超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

VSケロべロス

 「なっ!」と叫んだのは誰だろうか?
 もしかしたら、相対しているケロべロスの声だったのかもしれない。
 ケロべロスの魔法。氷属性、炎属性、雷属性の3種が交じり合った極限魔法と言えるそれを―――
 僕は簡単に弾いたのだ。

 人類最強の武器『龍の足枷』

 その巨大な鉄球部分は、現存するどの防具よりも強硬な物質だ。

 ケロべロスは僕を敵だと認めたのか、三頭六つの目がギロリと睨み付ける。
 続けて大気が揺れる。 
 周囲の存在している極小の魔力すらケロべロスは吸収していく。
 ケロべロスの口からは、冷気が、熱気が、稲光がそれぞれ漏れ出して、さらなる魔力を練っている。
 ラスボスが繰り出す本気の一撃。

 それが来るという確かな予感。

 もはや、揺れているのは大気だけではない。
 ダンジョン全体が緊急事態を示すように、あるいは悲鳴をあげるように激しく揺れ始めた。
 僕は、なんとなく……今朝のドラゴンの言葉を思い出した。

 「3割の力で、町どころか国に大打撃を与えれる……だったかな?」

 おそらく、ケロべロスの魔力はドラゴンの全力に近いレベルなのだろう。
 3割で国に大打撃?だったら、全力はどのくらいの規模だろうか?
 想像すらできない。……いや、想像する必要もないか。
 すぐに実物を目撃する事になるのだから―――

 そして、それは来た。

 刹那の時間すら満たない僅かな瞬間。
 襲い掛かってくるのは高密度の魔力。
 知覚することすら困難であり、単に攻撃と呼ぶには別次元の一撃。

 僕は、それを――― 
 俺は、それを――――

 撃ち返した。

 狙いはもちろん―――このダンジョンのラスボス ケロべロス自身だ。
 自らが放ったはずの、最大火力を全身に浴び、ケロべロスは苦しみの声すら出せなくなっている。
 立ち昇るのは魔力3種の色。
 それが消えるよりも―――

 速く

 そして、高く

 俺は飛び上がる。
 狙いは、ケロべロスの横顔。 各々、苦しんでる三頭を―――

 「まとめて打ち抜いてやる!」

 そして有効射程距離……1メートル圏内到達。

 「行け!龍の足枷ドラゴンシールウウウウゥゥゥゥゥゥ!?」

 確かな手ごたえ。その直後、倒れ行くケロべロスの姿。

 それを見た鍛冶職人たち。何人かは逃げ出し始めた。
 このタイミングでなぜ逃げ出すのか?
 それは、きっと、生存本能から来る逃走ではない。
 おそらくは『龍の足枷』……
 武器、あるいは防具の完成形を目の前に見せられ、鍛冶職人の本能を揺さぶられたのだ。
 彼らの覚悟は僕にも伝わってくる。自分の代では不可能でも、後世『龍の足枷』に比類するものを作ってみせるという誓い。

 俺は―――いや、僕は小さく笑った。
 このためか?このためにお前は悠々と戦闘を見学していたのか?
 僕は壁の寄り掛かっって微笑んでいるドラゴンの方を見た。

 ドラゴンの口は、こう動いた。

 「さて―――そろそろ、仕上げの時間といきますか」



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