超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

シュット式歓迎会

 がやがやと楽しげな声が増えてくる。
 他の階層へ散らばっていたクラスメイトたちも、徐々に集まってきたのだ。
 普段、見慣れていた魔物たち。それを食材として集める。
 それも厳選して、集めれるだけ集めて食べる。
 こんな歓迎会は、この学園ならでは……のはず。
 全ての準備が終わた。 
 そのタイミングを見計らっていたのだろう。クラスの女子に連れら、今日の主役が登場した。
 そう、今日は新しい転校生であるロウ・クリムの歓迎会だ。
 最初、驚きよりも目の前の光景がわからず、「? ? ?」とクエスチョンマークを浮かべていたクリム。
 そんな彼女に向かって僕ら全員は―――

 「ようこそクリムちゃん シュット学園に!」

 と声を揃えた。

 「えっ?ええええ?ど、どういう事なのかな?かな?」

 とすぐに状況を理解できずに混乱しているクリムに、僕は近づいて

 「みんな、クリムと仲良くなりたいって事さ」

 そう、説明した。すると……

 「お父さん!ありがとう!」

 抱き付かれた。
 と言うよりも、頭突きを入れてから組み付けられ、そのまま浴びせ倒された。
 目の前に星が回り、目がチカチカとする。
 ついでにピヨピヨとヒヨコが鳴いているような幻聴まで聞こえた。
 きっと、このまま失神していたなら幸せだったのだろう。
 周囲のクラスメイトたちは、凄まじい殺気を放っている。
 そりゃ、そうだ。 
 折角の歓迎会。その手柄を僕に取られた形になったのだ。
 そこで思い出すのはクリムの転校初日。僕はクラスで注目を浴びる事になった。
 なぜ、彼女は僕の事をお父さんと呼ぶのか?
 クラスメイトたちから質問攻めにあった。
 質問は詰問へ変貌を遂げ、やがては拷問に――――

 そして――――

        拷問は獄門へ――――

 あれは酷い事件だった……

 僕は薄れゆく意識の手綱を掴み、素早く覚醒。
 体を起こすと同時に、クリムへ

 「いやいや、クリム。感謝の言葉は用意をしてくれた皆に言うんだ!」
 「うん、わかったよ。お父さん! みんなもありがとう!」

 その一言で僕は救われた。
 クラスメイトたちの殺意は天井へ向けて立ち上り、まるで1つの柱のように見えていた。
 それがクリムの言葉と笑顔で弾けて消えたのだ。
 あれが僕に向けられていたらと想像すると……ガクガクブルブル。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 クリムはクラスの女子たちの輪に加わり、キャッハウフフと楽しんでいる。
 その光景を見ながら、ケンシから渡された果実を取り出した。
 例のウッドスネークの木で取れた果実だ。
 そのまま、口にすると意外なほどの甘味が口の中へ広がっていった。
 その甘さには素直に驚いた。 
 あの後のケンシの説明だと、ウッドスネークの活動が活発だったのは産卵の時期と重なっていたらしい。
 卵を守るために普段以上に攻撃的になっていたそうだ。 
 そして、産卵時に蓄えられていた栄養分。その栄養の過剰分が果実を実らせる木々へ送られる。
 それが果実の甘味の正体だとか……なんとか……
 さて、ほとぼりも冷めた頃だ。 もう、メインディシュの輪に加わっても大丈夫なはず。
 ん? その前にサンボル先生とキク先生の姿を視界に捉えた。
 ケンシが用意していた瓶じゃないのか?あれ? 
 ハッハ……気のせいだ。いくらなんでも生徒たちの前で、それもダンジョンの中で、酒盛りなんてしてないはず。僕は何も見ていないし、聞こえない。
 チラッと先生たちの方に目を向けると目が合った。
 キク先生が僕を実験動物のように見ている。
 よし! 大丈夫。普段通りだ。
 そして、もう1人の先生であるサンボル先生は……クリムの方を見ている。
 クリムが探していた『お父さん』の正体はサンボル先生だった。
 けど、サンボル先生から見て、クリムの存在はなんだろう?
 かつての自分が愛用していた魔剣の魔力で強化された人間。
 自分の体を元に作られた人工的人間。そして、生物学的には同一人物。 
 サンボル先生が自分こそが父親だと名乗り出なかったのは、クリムの事を娘と思えないから?
 しかし、今のサンボル先生がクリムを見る目には…… 

 僕はそんな事を何となく、考えていた。
 しかし、次の瞬間――――
 爆発が起きた。 いや、そうとしか思えなかった。

 それが爆発ではなく、地震だと理解するのに数瞬の時間が必要だった。

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