異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編

ノベルバユーザー202613

第81話 進軍理由

次の日の早朝、早速進軍を開始する事になった。

10列横隊でもまだ空きがあるくらいの大きな道をひたすら北に進軍する。

「オリオン元帥。そろそろ国境に入りますね」

移動時間ヒマだったのでお父様に話しかけてみた。

「そうだな。奴らがこちらに気付くのはいつ頃になるのかは分からんが3日とせず戦になるだろうな」

そうでっか。

やっぱ、戦は緊張する。今から胃がキュンキュンしてきた。
これだけだと本当にただの雑談になってしまうので気になることを聞いてみた。

「そうですか……。
ところで敵が布陣するならどの辺りが理想的だと思いますか?」

お父様の軍には決定的な弱点がある。これは敵も知ろうと思えば知れることでそこをつくような布陣をする可能性がある。
それが、「順当にいくなら城への立て篭りだろうな」だ。

やっぱりかー。まあそれが上策といえば上策だな。

「立て篭もられたら攻め落とすのですか?」
いやまあ、俺のバフがあれば何とかなりそうだけど……。
「こっちは三万しかいないんだぞ?
攻城兵器も持ってきておらんしな」

一応木で作ったはしごは持ってきているのだが、櫓などの大型の兵器は持ってきてない。
というかよく考えたら俺、この戦争の目的聞いてないんだけど。

敵を追い出すことか?この数で?
無理だろ。小国って言ったってチッポケな人間からすれば全然デカイ。

それとも諦めて陣取り合戦か?

わからないので聞いてみるか。

「あの、僕、この軍の目的聞いてないのですが、この軍は何のための軍なのですか?」

三万で出来ることってなんだ?

そう聞いた俺の質問にお父様は驚いた顔でこっちを見てきた。

「え?」
いや、聞いてないからわからないよ。

「そうか、知らなかったのか。
なら、考えてみろ。三万の軍勢でできることを」

わからないから聞いているのですけども。子育ての一環ですか。

「リュミオン内にいる敵の殲滅は……」
「無理だな」
もちろん即答だ。
「では、追い出すのも」
「もう敵がどこにいるのかもわからん。
それにいくら私でも三万、いや倍いたとしても15万以上の敵は相手に出来ん」
まあそれは想定内だな。
次、本命。
「リュミオン王国は諦めて陣取り合戦ですか?」
「それは、世にどう説明するんだ?」
「え?世に?」
「他の国にどう説明するのだ?」
他の国にどう説明するって……。
「リュミオン王国人の保護、ですかね」
王国の土地を手に入れてそこにリュミオン人を住まわせると言うのはどうだろう?
エルフの国と隣接する豊作が約束された地域が取れれば最低限の飯は約束されたようなものだ。

結構名案だろうと思ったのだが、お父様はまたしてもまだまだだな、という顔をして、
「他国はそうはとらんだろうな。
リュミオン王国との同盟よりも自国の利益を優先したように見えるだろう。
いいと言えばそれでも構わんし、最終的にはそうする予定だが、それをする為には理由がいる。それはなんだ?」

「理由……」

「わからんか?敵を追い出すのを諦めてエルフに近い領地をとる。それから?」

それから?それから……それから?
それから何だ?
そして、何とか一つの答えを導き出す。

「機を見計らってリュミオン王国を建て直す、ですかね?」
「正解だ。ならば後はリュミオン王国を立て直すのに欠かせないものがある。それは?」

立て直すのに欠かせないもの?

「大抵の国はそうだな。
もちろん我が国も」

……ああ!わかった!

「王様ですね!」
「正解だ。即ちこの軍の目的は」
「王族の保護?」
「そういう事だ」
なるほどなるほど。

「あれ?では、リュミオン王国は?」
どうするんだ?

そう疑問を持つ俺にお父様は真顔で単純明解な答えを言う。

「一度滅んでもらう」

「ほろ……!諦めるのですか?」

「ああ、どう見ても助けられん。
だが、今後の為にも王族だけでも確保しておく必要がある。この軍はその為の軍だ」
そう話す。
だが……。
納得はいかない。
心境も複雑だ。最初から諦めるというのは。

顔は面をしていて見えないが、押し黙った俺を見てお父様は、
「レイン、お前は優しい。
だが、守るべきものの順番を見失うな。
お前が今、大事にすべき事は我らポルネシア兵の目的を遂げさせ、どれだけ多くの人数を祖国の土を踏ませる事が出来るかだ。
わかったな?」

「わかり…ました」

複雑な気分は抜けないが理解した。そして納得もした。

俺にできる事をしろ、そう言っているのがわかった。

「後お父様。今の僕の名前はリドルです」
本名言ったら仮面をしている意味がない。
「揚げ足をとるな」
正論を言ったら怒られてしまった。

そうこうしているうちにリュミオンと国境線の代わりになっている大きな川、リベン川に到着する。
そこに掛かっている橋を渡り、とうとうリュミオン王国に到着する。

そこは……混沌としていた。
リュミオン王国はもうダメだ、とこちら側に亡命しようとしている人間で溢れかえっていた。

安易に国に入れるとスパイや工作員が大量に入ってくる可能性があるし、そもそもそんな大量に人を亡命させる事は出来ない。
結果、金を掴ませるなどの不正が横行……してるんだろうな〜。いや知らんけど。

そんな彼等がオリオン家の旗を見て、こちらに歓声を送ってくる。

「頑張ってくれー!」
「帝国の奴らをこの国から追い出してくれー!」
「公爵様!私達の国を救ってください!」
「オリオン公爵!万歳!オリオン元帥!万歳!」

そんな声があちこちから聞こえてくる。

心が痛い。

小さい子供もいるのに見捨てなければならない。全員を国に入れる訳にはいかない。この中の大半は占領された国で地獄を見る事になる。そう考えると泣きそうだ。

そんな俺の雰囲気に気付いたのだろう。お父様は

「無意味な同情はするな。どうしようもできない」
と厳しい一言をくれる。
「はぁい」
ギリギリのところで涙を抑えながらそう返事をする。

長い難民の横を進軍し続け、難民が途切れてしばらく経った頃に密偵から敵の布陣場所の報告が入った。

「元帥、報告します!
バドラギア、ガルレアン連合軍、この先五十キロメル先の平原に布陣し、我々を待ち受けております!」

平地?平地で待ち受けているのか?

疑問に思ったのは俺だけではないようで、お父様の腹心の一人、突撃隊長のバルドラは、
「平地だと?
ハッハッハ!奴らはアホですな!
よほど我らに叩き潰されたいようだ!」
と大笑いだ。
この人は強いのだが考えが単純だ。
お父様は冷静に、
「数は?」
と聞いている。一番重要な数字だ。
十五万とか言われたら即時反転、ポルネシアに逃げ帰らないと全滅してしまう。

「ハッ!敵数は合わせて六万強となっております!」

六万!?
こっちは三万。こちらの倍である。

「六万だと?」
お父様も疑い気味だ。
「ハッ!間違いございません!」

マジかよ……。

なんてこった……。

倍……。倍かよ……。

倍ってお前ら。

まさか、まさか。




高々倍程度でお父様を討ち取れるだなんて思ってないだろうな?


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