超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ケロべロスとドラゴンの関係

 
 ―――なぜだ―――
           ―――なぜ、脆弱な人間ごときに―――

 ―――負けねばならぬのだ―――

 これはケロべロスの思念。
 直接的な人間の声ではない。言うのではあれば、感情そのもの?
 それが周囲に―――人間に伝わるほどの怒り。

 それもそれはずだろう。
 ケロべロスが―――彼が、劣っている生物だと思いこんでいる人間に―――
 いや、まぁ、実際に劣ってはいるんだろうけど……

 僕が騎乗している事は彼にとって許しがたい屈辱に違いないと思う。

 ―――許さぬ、許さぬぞ、人間―――

 感情そのものが抜き身の刃に変形して、僕を切り裂いていくかのような錯覚。
 感情も、ここまでいくと……ってやつか。

 ケロべロスは感情のまま、背に跨っている僕を振り落そうとする。
 振り落す?そんな甘いものではない。
 高く飛び上がり、背中を天井に叩き付けようとする。左右の壁に衝突して衝撃で吹き飛ばそうとする。
 ……けど、できない。

 ―――なぜだ、体が動かぬ―――

 そりゃ、そうだろう。
 僕は呟いた。
 なぜなら、ケロべロスの片足には、『龍の足枷』がついているからだ。


 『龍の足枷』

 長い時間、龍の魔力を浴び続け、武器として変質したソレ。
 しかし、元の使い方は、その名前の通り……足枷だ。
 むろん、ただの足枷ではない。
 今は失われた旧時代技術である科学が現存していた時代。
 そして魔法と神秘が台頭し始めた時代。
 この2つの時代の交差した瞬間のみ、制作が可能だった足枷。

 それはドラゴンすら封印する事に成功したのだ。

 本来の役割を取り戻した『龍の足枷』はガッチとケロべロスの足に巻き付かれている。

 「……我をどうするつもりだ?人間?ヤツの眷属よ」

 最初、その声が誰かわからなかった。
 その声の主がケロべロスだとわかった瞬間―――「喋れたのか!お前!」と驚きの声を上げそうになり、抑えるのに努力が必要だった。

 「僕は、どうもしないよ」
 「なに?」
 「何かを、しようとしているのは彼女さ」

 ケロべロスの視界はどうなっているのか?
 背中に跨っているはずの僕が指差す方向を正確に視線を向けた。

 「……?あの女、何者だ?」

 ケロべロスは、ドラゴンがドラゴンだとは気づかないみたいだ。
 するとドラゴンは―――

 「やぁ!ケロちゃん数千年前はメンゴメンゴ!ほら、借りパクしたマンガ、返しにきたから許してよ」

 その露出度の高い服装のどこに入れていたのか、何やら書物を取り出した。
 対してケロべロスは―――

 「……」

 と停止していた。
 暫く待つと―――

 「貴様!眷属ではなく本人か!?」
 「そーだよー、おひさだね!」

 ドラゴンは人間バージョンを止め、ドラゴンバージョンとやらに変化した。

 所々で悲鳴じみた声が上がる。

 「りゅ、龍神さま……まさか、そんな!」
 「降臨されなさった。降臨されなさった!」
 「本物か、いや本物だ!ありがたや、ありがたや!」

 見れば、まだ逃げ出さず現場に残っている鍛冶職人の悲鳴だった。
 まさか、自分たちとダンジョンに潜ったメンバーの中に自身が信仰している神がいるとは思ってみなかったのだろう。
 発狂したに等しい信仰心を発揮して、拝んでいた。
 当のドラゴンはそれらを気にした様子はない。
 それはケロべロスも同じだった。

 「お前が噛んでいるのは眷属の気配からわかっていたが、まさか自ら紛れ込んでいたとは……気づかなかった時点で我の負けだったか」
 「ん~まぁ、1つだけ修正したんだけど」
 「なんだ?」
 「今、ケロちゃんに跨っている彼―――サクラさんの事を眷属、眷属ってケロちゃんは呼んでるけど、サクラさんは私の旦那さまだよ!」
 「なっ!お前!結婚したのか!?それも人間と!」
 「うん、式はまだだから、決まったら連絡するね」
 「おっ、おう……まさか、それを伝えるために来たのか?」
 「それもあるけど……」

 あるのかよ!と思わず僕は突っ込みの声を上げた。

 

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