超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ドラゴンVSクリム 決着

 
 『ブレーンバスター』

 四足獣に変化したクリムをドラゴンは―———
 地面から引っこ抜く。

 「はーなーせー」

 バタバタと四肢を動かして抵抗するも、虚しく―――
 クリムの体は地面に叩き付けられた。

 「もう一発!」

 ドラゴンは大人しくなったクリムの首根っこを片腕で掴んで持ち上げる。
 まるで猫を持ち運ぶように―――

 ブレーンバスター

 再び、地面に叩き付けられるクリム。
 もう動かない。

 「ありゃ、やりすぎちゃっみたいですね」

 立っているドラゴン。 倒れて動かないクリム。
 勝敗は決した。 ————そう見えた。

 「いいえ、私はノーダメージだよ」

 動こうとするクリムに対してドラゴンは―———

 「強がりを言っちゃって……あれ?」

 動きを止めた。
 何があったのか?僕から何も見えない。
 次の瞬間―――ドラゴンはクリムの体を蹴り飛ばした。

 その光景を見た僕は「ちょ……おい!」と慌てた。
 本気で殺すつもりか!と思ったのだ。 しかし―――
 蹴り飛ばしたのはクリムの鎧。 虎の形状になっていた真紅の鎧は砕け散って、中からクリムが現れ……
 現れなかった。

 「クリムがいない?」

 ドラゴンが今まで戦っていた四足獣と化した真紅の鎧。
 鎧である以上、中にはクリムがいると持っていたが……

 「隠れて、外から鎧を操っていた? でも、それじゃ、クリムはどこに隠れて?」

 僕は周囲を探る。視線だけではなく、魔力の流れを探る。
 それでも本体であるクリムは見つからない。

 「一体、どこに……」

 暫く、戦いが止まる。 やがて―———

 「そこです!」

 ドラゴンが飛び上がり、そのまま何もない空間に蹴りを放つ。

 (空振り? ドラゴンでもクリムが感知できないのか?)

 だが、そこにクリムがいた。
 地面から、ある物体が飛び出してドラゴンの蹴りを躱す。

 「あれは……」

 僕の記憶にあった。 あれは『魔剣 ロウ・クリム』短剣Verバージョン

 「地面に隠れて鎧を操っていたのですか。しかし、どうやって? 魔力なら私にもわかるはずですが?」

 ドラゴンの言葉を聞いたクリムは短剣Verのまま笑った。

 「アッハハ……魔力じゃないなら、答えは簡単でしょ?」
 「……『ギフト』を真似た。いや、私が前に見せた時から練習を?」
 「正解。やっと披露できたね。ギフト————

 『距離レンジ

 だよ。魔力を遠くに飛ばして物体を操るんじゃなくて、空間を捻じ曲げる事で距離なんて無関係で物体を操るギフトだね」
 「私を騙して、鎧で作った傀儡と戦わせるとは……『ギフト』こそが本当の切り札だったのですね。今回ばかりは見事でした。しかし―――」
 「ん~ そうだね。手品の種がばれちゃうと―———」

 「「真っ向勝負!」」

 「……しかないですね」とドラゴン。
 「……で決着しかないね!」とクリム。

 短剣Verを止め、人型に戻ったクリム。
 龍人化を止め、人型に戻ったドラゴン。

 「「よーいドン!」」

 で、両者ともに————

 拳を振るった。   


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 本当に肉体をぶつけあっている音なのだろうか?
 それを打撃音と呼ぶには信じがたく……けど、それは殴る音だ。
 2人の女性が殴り合っている。 しかし―――やがて時はくる。
 1人だけは自身の脚で歩いて闘技場から去り、1人だけは倒れたまま―———それが決着だ。

 そして、それは突然、来た。

 激戦と言えた2人の戦いは————

 それまでとは違い————

 ごく平凡な右ストレートが————

 敗者の頬を打ち抜いた。


 「楽しかったね」と敗者は―――ロウ・クリムは倒れ————

 「楽しかったですね」と勝者は―———ドラゴンは笑みを浮かべたままだった。



 

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