超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

町の事情と対立

 物陰から様子を窺う。
 複数の人がいがみ合っているのが見えた。
 どうやら、ただの喧嘩ではない。
 その理由は、僕たち以外に多くの視線を感じるからだ。
 その視線の主たちは建物の中から隠れて、僕らと同じく様子を窺っている。
 周囲の建物は、説明するまでもなく、すべてが武器&防具の店だ。
 奉納祭で忙しいはずの職人たちが手を止めて、喧嘩(?)の様子を覗いている。
 ただの喧嘩のはずはない。
 たぶん……職人同士の縄張り争い…みたいな?
 観察を続けて分析してみる。

 1対1の喧嘩ではない。
 集まった集団から始まった、いがみ合いでもない。

 どうやら、グループ同士の―――2グループの戦い。

 僕から見て左側のグループは―――女性が仕切っている?
 20代?まだ若そうだ
 着物……いや、ハカマか。上半身は薄いインナー。その上に黒いチョッキ。
 長めの黒髪を後ろでまとめている。
 よくよく見れば、腕に小さなやけどが複数。
 たぶん、彼女自身も職人―――鍛冶屋なのだろう。
 彼女の左右に大きな男が立っている。
 まるで双子のように似ているように見えるが、たぶん違うのだろう。
 この三人が左側のグループの代表か。 他は、鍛冶職人なのだろう。

 対する右側のグループは……ほぼ全員が探索者?
 探索者ではない人間は……おそらく2人。
 1人は中心にいる優男だ。舞台役者でもやっていたほうが似合っていそうな感じ。
 こちらも20代くらいかな? 格好も派手めで、体にフィットしている衣服だ。
 彼の表情には緊張が見え隠れしている。こんな荒場にいるような人物ではないのだろう。
 その背後には初老の男。何度か、優男に耳打ちをしている。
 なんとなく怪しい。たぶん、あの男が優男をそそのかしているんじゃないか?
 そんなことを考えていると――――

 「本気なのかい?テツ?」

 左側のグループの代表である女性が喋った。
 おそらく右側の代表である優男の事だろう。
 テツとやらは―――

 「ボクは本気だよ」と若干、裏返った声で叫んだ。
 そして、こう続けた。

 「フミちゃん、ボクは今年の奉納祭でフミちゃん……いや、5代目文左衛門に勝って、6代目を継ぐ!」

 5代目文左衛門?6代目? なんの話かまるでわからないが、テツの声で周囲の空気が変わった。
 一触即発状態だった両グループは、殺気だったものが消え失せ、代わりに動揺のようなものが見て取れた。

 「あんた、言ってる意味わかってんの?」

 左側の代表―――フミもまた、呆れた表情で言った。
 しかし、テツの方は、逆だった。
 さっきまでオドオドとした頼りなさは消え、覚悟を決めたかのように真っ直ぐ彼女を見つめていた。

 「もちろんだ。分家である僕が君に勝って、本家を継ぐ!継いで見せる!」

 一方の彼女は、「やれやれ、やっぱりわかっていないのかい」と首を横に振った。
 周囲も彼女を同じような表情だ。

 「いいかい?アンタが本家に入るって事は、私と……まぁいいや。どうせ、アンタに負けないから、私は」
 「なっ!いや、僕が必ず……」

 彼女―――フミは、テツの言葉を最後まで聞かなかった。
 ずらずらと職人たちを引き連れて、近くの建物に入って行った。

 建物の名前は『花屋』 デカデカと鉄板の看板が乗せられている。
 花屋と言っても花を売っているわけではないだろう。
 武器、防具が所狭いと外まで並んでいる。
 僕が花屋を覗いていると―――

 「アンタ、さっきから見てたね。お客さんかい?」

 建物から、ひょっこりとフミが顔の出した。 


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