コウガ編　完結

　
　「いいですか？私たちの使命とは何か？はい、ケロべロスくん、答えて」
　「人間どもを恐怖により支配して……」
　「はい！だめ！全然、違います」
　「……」
　「いいですか？私たちの使命とはなにか？そう、強者とし生まれ落ちた私たちには人を導く義務があります」
　「導く？それは…人間と戦う行為と真逆なのではないか？」
　「いいえ、違います。旧時代を知る我らは……いえ、旧時代によって生み出された我らは、人類がかつての栄光を取り戻すために……彼らを叩き上げる。それは、それこそが、人類への恩返しなのです」
　「しかし……それならば、我らは、いずれ人類に滅ぼされる事になってしまうのではないか？」
　「そうですね。でも生物ならいずれは死を迎えます。我々が有す死のリミットはどの生物よりも長い。そして、それは他ならぬ人類の手で設定されたものです」
　「なっ……なんだと！」
　「なんでそこで驚いているですか？過去にも何度か、話をしたはずですが？」
　「……いや、忘れるだろ？常識的に言って」

　どうやら、僕には理解できないレベルの話が進んでいる。
　それだと……

　「お前も、いずれは人の手にかかり死ぬ。それをお前自身が望んでいるのか？」

　僕は、つい……
　会話に口出ししてしまった。

　「え？」

　と2人は―――ドラゴンとケロべロスは呆けた顔になった。

　「いやぁ、その、死にません。ほら、私は、もうラスボスは辞めましたし……サクラさんを置いて死ぬわけないじゃないですか！」
　「そ、そうだぞ！人間。だから、ほら……な？涙をぬぐうがいい」

　……？
　あれ？僕は泣いていたのか？

　「おとうさん、どうぞ」

　僕と同様に無言で座っていたクリムがハンカチを渡して来た。
　「ありがとう」と礼を言って、目の周りを拭いた。
　結構な水分だったのは意外だった。


　・・・
　・・・・・・
　・・・・・・・・・


　「さて、そろそろ行きますか」

　あの後……
　「我もついて行くぞ！」と言い始めたケロべロスをなだめるのに苦労した。
　まずはダンジョン運営を基本から学びなさいとドラゴンからの追加説教を受けて、大人しくなったのだが……
　「ならば、先に行くがよい！必ず追いつくからな！」と最終決戦で主人公を先に行かせて敵の足止めをするライバルキャラみたいな言葉を残していたのが不安要素だ。

　コウガを後にする前、隠れて花屋と月屋の様子を覗いてみたが、龍神さまの再臨騒動で近寄れなかった。
　かぜの噂じゃ、本家と分家は再び１つになってコウガの鍛冶文化発展を目指すそうだ。
　毎年行われている奉納祭も、今年は加熱しそうだ。

　こうなってくると、フミさんから貰う予定だった防具１つの約束が惜しい気がする。
　いつか、貰いに来よう。そう静かに誓ってみた。

　「行くか。また騒がしい連中に見つかる前に―――」

　さて、次はどの国を目指すかな？