超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

月より朧な少女 その④


 ―――機関銃―――

 1000年前の旧時代の戦士が使用していた武器。
 本体は細長い筒状の形状。その筒からは、丸みを帯びた形状の鋼鉄を連続で発射される。
 その小さな鋼鉄は、現在の武器と比べ高い殺傷力を持つ。
 空冷式、水冷式、ベルト給弾式、マガジン式、反動利用式、ガス圧利用式、オートマチック、セミオートマチックなど、種類も豊富だ。
 そして、それらの全ての共通点は一撃でも受ければ致命傷に近しいダメージを受ける。
 しかも、1分間で数百発の攻撃が人間の目には不可視の速度で繰り出される。
 対人性能だけでいうなら、現在の武器……あるいは現在の戦闘法と比較しても、遥かに上だと言い切れる。

 それを魔力を利用して素手で再現させている。
 それが目の前の少女―――― ロワ・クリムが行おうとしている攻撃方法だった。

 上に逃げる?下?右か?左か?
 渡り廊下という空間で、機関銃を避けれるのか? 無論、答えはNOだ。
 そして、それは僕に向けて発射される。

 爆音。

 一瞬で、渡り廊下の左右にある窓ガラスは割れ落ちる。起きるはずの甲高い音は銃声によって、かき消された。(実際は銃により音ではなく魔法攻撃だが)
 木造作りの部分は、削り取られた木片を舞上げ、モルタル作りのコンクリート部分は弾痕を刻み付けられる。
 もしも、それを生身の体で人間が受けるとしたら、鮮血で周囲を赤く染め上げ、破裂したが如く肉片を飛ばされ……人間に使う表現としては不適切ながら……粉々に破壊されてしまう。
 しかし、幸いにも、僕はそうならなかった。

 「あれれ?それどこから、取り出したの?ううん、ウソだぁ~ そんなのどこにも持てなかったはずだよ」

 クリムの声が聞こえてくる。
 僕と彼女の間には、僕の身を守ってくれた遮蔽物が新たに存在している。
 付け加えると、彼女の姿は見えず、彼女の声のみが聞こえてくる。 
 僕は「ハッ」と口から笑いを吐き捨てた。僕の生死に対して、どうでもいいような感じだったクリムの反応が、非現実的で面白かったのかもしれない。僕にそんな余裕があるとは、自分でも意外だった。

 僕の身を守ったくれた遮蔽物の正体は、言うまでもないかもしれないが『龍の足枷』である。
 巨大な金属の球体が、僕の体をカバーして魔法の弾丸を弾いてくれたのだ。
 現存する人類最強の武器。所有者にあらゆる恩賞を与え、あらゆる建造物を破壊しうる凶器。
 言ってしまえばただの鈍器に過ぎない武器だが、使い方次第では世界を滅ぼす事すら叶ってしまう。
 まぁ、使い方次第という以前に、僕では使いこなせず、そのスペックを引き出せないのだが……
 本来は攻撃に使う武器だが、そこは人類最強の武器。その硬度も規格外だ。
 最高峰の探索者が装備する盾でも、その頑丈さに勝てる物は存在していないだろう。

 (もちろん、現状で人類が保有する武器の中で……という意味でだ)

 よく見れば、『龍の足枷』の巨大さと重量感によって、大きく床が沈んでいる。
 最も、渡り廊下というより、かつて渡り廊下だった場所と言う方が正しくなっているのだから、例え、このまま床に大穴を開けてしまったとしても、許してもらえるだろう。……きっと。

 「さて、これからどうするか?」

 そう僕は呟いたつもりだったが、自分の声は耳まで届かなかった。
 なぜなら、今もクリムの攻撃は継続中であり、龍の足枷によって跳ね返されている弾丸と、その銃声によって僕の鼓膜は震えぱなしだからだ。

 「くそぉ!炸裂音で、耳が馬鹿になっている」

 爆音が邪魔して、説得、交渉、弁解、謝罪……それらで気を引いてからの騙し討ちは不可能だ。

 (どうする? 優先させるのは現状維持で、助けを待つか?)

 僕は『龍の足枷』に背中を持たれ、体に休息を与えながらも、頭はフル労働を開始させる。
 例え、人払いの結界を張られていたとしても、この破壊音に誰も気づかれないはずはない。
 この学園内に常勤している一流探索者である教師たちは、この異変に気づき、既に向かって来ているはずだ。
 あと1分に満たない時間を耐えきれば、こちらの勝ちだ。

 そう考え、気のゆるみが生じてしまったのだろう。
 僕は異変に気付くのが、僅かに遅れてしまった。
 いつの間にか、クリムが放つ魔法。その発射音や破壊音が止んでいる事に――――

 「アイツ、何をしている?状況は理解して逃げだしたのか?」

 そうかといっても、『龍の足枷』から顔をのぞかせて、クリムの様子を見る勇気はない。
 顔を出した瞬間を狙って、クリムが狙撃の準備をしている可能性も0ではないのだ。
 僅かだけれども、無限に感じる静寂さ。それを破ったのは僕の声だった。 

 「……なんだ?あれは?」


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