超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

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ラン家の婚活事情 その⑤

 「ミドリさんの弱点とかないの?」

 僕がそう聞くとサヲリさんは少し悩み「そうだな。小さいものが好きだったな。小動物とか」と答えた。

 「……いや、そうじゃなくて、日常生活での弱点じゃなくて、実戦で使えそうな弱点は?」

 「ない」と即答だった。
 「普通にお姉たまの勝率は100%だ。負けて当然の戦いだが、騎士と決闘は良い経験になる。命を取られるわけあるまいし、思いっきりぶつかって来い」

 ミドリさんの登場で、口調というか、キャラクター性がブレブレになっていたサヲリさんだったが、ここにきて鬼教官モードが安定してきた。
 よし! 負けても良い戦いなんて久しぶりだ。 全力でぶつかって散りに行くか!
 パンパンと頬を2回叩き、気合を入れ直す。
 向かうはミドリさんが待っている校庭。
 そこが決闘の地。 そこに足を踏み入れた。

 校庭は見学の人が大量に集まっていた。
 うん、ある意味ではいつも通りの光景。 
 目を凝らせば、同室の親友、背の高い戦友、王族の少年、赤い少女、貴族の少女がいる。
 ……ラスボスも当たり前の顔をしているな。甘ったるそうなお菓子を大量に膝に乗せ、楽しんでやがるな。
 そして、校庭の中心にはミドリさんが待ち構えていた。
 武器はオーソドックスに剣を選択した。
 使い慣れてる短剣や鈍器を選択しなかったのは、本場の騎士相手に剣術で挑みたいという気持ちがあったから。
 いつも通りの決闘の準備。 互いの武器から殺傷能力を削ぐ魔法を――――

 「私も舐められたものだね」
 「え?」

 線が走った。そうとしか思えない剣筋。
 何を切った? ゴトリと鈍い音がした。
 音の方を見れば、謎の物体が落ちていた。 それが何か理解するまで数瞬の思考停止。
 それは――――僕の剣だった。
 僕が持っていた剣をミドリさんが真っ二つに切断したのだ。
 斬鉄。

 「そんな鈍刀で私に挑もうと言うのか?」

 ミドリさんの表情は本気。 むしろ、怒っている?
 もしかして……学園内の決闘方式とは違う?
 真剣と真剣で切り合うガチモノの決闘を行うつもりなのか?
 それを肯定するかのようにミドリさんは剣を構え直し―――

 横薙ぎの一振り。

 「くっ!」と僕はバックステップで避ける。
 そのまま、一気に距離を稼いで間合いは大きく取る。

 「学生とは言え、さすが現役の探索者。魔物と対峙するための技術は、騎士の技術とは別物だな。一瞬、一瞬の瞬発力が凄い。しかし――――」

 次の瞬間、十分に広がった間合いは0になっていた。
 僕の目前にはミドリさんの顔があった。
 一瞬で追いつかれた? 馬鹿な!
 僕は、もう一度、背後に飛ぶ。しかし、ミドリさんは同じ速度でついてくる。
 1度、2度、3度……

 「いい加減にしろ!」

 僕は叫ぶと同時に前蹴りを使い、追走してくるミドリさんを蹴り剥がした。
 再び距離が開く。
 ミドリさんの移動術。確かに僕ら探索者の技とは違っている。
 人と対するための技。極端なまでに隙を作らない事を徹底した動き。
 動作のおこり、初動作、予備動作。そう呼ばれるものを消す動きだ。
 要するに動きの全てがノーモーション。
 だから、気がつけば目前にいる。 
 わかっていても対応しきれない。 後手後手と防戦一方に追い込まれていく。
 次々に振るわれるミドリさんの剣戟を折れた剣で捌くが……ジリ貧。
 一方的にスタミナが奪われ、動きが鈍くなってく感覚が生まれてきた。

 (や、やられる!)

 だが、ミドリさんは急に攻撃を止めた。
 なぜ? ミドリさんの顔を窺う。
 ゾッとした。 まるで虫けらを――――取るに足らない物を――――つまらない物を見るような目を向けられていたからだ。
 「こんなものか?」と彼女は呟く。

 「この程度とは師事したサヲリの力量を疑う。やはり、連れ戻しにきて正解だった……」
 「え?連れ戻しに?」
 「その通りだよ。様子を見に来たなんて嘘だよ。本当は、この学校がラン家に相応しいか、見極めるためにきたのさ。そして、結果はでた」
 「……けんな」
 「ん?何か言ったかい?」
 「ふざけんなって言ったんだよ!僕の力量で、学園を見極める?サヲリさんを見極める?ふざけんなよ。それでなにか?サヲリさんを止めさせるって言うのか?」

 彼女は―――ミドリさんは無言だった。けど、鼻で笑っていた。

 「だったら、僕の――――俺の妙技を見せつけてやるぜ!」
 「ほう、似ている。擬似的な人格を作って、自分を奮い立たせている。まるでサヲリちゃんとソックリじゃないか!」
 「もう、お前は黙っていろ!」

 僕は彼女が振るった剣を避けると同時に彼女の懐へ飛び込んだ。
 

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