超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

少女には殺意がよく似合う

 アリスの手から奪い取った薬品は投げ捨てた。
 そのまま、倒れようとしているアリスの体を受け止める。
 アリスの体はガクガクと震えている。 目の焦点は合っていない。
 どう見ても尋常ではない。
 やっぱり、毒だ。
 どうする?体に注入した毒を吐き出させるわけにはいかない。
 有効か? 僕はバックバックから毒消し専門の薬品を取り出す。
 未知の薬品を打ち込んだ直後に、別の薬品を打ち込むのは危険だ。
 けど…… 何もしないよりは……
 よし! 覚悟を決めた。

 アリスの首筋に、毒消しを打ちこ……

 がっ!

 できなかった。
 打ち込む直前、腕を掴まれた。
 誰に? この場には僕以外に1人しかいない。

 「なっ、アリス!?」

 ――ミシッ―― ――ミシッ――

 と骨が軋む音まで聞こえてくる。
 アリスの細腕で? こんな力があり得ない!?

 だが、しかし、けれども、あり得ない事は続くわけで――――

 投げられた。
 そう気づいたのは投げられた後からだ。
 体勢を崩す、武道武術の投げではない。
 単純に腕力で! それも片腕で放り投げられたのだ!

 背中に衝撃。 長椅子に叩き付けられ、破壊された木片が宙に舞う。
 痛みは持続する。どうやら、叩き付けられた衝撃で背中に尖った木片が刺さっているみたいだ。
 それを強引に引き抜き、僕を投げた相手を見上げる。

 「――――ッッッ!?」

 その驚きは、うまく言葉にできなかった。
 何が起きているのかも、うまく説明できない。
 ただ、変化が起きている。 アリスの体に変化が起きていた。
 まるで卵……あるいは繭か?

 何かは、よくわからない。
 橙の光を灯す半透明の物体にアリスは包まれている。
 透けている向う側にアリスが見える。
 目を閉じて眠っているかのように見える。

 たぶん、僕はまちがえていたのだろう。

 『ただ、変化が起きている。 アリスの体に変化が起きていた』

 いや、違う。 変化はこれから起きるのだ。

 不意にアリスの目が開いた。
 目と目が合う。 しかし、感情は伝わらず。
 崩壊が始まった。
 アリスを覆う橙の物体に亀裂が入る。
 そう思うと、次は一瞬だった。一瞬で、繭だった物が弾け飛んだ。

 「これが答えです」

 何か音がする。

 「魔剣ロウ・クリムの所持が私に許されたのは、それ以上にダンジョン探索に有効な手段が見つかったからなのです」

 たぶん、声? これは声か!

 「魔剣の魔力を外部へ抽出してできた高濃度の液体を人体に注入する」

 ようやく、それが、アリスの声だと認識した。
 アリスの変わり果てた姿に、その衝撃に―――
 魂を持って行かれたかのような感覚に陥っていたのだ。 

 「すると、どんな平凡な人間でも上位の探索者を超える数値を弾きだしたのです」


 彼女は飛んでいた。
 背中には巨大な羽。炎でできているにも関わらず、天使のような神々しさ。
 神々しさ?  そうだ、天使のようであり、同時に死神のような神々しさだ。
 彼女の両手は、羽と同じく炎で覆われていた。
 神々しくも禍々しい両手。 まるでオーガの手だ。


 僕は理解した。 
 この姿をもって、彼女は僕を殺すつもりなのだと。

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