超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
敵襲? 謎の奇襲攻撃?
――――奴隷市場――――
白い布と木で組み立てられた天幕。
人が人を売りさばく空間には、不思議な活気が溢れていた。
地下という密閉空間に紛れ込んだ風は気まぐれだ。
時折、天幕の布を揺らし、内部をチラリと覗かさせる。
枝のように細い手足の女性たちに似つかわしくなく金属の鎖。
しかし、彼女たちに悲観のソレは見て取れない。
なぜなら、ここは奴隷都市。そこに希望も、夢も、自由の剥奪は――――
「……人が多いですね」とドラゴンの言葉。
僕は「どっちの意味で?」と脳裏に疑問符を浮かべたが、それを口にしなかった。
「客か、それとも奴隷か?」と口にするには、あまりにも――――
なんて言えば良いのか? そう……倫理に欠ける言葉なのだ。
「それにしても……」
奴隷市場から国力の高さを見せつけられた。
飴と鞭。 あるいはパンとサーカス。
体系的と言えばいいいのだろうか?
「古代ローマ形式ですね」
「ん?古代……なんだって?」
「奴隷と言っても、賃金が貰え、それを貯めれば自分で自分を買いなおす事ができる。さらには、高額での売買によって、奴隷を持つことが金持ちたちの地位の証明になっているから重宝され生活と安全は保障されている。そのため、奴隷でありながらまやかしの希望と夢と自由を見ている。なぜだか私が生まれた頃の言葉を思い出しましたよ。
――――意識高い系ってね」
「本当にどうして、急に思い出したのでしょうか」と笑みの裏側にドロドロとして感情を僕は感じた。
そんな僕らに近寄ってくる人がいた。もちろん、商人たちだ。
「いらっしゃいませ。どうですか? いい子が入ってますよ?」
まるで売春宿の客引きみたいだ。
商人の服装は天蓋と同じ素材でできたような服。
しかし、なぜだろう?他の商人と違って、フードを深くかぶり顔を隠している。
ソイツは、不快に感じない速度で間合いに入ってきた。
そのまま、強引に————けれども、暴力にならないギリギリの力加減で腕を掴んでくる。
まるで武道の達人のように洗礼された動きだ。いや、実際になんらかの達人なのかもしれない。
そんな彼に、僕の体が――――いや、僕の技が反応した。
ヤツの腕を振り解くために腕を回す。
「むっ!」
「ぬっ!」
彼は握力を緩めた。そのまま、僕の腕の動きに、自分の腕を合わせる。
(コイツ……振り解けない!)
右腕と右腕を合わせる状態。
詳しく言えば、腕相撲のように手を開き、腕を曲げた状態だ。
相手も同じ体勢。互いに自分の手首を押し当てる。
まるで話に聞いた中国拳法の組手だ。
不意に相手が動く。
右腕が横に強く押される。そう思った次の瞬間、ヤツの右手は拳に変わり、僕の顔面に向かって振るわれた。
僕は「ふん!」と気合を入れ、右腕に力を込めて攻撃の軌道を変えた。
(カウンター!)
僕は左の拳を叩き込もうとして、自然と前傾姿勢になる。しかし、それは相手も同じだった。
「「———————ッッッ!?」」
同時に前に出た事で突きの間合いではなくなった。
たまらず、後ろへ跳ねて間合いの確保へ動く。
だが、できなかった。
僕が後ろへ飛ぶ速度と同等の速度でヤツが前に飛んだからだ。
(なぜ? 組技か!)
しかし、組技ではなかった。
その腕は、着地と同時にコンパクトに折り畳まれ————猿臂(エルボ―)が僕の側頭部を叩いた。
グラリと視線が回転する。失われるは脚力の感覚。
————させない。
今度は僕は前に出る。倒れ込むように相手に抱き付くと、体重をかけながら脚を絡ませる。
相手の反応がいい。倒れまいと踏ん張る。だが、俺の腕は、その踏ん張る片足を刈り取る。
僅かな浮遊感。
2人の人間が地面と衝突する衝撃まで、僅かなタイムラグ。
その一瞬、僕の脳裏はある疑問に占められていた。
たとえば————
コイツが何者か? 何が目的で襲ったのか?
そんな平凡な疑問は、すでに消え失せた。
僕の疑問は―――
どうして、僕が頭部を押し付けているコイツの胸部から————
2つの柔らかな感触を確かに感じているのだろうか?
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