超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

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ドラゴンVSクリム その②


 2人の攻防は交わらなかった。

 衝突の直前、クリムが減速―———いや、違う。
 背中の羽を切り離した。クリムが減速していくのに比例して、炎の翼だけが加速。

 「この速度なら避けれないでしょ?」

 「————ッ!この!」とドラゴンは両手を振り回し、炎を削り取った。

 「でも隙ありだよ」

 間合いを詰めたクリムは魔剣をドラゴンの腹部に突き立てる。
 だが————

 「フン!」とドラゴンの掛け声で魔剣は弾かれた。

 「硬い! 腹筋だけで弾いた?」
 「伊達にエクササイズは欠かしていませんからね!」

 下から上に向かってドラゴンの脚が振り上げられた。
 縦蹴りがクリムのアゴを捕える。小柄なクリムの体が跳ね上げられた。
 その直後————クリムの両足が地面から浮き上がっていく僅かな時間―――ドラゴンは掌底を2つ放つ。
 クリムは無防備な状態で受け、弾かれたように横へ―———壁に衝突して、止まる。
 周囲には土煙が立ち上がり、クリムの倒れた姿を隠す。

 「おや、もうお休みの時間ですかね。歯ごたえがないと言いますか……」

 ドラゴンは最後まで言わなかった。
 いつの間にか背後に現れたクリムを察知。すぐに体を捻り背後にいるクリムへ裏拳を走らせる。

 「にゃー」

 と独特の気合と共に放たれた裏拳は————

 空振り

 裏拳を避けるようにしゃがみ込んだクリムは、そのまま下段回し蹴り。
 ダメージ目的ではなく、足払い目的。ドラゴンの両足を刈り取る。
 バランスを崩して、倒れるよりも速く————クリムは祈るように、両手を重ねて指と指を絡ませる———両手を振り上げるとドラゴンの腹部に叩き落とした。
 不意を突かれ、腹筋を固める間もなかったのか、「ゴッフっ」と空気の塊を吐き出すような声をドラゴンは漏らして、そのまま地面に激突。

 凄まじい勢い

 バウンドして浮かび上がるドラゴンをクリムは蹴り上げた。
 会場中の観客が見上げるくらいにドラゴンの体は上昇させられた。

 「これで……終わり!」

 地上に残るクリムに周囲から魔力が集まっていく。
 そして魔力が具現化した火球が数個……いや、どんどん増えていく。
 おそらく、数百を超える火球がクリムの周りを浮遊していて―———

 「……いけ…いっけえぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 クリムの叫びと共に空中にいるドラゴンに向けて発射させる。

 轟音

 何百という火球は真っ直ぐにドラゴンに向かい―――直撃。 そして―———

 爆発

 「まだ!まだ!」とクリムは『魔剣 ロウ・クリム』を逆手に持ち———

 投擲

 今だ、轟音を鳴らす爆破の中に―――ドラゴンに向けて投げ放った。

 「……やったか?」

 会場中がドン引きする中、クリムは警戒心を解かない。
 しかし、疲労は見るから激しく、荒々しい呼吸に両肩が上下している。
 やがて、上空では爆発も止まり、煙も消えていき————

 「流石ですね。クリムちゃん。人類がダンジョン最深部到達を目的として作った完成形。貴方なら私を倒せるかもしれませんね」

 ドラゴンが現れた。そして、こう付け加えた。

 「そうですね……少なくとも、貴方があと3人いたら、私は確実に負けていたでしょうね」

 だが、その体には明らかなダメージが見えて、強がりのようにも見えるが―———

 そうではないという事は僕は知っている。
 

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