超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

覚醒と作戦計画

 目を開き、むくりと上半身を起こす。
 室内。どうやらベットで眠っていたみたいだ。
 周囲を見渡すとドラゴンとクリムがいた。
 2人と目が合う。

 「……」 「……」 「……」

 なぞの沈黙。
 その直後、パニックのような騒音が起きる。

 「なんでサクラさんが起きているんですか!」
 「お父さんがっ!お父さんがっ!」
 「ちょ!錯乱するな。なんで2人共、武器を向けてる」
 「夫が道を違えた時、命を賭して清算するのが妻の務めです」
 「短剣を向けるな!そんな武器なんて持ってなかっただろ」
 「問答無用、ご覚悟を!」

 ドラゴンの瞬間移動と見間違うほどの突きを躱せたのは幸運。
 一生分の武運を使用したに違いない。

 「クリムも、ご乱心したドラゴンを止め……お前もか!?クリム!」

 クリムの周囲はゆらりとブレていた。
 空気のレンズを歪める熱量を有し、クリムは臨戦態勢を終えていた。

 「お父さん、お父さんがお父さんじゃなくなる前に、私がッ!!」

 一瞬の業火がクリムの体を包むと思ったのも刹那。
 真紅の鎧に身につけたクリムが現れた。

 「本気じゃないか、落ち着け。僕は正気だ」

 「ふっふっ、最初は皆そう言うのです。大丈夫です、サクラさん。痛みはありません」
 「地獄の業火は熱を感じる間もなく、墨になるのです、お父さん」

 「お前ら、この状況を楽しんでるだろ」

 こうして、2人を正気に戻すのに暫しの時間を使った。

 「うむ。つまり、グールに噛まれた僕を助けるために、僕の魂と肉体を断裂させたのか」

 「えぇ、東洋で習った反魂の術の改良版、離魂の術が使えたので」とドラゴン。
 離魂の術は使っても離婚だけは絶対にしません。そう続けた呟きも聞こえた気がしないでもないが、スルーしておこう。

 「でも、魂が吸血鬼に汚染されたのにかかわらず、なんでサクラさんは自我を有して、というよりもグール化してないんですか?」
 「そりゃ、僕の魂に入り込んだ吸血鬼側の魂を倒したからだよ」

 僕は夢の出来事は話した。
 荒唐無稽な話だ。何言ってんだ?コイツみたいな扱いをされかねない。

 「何言ってるのですか?サクラさん?」

 ……実際、言われた。

 「……と言いたい所ですが、実際にサクラさんのグール化は止まってますからね。一概には否定できない所がありますね。しかし、吸血鬼の吸血行為は食事であり、同時に魂の等価交換でもあるわけで、サクラさんは本体である吸血鬼に魂の一部を奪われた状態にあります」
 「つまり、結局のところは吸血鬼を倒さないといけないって話だろ?」 

 「えぇ」とドラゴンは頷いた。
 古今東西、吸血鬼に噛まれた人間が、グール化あるいは吸血鬼化した人間が元に戻る手段は1つだけだ。
 噛んだ吸血鬼を滅する以外の方法はない。

 「一時的にはグール化は防げたとは言え、これは私の知る限り前例のない話です。再発する可能性がある以上は倒さざる得ないでしょう」

 「だったら話、単純。お父さん、噛んだ吸血鬼を燃やし尽くす!」

 いつになく好戦的なクリムは話に入ってきた。
 今だに真紅の鎧を身に纏い、軽い準備体操も轟く音を上げる。

 「いや、気持ちは嬉しいけど、燃やし尽くしたらダメだろ」

 たぶん、昔話になぞられて吸血鬼を倒す作法として、心臓に杭を打ち込まないと、僕のグール化が完全に解けない可能性はある。
 「それにもう1つ問題が」とドラゴンが付け加えた。

 「もちろん、吸血鬼を倒すのは大前提ですが、問題はその吸血鬼の居場所がわかりません。
 グールが大量発生している以上、その場所が吸血鬼の陣地であり、領地である事は確かですが、大量すぎて吸血鬼本体の居場所を割り出すには……」

 「それは大丈夫だ。居場所はわかっている」

 僕は断定した。

 

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