異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編

ノベルバユーザー202613

第61話 海戦の直前

この作戦は一応隠密に行っている。

なので魔導師団長まで来られると王都に潜んでいる密偵にバレる可能性があるからだ。
時間があればレインが発見して根絶やしにしたのだが一刻を争うため彼は留守番になった。

「本当に素晴らしい魔力の奔流!
師にもこの光景を見せたかったです!」

「そ……そうでっか」

老人達が眼を輝かせて自分を見てくるのでさすがに引いてしまった。
俺は学生時代をかけて何か一つに熱中したことはない。
三国志も含めて専門家は言うに及ばず本気でそれを学ぶオタクにさえ負ける。
俺が彼らに勝てなくとも負けないのはあくまで妄想シュミレーションだけだ。
故に残念ながら彼らの気持ちはわからない。

因みに魔力の奔流とか言われても全くわからない。
彼ら独特の感覚器官でもあるのだろうか?

すぐに出て行こうとする彼らのうち副団長のリベルトだけを呼び止める。

「あのリベルトさん……」

と気になったことがあったので声をかけた。

「はい?なんでしょう?」

と彼だけ立ち止まる。

「あ、え、えっと……」
口に出しておいてここで少し聞くのを躊躇ってしまう。
だが気になったら聞くのをやめられない。

「あ、あの、いいのでしょうか?」

「何がでしょう?」

ここで一つ深呼吸をする。

「貴方方をこうした作戦に御呼び立てしてしまってよろしいのですか?」

ただ魔力を供給するためだけに王国で最も高い火力を持つ集団を呼んでいる。
言うまでもなく彼らにもプライドがあり、血の滲むような努力があり、積み重ねてきた歴史や名誉がある。

「ふ〜む……そうですな……」

と少し顔を顰めて考え込んでいる。

普通こんなこと聞かないだろ!って?
そら普通は聞かないだろ。

だけど俺は聞いてしまう。周りが自分をどう思っているのか気にし続けた俺はそれを聞いてしまう。
聞いたとしても、もうどうしようもなかったとしても言葉に出して欲しくなる。

「思う所がない、訳ではやはりありませんな」

やっぱりそうか……。

「嫉妬、というほどのものではありませぬが自分にない圧倒的才能を持っているものを実際に見るとやはり羨ましくもなりますとも。
自分にこの才能があれば、そう考えずにはいられないですな」

「そ、そうでしたか……」

気持ちは痛いほどわかる。
前世でも俺は頭のいい奴や顔がカッコいい奴を見る度に同じ様に思うからだ。
彼らほどカッコよければ。
彼らほど頭がよければ。
彼らほどの人付き合いの良さがあれば。
俺はいじめられはしなかったのではないか?
そう思わずにはいられない。

「すいま……」「ですがそんな事は些細な事ですな」

と俺の言葉を割って続けた。

「所詮は無い物ねだり。無いものは無いのですよ。それにそもそも私はこの道を全くとして極めてはおらん!
私は闇、水、風のトリオ、最高でレベル7。まだまだやる事はある。
嫉妬する暇があるのであれば一つでもレベル上げに邁進すべきだ!」

と途中から強く主張した。

「何故そんなに簡単に諦められるのでしょうか……」
そんな簡単には諦めきれない。
ないものはない。それは正しい。
だがそれでも手を伸ばさずにはいられないだろう。

すると顔を突然険しくして

「簡単に?簡単に諦めている様に見えますかな?
そんなはずはないでしょう!?」

と少し怒気を含んだ声で言った。

「す、すいません!失言でした。申し訳ありませんでした」

といって頭を下げる。

当たり前だ。少し、いやあまりにも言い過ぎだ。
そんな簡単に諦めている訳がなかった。

「いえ、すいません。私もつい怒鳴ってしまいました。
申し訳ありませぬ」

といって頭を下げる。

「い、いえ、今のは私の方が明らかに悪いです。そんなはずはないのに聞いてしまいました。
本当に申し訳ありませんでした」

明らかな失敗だ。失態だ。失言だ。

「いえ、レイン様はまだ子供ですからな。私もまだまだです。
それと何故簡単に諦められるか?ですかな?」

「それはもう……、いえ、はい」
断ろうかと思ったが一度聞いておいて相手から言おうとしているのに断るのは、もう十分すぎるほど失礼なのにそれに更に失礼を重ねる事だろうと思い、頷く。

「それは先ほどと同じですな。手に入らないとわかっているからですな」

「はい……」

「それと私には才能があってやる事、やりたい事も決まっているからです。
同時にやれない事も分かっているから、ですな」

それを聞いた瞬間ハッとした。

「なるほど……」

この世界と地球との一番の違い。
それはステータスだろう。
目に見える形で才能が見える。
だから諦めきれる。
見てすぐわかる。ないものはない。それが絶対であるこの世界だから諦めきれるのだろう。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

それにやはりまだまだ俺は子供だったみたいだ。
あの時からずっと心は子供のままだった。
だからこう呟いてしまった。

「大人だなぁ……」
「え?なんですか?」
「あ、いえ、すいません。なんでもありませんよ。また一つ勉強になりました。ありがとうございました」
「そうですか。それは良かった。では私はこれで。また日が昇る頃に」
「はい」

そう言って退出しようとしてふと立ち止まってこう呟いた。

「私は英雄も人であるとわかって少し嬉しく思いましたよ」

といって今度こそ出て行く。

すると今まで黙っていたコウが話しかけてきた。

「大人ですね」

「そうですね……」

そして夜が明け、日が出てくる。

また呼び出され、今度は船を隠すため霧を出す準備に入る。船の前後左右を鎖で繋ぎ、俺の乗っている船を霧の効果範囲より更に後ろにする。
ついでにまたこの船が入れるように真ん中だけは鎖で繋げず開けておく。

そして船団の中央から全体に霧が出るように演出する。別の船に積んである魔道具っぽい塊から発生したように見せかけるためだ。
この船だけ下がっても不自然なのだがそこら辺の誤魔化しは艦長達がやってくれる事になっている。

「では、行きます」

ここでまた深呼吸をする。

「偉大にして聡明なる水の神よ、この世に生けるもの全てを司りし心優しき神よ!我は希う!我等を付け狙いし者から其の大いなる羽衣で隠したまえ!
デンスフォグ!」

すると4キロ以上先からブワッとこの船以外の全船を包むように広がる。

「おお!素晴らしい!なんと美しい光景なんだ!」

とまたもやリベルトが興奮している。
だが今回はおれもわかる。
まさしく圧巻な光景だ。
霧でもう見えないが感嘆の声が中からも聞こえてくる。

俺が魔力遮断マントを着たのを確認した後霧の中にゆっくり入っていく。

「お見事ですな、レイン様」

「ありがとうございます」

リベルトを尊敬しかけているのでその人に褒められると少し恥ずかしい。


それから寝て、また日が落ちるまでこのまま動かずじっとする。
これを目的地に着くまで延々と繰り返す。

霧は周りから見えるがこの世界で海上に霧が発生する事は別段珍しくない。
魔力を目で見るスキルがある昔の学者曰く、海から大量の魔力が噴出しているように見え、それが集まり霧となる。
地上にも魔力が噴出する場所はもちろんある。例えばポルネシアには迷いの森という地上型のダンジョンがある。

このダンジョンは一度入り、入ってきた入口が見えなくなるぐらい進むと入った動物の死角の木の位置が変わる。魔力を吸った木が移動するのだ。
100メートル位ならなんとかなるかもしれない。
だが200、300と行くとほぼ確実に出れなくなるという凶悪なダンジョンだ。

海では霧がとどまり続ける(噴出し続ける)場所ではない限り半日もすれば魔力が散り、霧が晴れる。
なので突然霧に包まれたら船の錨を下げ停止し、霧が晴れるのを待つのが定石である。
大海原で下手に動くと周りに何もないため方向を見失いかねないし、船団の場合はぐれたり船同士でぶつかったりして危ない。

次の日の夜、メイからステータス移動の連絡があった。
第一陣の船が出陣した二日後に第二陣の船団が帝国を出港した。
数は300隻。

また予想よりも少ない。
だが大国の詳しい軍事事情など知らないのでそんなものだろうと納得する。

これを繰り返し3日が経った。
するとまたメイから連絡があった。
帝国の第一陣がポルネシアの近郊に到着したらしい。

そして帝国から更に200隻の輸送船が出撃したとの報告が来たらしい。

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