超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

月屋の内部では

 目の前の武器&防具の専門店

 『月屋』

 『花屋』の正面。メインストリートを挟んでの距離。
 数十秒もあれば到着する場所だった。
 フミさんから探究者としての依頼。所謂、お使いクエストってやつだ。

 「頼む!お礼は、私が特注のオーダーメイドで一品、プレゼントって事で!」

 むむむっと悩んだの一瞬だった。
 僕等は暇人だ。この町に来たのも、祭り見物じゃなく逃亡のための選択肢の1つだった。
 やる事はダンジョン探索のみ……いや、それだと、探索者本来の目的なわけだが……

 興味本位の方が勝ったのだ。
 『月屋』の印象は……綺麗だ。
 なんだろう?職人や探索者が訪れるよりも高級な宿泊施設みたいな印象。
 実に入り難い。

 「こんにちは」とおそろおそろ、扉を開けると―――

 「「「いらっしゃいませ」」」

 複数の声が重なって伝わってきた。
 驚いて、反射的に仰け反る。
 声の次に感じるの視線。 身なりを整えた店員達がこちらを笑顔で見つめてくる。
 正直……居心地の悪さがある。
 それから逃げるように商品に目を向ける。

 「……なんだ?これ?」

 それはただの鎧だ。そのはずなのに違和感があった。
 なんだ?この違和感は?
 暫く観察してみる。 そして、違和感の正体に気がついた。

 「何か、お探しでしょうか?」

 近くにいた店員が話しかけてきた。
 もしかしたら、客が一定時間、商品を眺めてリアクションがなければ、声をかけるマニュアルがあるのかもしれない。

 「いえ……あの、この棚の商品は?」
 「ハイ!月屋特別鎧ですね。お客さんサイズは?」
 「え?サイズですか?鎧なのに?」

 僕は驚いた。
 本来、鎧のサイズは一定だ。手に入れた鎧は後から職人の手で持ち主の体に調整するのが普通。
 体が大きな人や、逆に小さい人は特別に素材から体を合わせて作るってのはある。
 他には、シュット学園の生徒のように成長期を見越して、大き目のサイズを購入する親もいるが……

 「えぇ、我が『月屋』は、予めお客さまのサイズの鎧を大量生産してコストを減少させ、値段を抑えているのです」
 「そうなんですか、そう言えば確かに値段は相場よりも安いですね」

 「お褒めに与り光栄です」と店員は深々と頭を下げた。
 武器&防具の店で、こんな対応をされたのは初めてだ。
 というか、他にこんな店は存在しないんじゃないのか?

 居心地の悪さと言うか……ストレスががが……

 「あれ?」

 そこで僕は気づいた。それは店の広さについてだ。

 「どうかなされましたか?」と店員。

 「いや、もしかして、この店って鍛冶職人がいないんじゃ?」

 そう『月屋』は『花屋』に比べて広すぎた。 鍛冶のスペースが存在していない。

 「はい、その通りでございます。当店では、専門の工場を持っておりまして、お客様の体に合わない時は、コチラでも最低限の対処させていただきますが?」
 「……工場ですか?」

 本当に、ここは武器&防具の店なのだろうか?
 僕は『月屋』に、そんな印象を抱いたのだった。

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品