超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

地獄の番犬

 その声は地の底から聞こえてくるようにな呪いの声だった。 


 ―――憎い―――

       ―――人が憎い―――

               ―――アイツを祭る人間が憎い―――

 臭気が立ち込めてくる。
 まるで真冬の川に投げ込まれたかのように体が寒さを感じ、震え始める。
 出てくる。なにか、よくないものが……
 「皆、逃げろ」の一言が出てこない。
 そして、それは現れた。


 ―――ケロべロス―――

 地獄の門犬と言われ、三頭を持つ巨大な犬。
 それぞれの頭は『未来』『現在』『過去』と時間を表してるとも、『保存』『再生』『霊化』を表してるとも言われる。
 間違っても、こんな階層に登場する魔物ではない。
 このダンジョンの最下層で、待ち受けるべきラスボスのはず・・・・・・

 その姿を見た途端に体が動かなくなった。
 まるで魂自体が捕まったかのように体も、意識も、思考すらも停止させられた。

 「あっあ、あ、あ、あっ……」

 嗚咽のような声が漏れる。
 それが他者の声か、自分の声かはわからない。
 恐怖に縛られた。それに対するのは勇気だけだった。

 「に、逃げろ」

 なんとか、それだけを口にする。
 もしかたしたら、探索者である僕より、鍛冶職人の方がラスボスに対する恐怖心が薄いのかもしれない。
 それは劇的な効果があった。

 「うわぁあぁぁ!?逃げろ逃げろ逃げろ!」

 その場にいた全員が発狂したかのように、同時に走り始めた。

 しかし、できない。

 地獄の門番は逃走すら許さない。
 前足を地面に叩き付ける。
 ただ、それだけだ。それだけで地面は激しく揺れ、全員がバランスを崩す。


  ―――逃がすと思ってか、人間風情が――― 


 全滅。

 その2文字が頭を過ぎる。
 僕は、その絶望から抗うようにケロべロスの方を向く。
 一撃――― 
 例えラスボス相手であろうと『龍の足枷』を放てば―――ダメージくらいは与えられるはず。 

 覚悟が決まると、縛るものが消滅したかのように、体は軽さを取り戻した。

 
 ―――奴の臭いがすると思ったら―――  ―――貴様、奴の隷属、祝福者か―――

 ―――憎い―――  
           ―――憎いぞ、人間―――


 僕はケロべロスの……いや、敵を見上げる。
 三頭の部分、それぞれが魔力を帯びていく。
 それぞれに『炎』『氷』『雷』の属性魔力を感知する。
 むろん、その全てが規格外の魔力量。

 そして、それは放出された。  

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