超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
VSゴーレム戦
―――3層―――
「奴がきたぞ!助けてくれ!」
狭い通路から飛び出して来たパーティメンバーが各々叫び、作戦の失敗を伝える。
僕は「作戦は失敗か」と苦々しい表情を消し、平常心を保ちながら、ヤツの侵入を待ち受ける。
やがて、通路の端を巨大な手が掴み、次に石造りの巨顔を奴は覗かせた。
敵はゴーレムだ。
石でできた巨体。サイズは人間の3倍ほどか?
知能は低く、魔力を持たない。
だが、その質量から繰り出される打撃は、非常に強力であり、易々と人間の体を叩き潰す。
それ以上に厄介なのは、並外れた耐久力。
要するに、とてつもなく頑丈なのだ。
弱点は体のどこかに隠された刻印。
『真理』を意味する言葉を刻まれた印を削り取り、『死』の刻印へ変化させる。
これが、ゴーレムの基本的な倒し方だ。 有名な魔物だけあって、弱点も有名だが……
巨体のどこかに隠された刻印を戦いながら探すなんて、困難な相手に間違いはない。
いくら野生のダンジョンだからと言っても3層で出てくるレベルの魔物ではない。
シュット学園内ダンジョンで行ったら、10層クラスの中ボスか?
最初にゴーレムの存在に気づいて、僕は作戦を立てた。
パーティメンバーは僕等3人を除くと、全員が鍛冶職人。
戦闘能力が低めなのはしかたがないとしても、問題は装備だった。
この日ばかりは!と皆の装備は自慢の一品。
結果、普通の探索者でも、中々、装備として手を出せない大型の武器が大半となっていた。
全員がアタッカー。そんな歪なパーティなのが現状。出発前に、誰も気づかなかったのか?
全員が横一列になって、武器を振るえば、相手が巨大なゴーレムであっても有効打を繰り出せはするのだろうが、そんな危険なプランを実行するわけにもいかず……
僕が立てた作戦は至ってシンプル。
狭い路地に誘導して、ゴーレムの攻撃を制限させて叩くというのものだった。
しかし、作戦はご覧の通り。大失敗だ。
ゴーレムは狭い通路なんて関係なかった。
自身が前に進むだけで、狭い通路を広い通路に拡張工事をやってのけた。
通路を抜けたゴーレムは、その巨体を見せつけるように威嚇してくる。
そして、逃げ遅れたパーティメンバーにターゲットを絞り始めた。
大きなモーションで腕を引き、そのまま横薙ぎの一撃―――ラリアットだ!
ターゲットに選ばれた鍛冶職人は、命と見立てたはずの武器を捨て去り、逃げ出した。
だが、間に合わない。
……誰もが、そう思ったはずだ。
「ここだぁ!」
僕の怒声が響く。ゴーレムの側面へ移動した僕は全力疾走で駆け抜ける。
狙いは仲間を襲うとするゴーレムの腕自体。
僕は、加速させた体を飛翔させると、ゴーレムの拳へむけ、両足による飛び蹴りを敢行した。
人間を殴り潰そうと振るわれていたゴーレムの拳は、僕の蹴りで軌道を変えられ、さらには強引に加速させられる。
結果、ゴーレムの拳は仲間の目前を通過した。
それだけではく、加速させられた自分の剛腕をコントロールできず振り回される形になる。
ゴーレムの体は半回転して、そのまま背中から地面に倒れた。
その巨体があだになり、起き上がるまでの動作は、かなり遅い。
「よし!このまま、刻印を探せば……」
僕は最後まで言葉にしなかった。
なぜなら視線の端で走ってくる人影をとらえたからだ。
この状況で笑顔で走る人物を、僕は1人しか知らない。
いや、果たして幻想生物のラスボスを1人と『人』という単位で数えていいのか?
彼女は―――ドラゴンは、笑みを浮かべたまま、叫びだした。
「今、必殺のおぉぉぉぉぉぉ!」
そのまま、起き上がろうとしているゴーレムの顔面に前蹴りを放った。
1撃目――――
ドラゴンの靴裏を受けて、ゴーレムの顔に亀裂が入る。
2撃目――――
今度はゴーレムの頬が砕け落ちた。
3撃目――――
人間で言えば下顎の部分が、はじけ消えた。
そして、4撃目は―――
ドラゴンはバックステップで大きく距離を取り、十分すぎるほどの助走をつけてから――――
「顔面ウォッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!」
再び放たれたドラゴンの前蹴りでゴーレムの顔面は完全に粉砕された。
人間の形を失った事で、その役目を成就したのか、ゴーレムだったモノの後には土と泥の塊が残っただけだった。
「……いや、刻印は?」
ゴーレム退治のセオリーを無視した倒し方に、僕ができたのは、そう呟くだけだった。
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