超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

『聖遺物』 救世主の鎧

 ダンジョンを疾走。
 そして逆走する間、ぽつぽつとドラゴンは語り始めた。

 「その鎧から魔力は感じませんでした。 それは全ての生物が発すると言われる僅かな魔力ですらなかったのです」
 「じゃ、あれは金属系のゴーレムですらないのか?」
 「サクラさんが言う金属系のゴーレムと言うのは、旧時代でいうロボットと同意語なのでしょう。えぇ、もちろん、ロボットではありません。 ロボットが動くための動力源、四肢に命令を与える電気の流れすら感知でみませんでした」
 「それじゃ、あの動く鎧の正体は? 何か知ってるみたいだけど?」

 しかし、ドラゴンは「……」と口を噤んだ。

 「そんなに、ヤバい奴なのか?」
 「えぇ、あれは聖遺物の類です」

 それは初めて聞く言葉だった。 

 「聖遺物? なんだそれ?」
 「現在と旧時代の間に救世主メシアと言われた人物がいまして……要するに今の教会の設立者と言えばいいでしょうか?」
 「教会か……」

 この世界には様々な宗教が存在している。
 ダンジョンで実際に悪魔の化身や天使に出会った探索者は数多くいるため、その上位の存在である『神』の存在を疑う者はいない。
 そして、殆どの国で建国神話が存在している。 
 我が国は神の手によって作られた。だから、我々は特別な存在なのだ。
 だから国は自国の宗教団体の教義を取り入れ、場合によっては国王自身よりも上の権力を教祖へ与える。
 その中でも……

 『教会』

 この世界で最も信者が多く、最も強い権力を有している宗教団体だ。

 「聖遺物とは要するに、救世主が死の間際まで身につけていた物。あるいは、死に直接的な関わりある物の事です。その血が内部へ浸透していき、それには『神秘』が染みつき、魔法とは異なる力を発揮するのです」
 「じゃ、さっきの鎧は救世主の鎧? でも、なんでそんな物がこんな所に? 貴重な物だろ?」
 「えぇ、世に2つとない物……神に選ばれた人間の遺品。間違いなく教会が管理していたものです」
 「なんだと! それじゃ……あの鎧は教会が持ち込んだ物って事か?」
 「おそらくは……間違いないでしょう」

 「……」と、あの鎧を思い出す。
 生物を液体にすると言われているが、それを目撃したわけではない。
 けど、あの膨大な水分を内側に溜め込み、人間のように動いて見せた。
 ダンジョンの天井を突き破って飛び去って行った。
 そして、それらの行動に一切の魔力を感知させなかった。

 一言で言えば、規格外

 「何のために? 教会はあの鎧を利用して、何をしようとしているんだ?」
 「さぁ? 私にはわかりません。ただ……」
 「ただ?」
 「神さまから送られた神秘———『聖気』とも言われる力が必要になっているという事ですね」
 「教会が力を欲している? いまさら、宗教戦争を起こすつもりか?」

 自分で言いながら、信じられなかった。
 教会は、もう不必要なほどの力を有している。

 「宗教戦争以外で規格外な力を欲する理由……ダメだ。僕にも思いつかない。それに……」

 前方からゴブリンが飛び出しきた。

 「話は祠を出てからだな」

 僕は短剣を振るった。 

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 光が見えた。 祠の外の光だ。
 ダンジョンの膨張も止まり、ただ広いだけの祠に戻った。
 これ以上、新しいゴブリンが誕生する事はない。
 しかし、ダンジョン化が止まったからと言っても、現存するゴブリンは消滅するわけではない。

 「時間がかかり過ぎた!」

 最後の一匹を切り捨て、出口へ―――

 そこには―――

 「久しぶりだな。サクラや」

 オム・オントが立っていた。
 ――――いや、彼だけではなく、トーア・サクラ捜索部隊の面々……

 それにキララが捕まっていた。
 いや、この感覚は―――クリムもいる。彼女もどこかで捕まっている。

 

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