超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

目前の壁 最強の一撃 

 
 進めど、

 進めど、

 壁にはたどりつかない。

 魔物の壁が巨大すぎるのだ。
 見た目より遥かに巨大で、予想より遥かに遠い。
 しかし、それも時間の問題。やがては―――
 ドラゴンの声で僕の思考は停止した。

 「そろそろ来ますよ」

 来る?何が? 一瞬、そう聞き返そうとしたが、その必要はなかった。
 あの壁は、魔物の集合体。 近づけば……当然ながら攻撃を仕掛けてくる。
 一瞬、何かが光った。次にあらゆるものが通過していく。
 火球、氷の塊、土の塊、切れ味を有した風や水、閃光、暗闇。
 自然現象のような魔法攻撃が過ぎ、次に武器の嵐。
 古びた剣、巨大な斧、鋭い槍、矢継ぎ早に飛来してくる矢。
 魔物の触手も伸びてくる。
 やがて、それらの全てが混同して僕の認識を越える。
 もはや、肉眼では捕える事の出来ない攻撃の混沌。
 意識が……精神が……そして肉体までも壊されていく。
 そんな感覚。
 けど、それらの攻撃は僕の体まで到達していなかった。

 「は、弾いてる?この全ての攻撃を!ドラゴン、お前がやっているのか?」
 「そりゃ、そうですよ。1つでも当たったらサクラさんは即死ですよ」

 その言葉に麻痺していた恐怖心が激しく揺さぶられる。
 死? 視界の全てが死を運んでいる。
 でも、僕は守られていた。

 「ご安心ください。攻撃が届く位置まで、射程距離1メートルに到着するまで、一撃たりともサクラさんに通しません!」

 その力強さに芽生えかけていた恐怖心は消し去られた。
 そして、宣言通りにドラゴンは、攻撃の全てを弾き落としていく。
 一瞬の静寂。 耳が痛いほどの無音。
 攻撃の終了? いや違う。
 それは合図だ。 おそらく、次に来るのは――――
 今まで以上、最大規模の攻撃。

 やがて、

 やがて、

 それは来た。

 その攻撃は視力を超えて無色。
 その攻撃は聴覚を超えて無音。
 皮膚から伝わる感覚が全てを拒否する。
 認識不能。未知の攻撃。
 それが――― 僕の――――
 僕に向けられる恐怖。だが――――
 その恐怖を切り裂くものがあった。

 「うっ、うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」

 雄たけび。
 それは、ドラゴンの咆哮。
 ―――それも、ドラゴン状態から自ら意志で発せられる全力全開バージョン。
 全方向に発射された質量を持った声の威圧。

 まるで僕とドラゴンだけが世界から切り離されたかのように、全てから隔離される。
 そして――――

 「目を開けてくださいサクラさん」

 ドラゴンの優しげな声。 僕は気がつかないうちに目を閉じていたみたいだ。
 促されるまま、目を開く。すると―――

 「到着です」

 目の前に、それがあった。
 ドラゴンの咆哮によって動きを止めたそれは、悪趣味な作り物に見える。
 まるで未知の魔物の見本市。 
 一部の宗教では、神のように崇められている魔物。
 逆に悪魔のように忌み嫌われている魔物。
 その本物がいる。 
 それが、まるで馬鹿かアホみたいに、積み重なっている。
 目の前に広がる異常な光景に笑いすら込み上げてくる。
 けど、やらないと……キッチリ、丁寧に。
 僕は、空中で停止しているドラゴンの背中から立ち上がった。
 怖がるものは何もない。 僕が体をあずけている彼女は、目の前にいるどの魔物よりも強い。
 そして、僕の右手にある武器は、目の前にいるどの魔物よりも……強い!

 射程距離1メートル

 僕は、硬く拳を握り、
 強く、強く、強く、強く、力を込めた拳を、

 「龍の足枷ドラゴンシール

 魔物の壁に叩き込んだ。

 

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