超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

先鋒戦開始直前

 翌日、闘技場。

 強い風が吹いている。
 地下都市という特殊な場所柄、地上から流れ込んでくる風は収束され、強風になるのだ。
 強風が舞い上げるのは闘技場の砂。

 「……この風、血の匂いがする」

 乾燥した砂には闘技者たちの鮮血が染み込んでいる。
 それが不吉なものを感じた。
 試合開始まで残り1時間以上ある。 
 だが、すでに観客席は埋まっている。

 「たしか、3万人ができるんだったよな」

 闘技場のチェックに姿を現した僕を3万人が見ている。
 誰も声を上げず、誰も動かない。物音1つ聞こえてこない。
 彼らは自分たちの体内に渦巻く感情を抑えているんだ。
 戦いの始まりにあわせて、感情を表現するために……


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 そして、時間がきた。
 闘技場の中心。審判役に促され、6人が顔を合わせる。
 それぞれがそれぞれ違う反応。たとえば————
 互いに睨み合い視殺戦を行っていたり、意図的に視線を合わせていなかったり、そもそも興味がないように的外れな場所を眺めていたり―———
 並んだ順番がそのまま戦う順番だ。

 先鋒 キララVSゴドー

 中堅 ドラゴンVSクリム

 大将 サクラVSイスカル王

 僕等6人の間に審判役が立ちルール説明を行った。
 ルールは非常にシンプルだ。

 「先鋒戦は無手での戦い。武器の使用のみを禁止。 中堅戦と大将戦は先鋒と同じ。ただし武器の使用は許可される」

 事前の取り組め通りのルール。
 それを確認して、僕らは対戦相手に背を向けて、舞台の外に繋がる通路に戻った。

 「それじゃ、行ってくるよ」

 そう言ったのは先鋒戦のキララだった。
 彼女の服は変わっていた。
 今まで着ていたような、白い布を体に巻き付けていたような服ではない。
 東洋式の白い道着だ。 
 それは死に衣装であり、いつ死んでも構わないという覚悟の現れ。だから白い道着。 
 彼女はふり返らずに対戦相手が――――
 ゴドーに向かって突き進んで……

 「あっ、ちょっと待ってください」

 それを普通にドラゴンが止めた。

 「キララさん、忘れ物です。ほら!」

 彼女は指までピーンと伸ばした腕を前に出した。
 それを見た僕とキララは「?」と互いに疑問符を浮かべた。
 ドラゴンが何をやろうとしているのか、全くわからない。

 「サクラさんも何やってるですか。ほら、みなさん! 同じポーズを取ってください」
 「……おっおう?」 「……こう、こうですか?」

 僕とキララも言われるがまま、同じポーズを取る。

 「そのまま、私の手の上にみなさんも手を重ねるように置いてください」

 「一体、これに何の意味があるんだ?」と僕は聞いてみた。

 「これはですね。戦いの前に気合を入れる儀式です。いいですか?私が……と言ったら、御2人は……と続けてください。いいですね?」

 僕は頷いた。 戦いの儀式ならしかたない。

 「それではいいですね?いきますよ!」

 ドラゴンは音頭を取り、それに僕等も続いた。

 「ファイト!」

 「「一発ッ!!」」

 儀式と言うだけあって、内側からメラメラと力が湧いてくる感覚が確かにあった。


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