超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

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イスカルの歴史

 「え? 奴隷都市なのに支配しているのはイスカル国王ですか? 結局、そこは国なのですか? それとも都市なのですか?」

 僕はドラゴンからの質問に返事を詰まらせていた。
 これから向かう目的地————

 奴隷都市 イスカル
 そして————イスカル国王

 都市なのか? 国なのか? その疑問は最もだ。
 奴隷都市というインパクト大のフレーズすら薄れるほどに……
 さて、僕が言い淀んだのは理由は複雑怪奇なイスカルの歴史にある。
 結論から言ってしまうと、

 イスカルというのは国と同時に都市でもある。

 元々、イスカルというのは都市の名前であった。 
 問題は、今のイスカル国王より三代前の国王。初代イスカル国王にある。
 彼は奴隷であった。そして、闘技場で抜き身の剣で切り合う闘技者グラディエイターであった。
 さてさて……
 古今東西、奴隷が王になる方法は1つだけだろう。少なくとも、僕には他の方法は思いつかない。
 それは————

 革命クーデターだ。

 初代イスカル王は闘技者を中心に奴隷を扇動して、都市イスカルを占拠。
 そのまま独立国家を宣言したのだ。
 こうして都市イスカルは独立国家イスカルになった。しかし、話はここで終わらない。
 黙っていないのは都市を奪われた国だ。仮にこの国を旧イスカルと呼ぼう。
 もちろん、都市を占拠された旧イスカルは怒った。怒り狂ったと言ってもいいだろう。
 怒りをそのままに、イスカルに向けて挙兵したのだが……
 結果、旧イスカルは大敗した。そのまま独立国家イスカルは快進撃を続け、旧イスカルの領土を吸収した。全てを吸収されつくされた旧イスカルはそのまま滅ぶ。

 こうして、最初の都市イスカルは都市として名前を残し、国名と都市名が同じという奇妙で歪な状態になってしまったそうだ。

 そう長々と説明してやると―――

 「Zzz……Zzz……」

 ドラゴンは首を前後左右に振り、座ったまま眠りについていた。

 「やっぱりな! だから説明するのは嫌だったんだよ!」

 ゴツンと拳骨げんこつをドラゴンに落とした。
 「痛いですよ」とドラゴンは涙目で僕を見上げる。
 もちろん、嘘泣きだ。 叩いた僕の拳の方がダメージが大きいに決まっている。

 「なんで私はだめなんですか!」

 ドラゴンは僕の背中を指差した。
 僕の背中には、クリムが抱き付いたまま眠っていた。中々、器用な睡眠方法だ。

 「クリムは見た目よりも実年齢は幼い子供だからな。ところでドラゴンさんは何千才でしたかな?」
 「ぬぐぐ……いくら、夫婦と言っても年齢を弄るのは……夫婦……夫婦って良い響きの言葉ですね!」

 ドラゴンはパッと目を輝かせた。そしてトロンとした視点の合わない目に変わり、頬を緩ませた。

 「おぉ……自分で言った言葉に酔ってる」

 ドラゴンが正気に戻るまで、少し時間が必要だった。

 「しかし、奴隷都市ですか。あまり、心地のいい名前ではないですが、その歴史をひも解けば、なるほど納得という気持ちに……」
 「いや、それなんだが……」

 実は、奴隷都市と言うのは建国者の立場や歴史からつけられたものではない。
 奴隷都市イスカル。そしてイスカル国。
 そこは現在進行で奴隷の売買が基幹産業なのだ。

 

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