超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

牡羊のバトラーと魔剣ギガント

 巨大ということは無条件で強力だ。
 例えば、山で落石に巻き込まれたらと想像してほしい。
 石の大きさは、自分の体の2倍くらいだとしよう。
 避ける以外の選択肢はあるだろうか?

 剣で切断する?
 拳で砕く?
 魔法で弾く?

 それが可能な人間がどのくらいいるだろうか?
 大きいということは、シンプルに強い。
 バトラーの巨剣はそれほど厄介なのだ。

 「魔剣 ギガント」

 バトラーは言った。 おそらく、剣の名前。
 彼は、その巨大な剣を直接持つ事無く、宙に浮かせている。
 魔法……いや、それよりもシンプルな念力だろう。
 教会の幹部たちが自身の鍛錬を目的とした『人工ダンジョン』
 牡羊のバトラーのダンジョンに魔物が存在しない理由も、おそらくは彼の念力によるものだ。
 彼は魔剣 ギガントを自由に操るための鍛錬として『人工ダンジョン』を作ったのだろう。
 ただ、魔物を相手とした鍛錬ではなく、自分1人で念力の精度を高める事を目的にした鍛錬。
 そこには、魔物の必要がなかった。 ただ、それだけの話。

 「なんだ……ここには魔物がいないのか」

 僕は、そう言った。 
 意外だった。分の言葉とは思えないほど落胆が混じっていたからだ。
 見上げれば、バトラーは剣を振り下ろしている。
 けど、すでに僕は、その攻撃から興味を失っていた。

 (やれやれ、ドラゴンの言う通りだ)

 どうやら、僕は彼女の言う通り、戦闘中毒バトルジャンキーの要因があったらしい。
 ……いや、どうだろう? この世にダンジョンが生まれたのは、いつだろうか?
 少なくともダンジョン誕生の記録は有史に刻まれていない。
 もしかしたら、人類の誕生よりも前から存在していたかもしれない。
 だから、これは僕だけではない。 
 探索者が生まれて数百年。 脈々と血と――――遺伝子に刻まれたソレ。
 おそらく、僕ら人類にとって本能なのだろう。
 ダンジョンで魔物と戦う事が――――

 本能なのだろう。

 しかし、それを取り上げられた僕は――――俺は冷淡に、その言葉を発した。

 「破壊しろドラゴン」

 俺の横に立つドラゴン。彼女から発射されたのは深紅の閃光。
 魔剣ギガントを、バトラーを、そして空を貫いた。
 閃光の跡には、何もない。何も存在できない。
 それほど無慈悲な一撃が放出された。 もちろん、その威力は俺の予想通りだった。

 「あれも頼めるか?」

 俺は――――僕はドラゴンにもう1つ頼んだ。
 「はい! 喜んで!」とドラゴンは先ほどの閃光を口から吐き出した。
 破壊の対象は、バトラーの人工ダンジョン。
 彼が、どのような鍛錬で念力を高めたのかは知らない。
 知らないし、興味はない。 けど、それを――――その建物を視界に入れる事自体がたまらないほどに嫌だったのだ。
 だから、すっかり失念していた。
 呆然としていたインザンギとアンドリューが正気を取り戻し助言するまで忘れていた。

 「えっと、建物を壊してしまったけど……『聖遺物』は?」
 「……え? あっ!?」 

 この後、廃墟と化した建物から瓦礫を取り除くのに、時間が必要になってしまった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品