超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

逆城と城下町


 「よし入れ」

 門番の掛け声が合図なのか、扉が開いていく。
 誰よりも先に入ろうとクリムが走って扉を潜ってた。
 僕らはクリムの後に続く。 

 ――――奴隷都市イスカル――――

 その内部は……

 「なんだか高い建物がないね。人も……少ない」

 上がっていたテンションからクールダウンしたみたいだ。
 クリムは戻ってきて言った。
 ドラゴンもきょろきょろと周囲を見渡して――――

 「確かに変ですね。そもそも城下町のはずですが……城が見えません」

 大通り(メインストリート)の周辺に関わらず、店舗も少なく、見かける通行人もまばらだった。
 僕はその理由を2人に説明した。

 「奴隷商売で成り立っている国だからね。奴隷確保のために周辺各国に喧嘩売って、年中、戦争状態なんだよ」

 「なるほど。その結果、国がやせ衰えたわけですか。まさに自業自得ですね」とドラゴンは吐き捨てるようにいった。
 けど―――― 

 「いや、違うよ。国がやせ衰えたわけじゃない」
 「へっ?」
 「年中戦争状態だからね。地下に移したんだよ」

 僕は地面に向けて指を刺した。

 「地下に?何を移したんですか?」とドラゴンからの疑問を回答するために――――
 「あった。あった」と目的の場所を見つけて案内する。

 「? 誓え向かう階段。ダンジョンですか?」

 「いや、違うよ」と僕は先行して階段を下りていった。
 暫く降りると――――

 「ここが、本当の奴隷都市イスカルだよ」

 地下には巨大な城。まるで冗談みたいに逆さまになっている。
 そのまま逆城と呼ばれている。
 初代イスカル王が誕生した都市。旧来の城をそのまま地下へ遷都する予定だったらしいが……
 遊び心なのか、それとも権力の象徴である城を意図的に逆さまに移したのか……
 今となっては、誰もわからないらしい。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「わー すごい!」とクリムは駆け出していった。
 世にも珍しい逆城に興味をもったらしい。
 「あまり、遠くに行くなよ」と一応、声はかけておく
 クリムが危険な状態になるとは想像できないが、念のためだ。

 「無茶苦茶ですね。戦争のために城を地下に移すなんて……」

 ため息交じりのドラゴンの言葉だった。

 「そうだね。地下通路には敵を分断するように爆薬は仕込んでいたりしてるらしい」
 「むむむ。完全に戦争のために都市を改造したと……いや、首都まで攻め込まれたらその時点で敗戦が決定したものと同じという考えがありますが……確かに首都まで敵兵に攻め込まれ自決した王もいれば、首都に爆弾の雨を降らされても戦争を維持した王も同じ時代にいましたからねぇ」

 「ふ~ん、そんなものなのか」と僕は答える。
 ドラゴンの思い出話は、人間のものさしでは測れない。
 しかし――――

 「サクラさん、あそこを見てください」

 ドラゴンが促した先には――――

 「……布で覆われた簡易な店舗。市場だな」
 「……そうですね」

 この国で市場は――――

 奴隷市場しか存在しない。

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