超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

唐突なドラゴン

 
「さすがにダメだよな……ヤバいよな……」

 僕は誰にも告げず、上層へ向かっていた。
 なぜ、そんな事を? そう聞かれたら、答えることはできない。
 まるで何かに導かれるように体が動いてしまった。 

 「しかし、本当に出てこないものなんだね」

 単独行動を行い、暫くの時間が経過したはずだが、魔物と遭遇しない。
 普段なら、できれば遭遇したくないと心ではヒッソリと祈りながら、ダンジョンを進むのだが……
 実際に出会わないとなると不気味でしかたがない。
 やがて、目的地についた。 

 「……本当だった」

 ダンジョンキーパーが言っていた通り、正規ルートを進むと行き止まりになっていた。
 崩れた土砂によって通路がふさがれている。

 「さて、キーパー達は、人為的に通行不能にされた可能性を考えていたみたいだが……何が出てくるか?」

 通路を慎重に調べてみる。 
 まず、火薬のようなもので爆破された痕跡はない。
 爆風で焼かれた黒ずみや火薬の残り香はしない。
 魔法を使用された痕跡も見つからなかった。
 しかし、変だ。 ダンジョンキーパー達は通路が崩れた場所は20か所とか30か所と言っていた。
 人為的な可能性がないと言うなら、本当に、自然に崩れたということなのだろうか?

 僕はズボンのポケットから地図を取り出す。
 無造作にポケットに突っ込んでいたのは、機動力を重視してバックパックは置いてきたからだ。 
 地図で現在地を確認すると、ペンで×マークを付ける。
 とりあえず、脱出経路を確保するため、正規ルート以外の通路の確認をしよう。
 再び地図をポケットに入れ直し、駆けだそうと――――
 突然、腕を掴まれた。

 「うわっ!?」

 油断した。魔物? 腕を掴むということは人型か?
 素早く、背中の短剣を取り出し、ソイツに一太刀浴びせようと体が動く。

 「やあぁ!」と気合を込めて短剣を振るうと同時に襲撃者の姿を確認―――

 「って!?あぶねぇ! 何してんの?お前!」

 襲撃者が魔物ではなく、知り合いだと気づき、ギリギリで短剣を止めた。
 いや、それは正しくない。
 週に2回は会って、町をブラブラと遊ぶ仲だから、忘れがちになってしまうが――――
 彼女は魔物だ。
 魔物どころか、このダンジョンの最下層で探索者を待ち受けるラスボスである。
 そう彼女はドラゴンだった。
 人間名  ドラ子・オブ・スピリットファイアがそこにいた。

 「やぁ、サクラさん。お変わりがないようで何よりです」
 「いや、お前……どうしたんだ!?」

 僕の問にドラゴンは曖昧な笑みを返すだけだったが、その様子はどう見てもおかしかった。
 青ざめた顔。額は汗で濡れている。よく見れば、手が小刻みに震えていた。
 その震えは30層で見たビックピックと同じだ。

 「流石ですね。初見で私の不調を見破るなんて、愛のなせる技としか思えません」

 ドラゴンは普段通りの口調だが、無理をしているのは明らかだ。
 けど、彼女は無理をしてでも僕に何かを伝えようと現れたのだ。

 「一体、何が起きているんだ?ダンジョンに……お前の身に!」
 「アハッ、普段からそんなに優しければ、私は幸せになれるんですけどね」
 「もういい!黙れ!」
 「そのタイミングで、そのセリフは酷くないですか?」

 そう言ったと思った、次の瞬間にドラゴンは前のめりに倒れ始めた。
 慌てて受け止める。抱きしめる形になってしまったが、気にしている場合じゃない。

 「おい!おい!しっかりしろ!」
 「あー大丈夫です。私の場合は、ただの立ち眩みですから」
 「本当か?とても、そうは見えないけど?」
 「まぁ、私は大丈夫なんですが、ダンジョンとサクラさんの学校がピンチなんです」
 「ダンジョンとシュット学園がピンチ!」
 「まぁ、落ち着いて。こちらをご覧ください!」

 ドラゴンが指差した場所から映像が浮かび上がってきた。
 それを見た僕は――――

 「なんじゃ、こりゃ!?」

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品