超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

「人の王」 対 「英雄」

 地面に叩き込んだ『龍の足枷』は周囲に爆発のような衝撃を巻き起こした。
 衝撃によって巻き上がったのは粉々になった地面の破片。
 まるで砂埃のように視線を遮るも、時間の経過に合わせて視界は晴れてくる。
 王とドラゴンは衝撃に巻き込まれる事なく、一瞬で退避していたみたいだ。
 彼ら、2人は非難の声を僕に向けた。

 「何するんですか!サクラさん、もう!」
 「無礼であろう!罪人が!」

 衝撃の爆心地から姿を現した僕をみて、2人は非難の声を止めた。
 地面を貫いた『龍の足枷』を素早く回収して、再び具現化した『龍の足枷』を身に纏った。
 巨大な球体に背を預け、鎖を左腕に巻き付け盾代わりに。
 長い柄を逆さに持ち替え、やや長めの棍棒のように持つ。

 その様子を見たドラゴンは驚きの表情を
 王は、眉をひそめて不可解な表情を
 それぞれ見せた。

 「なるほど」と呟いたのは王だ。

 「戦いにこそ相互理解ができると言うのか、野蛮人め」

 そう怒鳴る王の顔には笑みがこびり付いていた。
 さらに「その考えは嫌いではないぞ」と付け加わった。

 「河原で殴り合う童の如く、余と理解を深めようとする心意気は実に愉快よ。このシュット王、英雄は認めずとも、余を超える神如き存在ならば従う用意はあるわ。わかるか?王も英雄を超えて見せるがいい!」

 そう言うと王は引きちぎられった剣を捨てた。
 玉座の後ろに配置されていたであろう。そのまま、新たな剣を取り出した。

 「言われるまでもない!僕は――――俺はあんたを超えてみせる」

 「もう!なんで2人して男の子しちゃってるんですよ!もう!もう!」

 ドラゴンの抗議を受けて、俺と王の戦いが始まった。


 王の攻撃を受ける。
 受ける。受ける。受ける。受ける。受け……
 防戦一方だった。
 受け続けれるのは単に王の剣捌きが単調だからだ。
 単調。そう言って良いのだろうか?
 王の剣捌きは異常だ。 フェイントを入れない。
 ここを攻撃すると視線が知らせてくると、キッチリとその場所に攻撃が来る。
 その剣技こそ王道なのだろう。 相手である俺を欺く事もせず、力技でねじ伏せようとしてくる。
 受け続ける事は可能だ。 だが、その速さと重さは、確実に俺の体力を削り取って行く。

 「どうした?手を出さぬのか?それで余を超えれると思うか?」
 「あぁ、そう思っているよ!」

 「むっ!」と俺の言葉に怒りを見せる。
 そして―――

 「頭」

 王が発した言葉の意味がわからなかった。
 しかし、その意味は次の瞬間に理解した。
 剣を振り上げ、俺の頭部に向けて一振り。
 次に感じたのは、尋常ではない衝撃。

 「腹、右から横薙ぎ」

 王の言う通り、横薙ぎの一撃。
 それを受けるが、ふわりと体が浮き上がるほどの衝撃。

 「次は胸を狙った突きだ」

 まるで、出来の悪い弟子に稽古をつける師範のようだ。
 つまり、これは稽古なのか?
 僕は、王から放たれた突きを避ける。

 ……いや、違う。

 理由は単純だ。
 圧倒的な力量差を見せつけ、俺の体力を削りきるよりも前に、心を――――精神を削り取るのが目的だ。

 「次はそうだな……再び頭部かな」

 王の予告。 
 自身の優勢を信じて疑わない。
 けど―――けれども――――

 俺は!

 「俺は折れない。折れるのは、そっちだ!」
 「何!?」

 王の振り下ろした一撃に合わせて、盾代わりに腕に巻いた鎖を―――王の剣を振り払うように―――叩き付けた。
 勝負の決着を決めたのは両者の力量ではなかった。
 強いて言うならば、武器の性能差。
 世界に現存する最強の武器である『龍の足枷』は、王の剣を砕くのは十分な威力が備わっていた。

 「ふむ……なるほど。これが貴様の力か。最初からこの結末を想定していたのか」

 王は砕けた自身の剣を見つめ、動きを止めた。
 暫し、呆然としている様子だった。 

 「何度やっても、余の剣は砕かれるという事か」

 そのまま、王は折れた剣を捨て、俺の―――僕の手を取った。

 「認めねばあるまい。新たな英雄の誕生を」


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