超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

始まりの村と異変

 
 「……疲れた」 

 僕もつかれたが、疲れ果てて寝てしまったクリムをおぶって移動して、倍疲れた。
 せめて、魔剣バージョンに変身してくれれば、よかったのだが、現在のクリムは人間バージョンだ。

 あれから3件の村を見て回った。
 最初の村も合わせて4件の村が魔物がうろつくゴーストタウンと化していた。
 古いことわざには、君主危うきに……と高い知性と徳を有した人間は危険な場所に近づくものではない、注意喚起を促してくれる言葉があるが、もはや、そんな事を言っている場合ではなかった。

 「村の中に入り、調査しよう」と僕は言った。
 しかし、意外にもドラゴンに反対された。

 「危険です。ここは人間の捜査機関及び治安維持部隊への連絡を優先すべきでしょう」

 反論もでない正論である。
 しかし、問題は、この局面でドラゴンが正論を持って僕の行動を止めようとするところだ。
 そんな事は、今までなかった。

 「そんなにヤバいのか?」
 「……はい」 

 こうして、僕等3人は強引に村内へ入り込む。
 足を入れた瞬間に理解した。ドラゴンが僕を村内に入るのを止めたのか……を。
 そこには―――
 死体があった。ただの死体ではなく、動く死体。

 「これは……グールか?」

 人の体を残しながらも、魂を奪われ、動き続ける死体。
 通常の魔物とは異質。なぜなら、それは人を魔物に変える禁術にカテゴライズされるものだからだ。
 つまり―――

 「つまり、誰かが意図的にやったのか!」

 感情がうまく制御できない。生死観が歪んでいく。
 人は魔物を殺す。 人は生物を殺す。 動物を、植物を、そして人間は人間を殺す。
 僕等はそんな矛盾を孕みながら生き続けている。
 ならば、この感情もきっと、矛盾なのだろう。
 けれども、この感情は…… この怒りは、きっと……


 ―――翌日―――


 目が覚める。場所は、普通の部屋?
 「はて?」と僕は首を捻る。
 あの後……たしか……そうだ!
 近隣の村、まだ魔物に汚染されていない村を探して、歩き回り、ここにたどり着いたのだ。
 思いだすと、ベットから飛び起き、体を動かす。
 体の調子はいい。普段よりも体にキレがある。いや―――

 「これはちょっと……調子が良すぎるな」

 調子が良すぎるのも考えものだ。普段と違うというだけで漠然とした不安につながる。
 けど、僕は思考を切り替える。そのまま、簡単な身支度をすませ、部屋を出る。
 普通の家だ。少し広めの一軒家って感じだ。

 「さて、ドラゴンとクリムは……」

 僕は独り言を漏らしながら、家を歩き回る。
 家人の気配は……あった。
 その部屋の前に立つ。おそらく、中にいるのは2人ではないのだろう。
 残念ながら、部屋からは自己主張の強い2人の気配はしなかった。
 僕はそれでも扉を叩き、ノックをした。
 返事は―――

 「はい、どうぞ」

 返ってきた。老人の声だ。
 僕はそのまま、扉を開く。
 声の印象と同じ、小柄の老人が座っていた。

 「目を覚ましましたかな?探索者どの?」

 そう問いかけてくる老人に、少なくとも敵意は感じなかった。

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