みで自室に呼んだ。
懐に毒ナイフを隠し持った女性の暗殺者だ。
そして次の日すっきりした顔で部屋から出てきた王に臣下が聞いたところ、
「二度ほど刺されたが最高の夜だった」
といったという。
そしてこの女性を妾にすると宣言し、本当に妾にした。
今も残っている日記にはその暗殺者の記録がある。。
簡単に言うと、部屋に呼ばれるたびに
「今日はナイフを持ってきたか？
何？持ってきてないだと？何故だ？
お前は俺を暗殺しに来たのだろう。
ヤッてる最中はいつでも刺して構わんぞ！」
と言ったという。
自殺をしようとするとそれを止め、自殺したらお前の国を滅ぼしに行くといい、出て行こうとするとこれもまたお前の国まで迎えに行くと脅したそうだ。
男は容赦なく殺したが美人な女性の暗殺者が自分を狙いに来ると自身の妾にした。
とうとう暗殺者の1人が良心の呵責に耐えられなくなり、謝ったところ、
「なら君の国も併合すればいいんだよ」
といい1人で大国に突っ込みその言葉を実現させた。
それから暗殺者の反旗を恐れ他国はこの国に間者を送らなくなった。
それまでに彼が妾にした暗殺者の数は16だそうだ。
少ないのは顔が気に入らないと領土の外まで追い出すからだ。
あくまで女は殺さなかったらしい。
彼の最後は悲劇的でも喜劇的でもなく、なんという事はない、普通に寿命で死んだという。

俺が読んだ感想としてはこいつ頭おかしいだろう！という事だ。
いわゆる度を超えた変態だったという事だろう。

(だがイカす！なんかかっこいい！！絶対に真似しないけど面白いと思う)

と、またこの本を読み終わると、時間になったらしい。俺を呼びに来た。

「レイン、時間だ。王女殿下のところに行くぞ」

「はい、わかりました」

とお父様と一緒に馬車に乗り込む。

「着いてくるのですか？」

とつい疑問を口にする。

「ああ、王様に用事があるからな
残念ながら私はお前と王女殿下のお茶会には出ない」

「そ、そうですか・・・」

本当に残念だ。

それからすぐに王城に着き、お父様と別れる。

王城御付きの侍女にこちらですと案内される。
案の定昨日と同じ場所だった。
ただ一つ違うのはそこには小綺麗なイスとテーブルがあった事だろう。

と、すぐにあちらもこちらの接近に気付いたようで立ち上がる。

こういう時は遅れたほうが先に話すらしい。

「ご機嫌麗しく、王女殿下」

と一礼をする。

「ご機嫌麗しく、レイン様」

とあちらも貴族の女性の礼をする。

「お待たせして大変申し訳御座いません」

「いえ、それほど待ってはいないわ。
丁度今来たところですわ」

(それ男女逆で言うべきだな)

と思いながら、頬をかく。

「そうでしたか、ただ女性を待たせるのは男の恥であります。もし次があれば是非とも私の方で準備をさせて頂きたく思います」

と慇懃な礼をしながら言う。

(次なんてないがな)

「あらお上手。本当に。






本当にたった5歳に子供のセリフかしら？」

そう彼女は俺に言った。