超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ダンジョンキーパー ゲンゴロウ

 「ここが待機室だ」

 サンボル先生に案内された場所は、ダンジョンキーパーの待機室だった。
 学園内にそんな場所があったとは知らなかった。それはタナカくんも同様だったらしい。
 ダンジョンキーパーはダンジョン内で生活していて、学園どころか、ダンジョンの外に出る事は珍しい。
 しかし、よくよく考えてれば、それは誤りだったと気がつく。
 あくまで、ダンジョンキーパーにとってダンジョンは職場であって、生活の場所ではない。
 年がら年中、ダンジョン内にいるとは言えども、帰る場所も休む場所も、そして待つ場所も必要不可欠なのだと。
 最も、今回のように、何かダンジョン内に問題が発覚した時、学園内からダンジョンに向けて出発して、問題解決に挑む人員も必要であって、『あっ……そりゃ、外にもダンジョンキーパーもいるわなぁ』と気づく。

 サンボル先生は待機室のドアをノックする。少し乱暴なノックだった。
 「すいません、居られますか?」とノックと同じように口調も乱暴な感じ。
 しかし……
 「……」と肝心の返事はない。ひょっとしたら、誰もいなくて無人なのではないか?
 しかし、サンボル先生のノックと声は、時間の経過に比例して、荒々しさを増していく。
 僕とタナカくんは、思わず顔を見合わせる。
 身を呈して止めるべきか。そう判断して体を動かそうとした瞬間――――
 どうやら、遅かった。
 一際、大きな破壊音。サンボル先生の前蹴りが待機室のドアは蹴り飛ばしたのだ。

 「せ、先生、なにやっているですか……」

 しかし、サンボル先生は、不思議そうに小首をかしげる。
 まるで、動揺している僕たちの方がおかしいみたいな感じだ。
 やがて、先生は何かを察したように室内へ指を指す。
 つられて室内へ目をやると……
 いる。 何かが……よく見えないが、室内で蠢く何かが……

 「あれは、生物ですか?」と言うタナカくん。
 僕はタナカくんの言葉を修正する。

 「いや、違うぞ、タナカくん。あれは生物というよりも……人間だ!」

 僕の声に、ソイツは反応した。
 巨大な体に反してソイツはヌルッと滑らかに動いた。
 本当に人間なのか、今は自分の言葉が信じられない。
 天井にまで届く頭。 真四角な体は、まるで巨大なベットのようだ

 「休憩中なのにドアを壊して叩き起こすなんて、酷過ぎるでしょ?サンボル先生」
 「ゲンゴロウさん、仕事ですよ」
 「仕事……めんどくさいですね。代わってくれる人は……」
 「もちろん、いません。それに、めんどくさいのはお互いさまですよ」
 「はっはっはっ……ですよね。仕方がないので準備します」
 「至急でお願いします」
 「はいはい」

 僕もタナカくんも唖然として2人の会話を見守る事しかできなかった。
 サンボル先生は何事もなかったかのように待機室から退出していく。
 当然ながら壊れたドアもそのままにだ。
 そのままにしていいのか、少し迷ったけれども、僕等も待機室から出て外に向かった。
 暫く待つと、ゲンゴロウさんが現れた。
 外で見ても、彼はデカかった。 本当にどうやって、待機室から出て来たのか、不思議でならない。
 見上げるほどの長身。それ以上の横幅。
 探索者というよりも探険家と言う感じの装備。 
 分厚い生地の衣服。巨大な体に合うサイズの巨大バックパック。
 頭には兜……いや、市販のヘルメットだ。
 武器として使用するのか?両手にツルハシを1つづつ持ち、クルクルと回転させている。

 僕とタナカくんが、今回の出来事を説明する事になった。
 やがて話を聞き終えたゲンゴロウさんは、僕とタナカくんを交互に指差して――――

 「それで、どっちが案内してくれるの?」

 と言った。

 「えっと~」とサンボル先生の意見を聞こうと思ったが、先生はすでにいなかった。
 どうやら、ダンジョンに潜るつもりはなかったみたいだ。
 通りで軽装のままのはずだ。合点がいった。

 「どうする?」とタナカくんに意見を求めると……
 彼はあっさりと

 「自分が行く」

 そう言った。

 しかし、その日————
 タナカくんがダンジョンから帰還する事はなかった。
 彼が発見されたのは2日後……

 そして、ゲンゴロウさんは行方不明になった。


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