異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編

ノベルバユーザー202613

第45話 狂人と呼ばれようと

「ご機嫌麗しく、オリオン公爵様、レイン様」

と第二王女がそこに居た。

「これはこれは第二王女殿下!2日ぶりですな!あれからご調子は如何でしょうか?」

「はい、元々何かされたわけでもありませんので何も問題ありませんわ。
公爵様も私の捜索をしてくださって感謝申し上げます」

「いえいえ、臣下として当然の事をしたまで。
おお、そうだ!
もしこれからお時間があるのであればレインと少し2人でお話ししては如何でしょうか?」

と突然言い出した。
(いや、おお!そうだ!じゃないよ!
嫌ですけど!)
正直もう一生話さなくて大丈夫です。
「あ、あの、ちょ、ちょっと体調が芳しくありませんので」
「そうですか……。それはとても残念です」

とちょっと悲しそうな顔をした。

どうせそれも演技だろと考えると、げんなりしてくる。
最近のストレスの原因だ。
「レイン!良いではないか、少し王女様とお話しして来なさい。私はやる事があるから今日はどうせ帰れん。
お話しが終わったら乗ってきた馬車で帰れば良い」
とグイグイ推してきた。
公爵としてはこのチャンスを棒にふるわけにはいかない。

「では、王女殿下!失礼致します!」

といってさっさ帰ってしまった。

「さてと、では私もこれで失礼致します」
と踵を返す。

するとガッと腕を掴んできて
「いや君、今の話聞いてた?」
と言ってくる。
「はい、聞いておりました!
ですが私は体調が優れない為、出来ればお暇させて頂きたいのですが」
と帰ろうとする。
だが腕を未だに掴まれている為帰れない。

「いや君ね、幾ら何でも失礼じゃないか?」
俺も言っててそう思いました。
「これは申し訳ございません!王女殿下!ですが2日前に吐血したのは事実なのです。
先程陛下に呼ばれたばかりで疲れておりますので出来ればご遠慮させていただきたく思います」
と断固拒否の姿勢は崩さない。

「あくまで拒否するんだね……。
というか本当に5歳児とは思えない話し方するね」
「お父様に厳しく教えられましたから」
(お前にだけは言われたくない)
と思いつつ同意はする。

そもそも己を偽れないからこそ前世であんな事になったのだ。
誰にでもニコニコできて、己を偽り、それを演じ続けられるなら俺はイジメられてなどいない。

普段というほど何時もではないが、お父様や他の人の前だとちゃんと?やっていると思うのだが、それでも王女の前だと調子が狂う。
なんと言うか距離が近いのだ。

(ハッ!まさか外堀を埋められているか?)
いつの間にか外堀どころか内堀の中にまで侵入されそうだ。

「じゃあ気分が悪いなら僕の部屋にきなよ。座りながら話そう」
と誘ってきた。
「な、なんという事だ……」
とショックを隠せないでいる。
「ん?なんという事を、ではなくて?」

(前世で女性から言われたかった言葉ランキング第8位

今日私の部屋に来ない?

がまさかこんな所で言われるなんて……)
と愕然としていた。
だが王女は勘違いしたらしく
「いや、君はまだ5歳、いや僕はもう9歳だけど気にしなくていいよ」
とあらぬ疑いをかけてきた。
なんか複雑な気分だ。
「いえ、そのような勘ぐりは……」
気になんてしていない。
するわけが無い。
勝手にロリコンにするのはやめて欲しい。
ただこの身体になってから、綺麗なお姉さんとかを見ても何も思わなくなったというのはある。
それよりは可愛い女の子の方が……。
(いやいやいや待て待て待て、俺はロリコンではなかったはずだ!)
と悩んでいると、
「いやもういいから取り敢えず来なよ!」
と腕を引っ張られてしまう。
俺は
「うっ……」
とつい声に出てしまう。

パーソナルスペースというものをご存知だろうか?
すごい簡単に言うと他人に近づかれると不快に思う距離のことだ。
ここ最近いろいろあり、それなりに近づかれてもそれほど気にならなくなってきたのだが(因みに前世では2メートル位だった)、流石に他人に身体に触れられると不快というか不安に駆られるのだ。
中学生の頃や小学生の頃の菌つけゲームの的になったトラウマからもしかして実は相手は物凄く嫌がっているのでは無いか?
本当は嫌がっているのに仕方なく触っているのでは無いか?と気になってくるのだ。
わかっている。少なくともこの歳でそれは無いと頭では理解しているのだが身体が勝手に反応する。

幸い聞こえなかったみたいだがそれとは別に気になる部分がある。
それは王女がやるにははしたない行為のはずなのに後ろの侍女が何も言わない事だ。
というか腕が太く、身体も筋肉むきむきの女性がいるんだが……。
レベルも38と高レベだ。
流石王女の護衛。
因みにお茶会の時会った前任者は普通の女性だった。
レベル20もいってなく家柄で選ばれた感じだ。
この人は職業欄に冒険者がある。
しかも筋肉ムキムキなのになんか品がある。
なんというか様になっているのだ。
それなりの貴族を見てきたからわかる。
多分元貴族の家柄だろう。
と考えにふけっていると王女の部屋の前についてしまう。
「さてついた。では僕の部屋にようこそ」
と言ってドアを開ける。

中は子供らしく少し白よりはピンクよりの壁になっていて椅子や机などが子供に合わせて造られている。
恐らくは全ての家具がオーダーメイドだろう。
外の景色を見渡せるバルコニーもあり、王都一帯が丸見えだ。

「オマネキイタダキマシテカンシャモウシアゲマス」
とつい棒読みになってしまう。
「君ね〜、そろそろ泣くよ?」
「なんの脅しですか!?」
とつい大声を出してしまう。
「いや女の子が部屋に招いているんだから他に何かあるんじゃ無いの?」
と言ってきた。
(いやない)

多分これを見た人は俺調子に乗っているんじゃない?最近モテてきたからって……みたいな事を考える人がいるだろう。
断じて違うと言いたい。
(俺だって前世では俺を好きになってくれる女なら誰でもいいって考えていたさ。
美女でもフツメンでも取り敢えず俺の事を好きになってくれる女なら誰でもいいって思ってたさ)
王女がただの王女として俺の前に現れていたら俺も確実にときめいていた自信がある。
(こんな子が俺の……冒険者になるつもりなのに……、いやでも……)みたいな痛い思考回路になっていたはずだ。
可愛い笑顔で屈託無く愛想を振りまく姿にドキリとしていたと思う。

20歳の童貞でまともな青春を送れなかった俺から見ると身体を掻き毟りたくなるようないちゃいちゃ系ラブコメの主人公のようにプリムとの狭間で頭を悩ませていただろう。

だがここまで嫌がらせをされて喜べるほど俺はドMでは無い。
俺への愛の裏返しだ、と思えるほどポジティブ思考でもない。

俺ほどモテナイ男の考えとは、このチャンスを逃すと一生独り身かもという考えから付き合う〜結婚までが一括りであり相手を見る時はこの人と結婚したら……という考えになる。
まあここまでは流石に俺だけかもしれないが……。

(王女と結婚したら……ろくな事にならん!)
となる為出来ればご遠慮願いたいのだ。

「ハッ!大変素晴らしいお部屋かと思います」
と無難に返事をした。

「相変わらず淡白だね……。
まあいいや、座りなよ」
と言って子供用の椅子に腰掛けながら俺を呼ぶ。
「はい畏まりました」
と言い対面の椅子に腰掛ける。

「さてと、では話をしようか?」
と切り出した。

「はあ……、因みに僕の能力などは秘密ですよ」
と少しフレンドリーに話す。

「聞こうと思っていた事に先手を打たないでよ」
「いえ、もう慣れましたので。
駄目ですよ、教えられません」
「うーん、そうか……」
と少しガッカリした様に項垂れる。

「それとこちらから聞きたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
「うん?いいよ〜」
とさっきまでの項垂れていたのが嘘の様に軽く答える。

「ありがとうございます。
では、僕に何度か年齢についていっておりますが王女殿下の年齢も中々違和感があるかと」
転生者ではないとこの前結論づけた。
ならなんだ?

「ふふ、そうだね、自覚はあるよ。
うーん、人には偶に人として皮が剥ける瞬間があるというのは知っているかい?」

「はい、もちろん」
もちろん知っている。つい先日あったばかりだ。
俺自身が親の愛を知った時に人との繋がりの重要さを感じた様に。
他者と触れ合う事を恐れた俺が他者と触れ合う事の重要さに気付いた様に。

すると突然真顔になり、素人の俺でさえわかるぐらい纏っている雰囲気が変わる。

「僕はそれが4歳の時あったんだよ。
気絶するんじゃないかと思う程衝撃を受けた出来事があってね。
その時僕の“夢”が出来た。
それを目指そうとしてすぐに挫折した。
はっきりと目に見える形で出来ないことを証明させられた。
簡単に言うとね、才能がなかったんだよ。
だけどすぐに気付いたんだ。
なら次善の策があるって。
だけどその為にはそれ相応の努力が必要だった。
子供なんてやっていられなかったんだよ。
この喋り方だって君が思っているよりもずっとちゃんと練習したんだ。
それ以外の事だって努力をしても中々上手くいかないんからね。
無駄な時間なんて1秒だってない」
そう言って手を見せる。
手のひらに小さいタコが幾つも出来ていた。

「僕はこの通りその“夢”の為に出来うる限りの努力をしているつもりだ。
毎日気絶しながら魔力を空にして少ない経験値を貯めてレベルを上げている。
君は僕を狂人じみていると思うかな?
それでも一向に構わないよ。
普通の生活をしていて届きはしないのだから狂人になるしかないんだよ。
僕が目指しているものはそうでなければ決して届かない領域にあるのだから。
何をしてもどんな事をしてもそこに立つ」
と締めくくった。


「……」
俺は衝撃を受けていた。
今までただの嫌な奴だったはずの王女がまさかこんな事をしているとは思えなかった。

次の瞬間、フッと破顔して
「ここで一つ質問なんだけど君は掌にタコが出来ている女の子をどう思う?」

と聞いてきた。
「え?!あ、えっと、そうですね……、嫌いじゃないですね、はい」
ここまで必死に努力している人間を嫌う訳がない。

「ならいいんだ」
と笑った。

そこでまた一つ疑問が生まれる。
「あの、貴女の夢とは何なのでしょうか?」

知りたかった。そこまでして追い求めるものが何なのかを……。
前世の俺が20年かけても見つからなかったものだから。

「ヒ・ミ・ツ」
そう満面の笑みで言ったのだった。





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