超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

エピローグ その2

 僕の服を摘まんで引っ張る少女。
 歳は……5歳くらいかな? 褐色の肌。腰まで伸びている白い髪が特徴的だ。
 身に纏っている衣服と装飾品から、富裕層だとわかる。
 少女は大きな瞳で、不思議そうに僕の顔を見ていた。  
 誰かと勘違いしているかな? 僕には心当たりのない少女だった。

 「……」

 不思議と少女は微動だにせず、無言で僕の顔を眺め続けていた。

 「えっと……」

 こんな時、どうすればいいのだろうか? 少女にかける言葉が思いつかない。  

 「お父さんと勘違いしちゃったのかな?」

 アリスが助け船を出してくれた。 彼女は膝を曲げて身を屈めると、少女と目を合わせた。
 なるほど。そうやって、視線を合わせる事で子供を安心させる。
 そんな話を聞いた事がある。
 しかし、アリスと少女が目を合わせたのは一瞬だけだった。
 少女は、すぐに視線を僕に向け直して――――
「お父さん!」と僕に向けて指をさした。

 『ビシッ!』と擬音が聞こえてきそうな勢いと正確さと素早さだった。

 「えっと……」と僕は苦笑いを浮かべて、アリスと目を合わせる。彼女も苦笑していた。
 けど―――――

 「お父さん。サクラお父さん!」
 「え!?」

 名前を言い当てられて、驚きの声を漏らしてしまった。
 さらに、空気が凍り付くような異音がした。

 「サクラ様? もしや、この子は……」

 ただ、純粋な疑問を訪ねるような表情。 
 本当に、よく理解のできない現場に立ち会ってしまった人間は、こんな表情をするんだ……

 「いやいや、違う。違う。君の考えているような……事と言うか、心当たりがない」
 「 ? まだ、何も聞いていませんよ?」

 アリスは表情を変えない。けれども、その内面は十分の表現されている。
 きっと、人間の深層心理が現実に描かれるとしたら、アリスの背後に現れるのは、凍てつく吹雪に違いない。

 「落ち着けってば、アリス。 僕が、この子の父親だとしても年齢が合わないじゃないか」
 「……はっ! 確かに、確かにそうです。私とした事が、取り乱してしまって恥ずかしい……」

 アリスの誤解は完全に解けた。そう思ったのは一瞬だった。

 「サクラお父さん。 トーア・サクラお父さん」

 「……」 「……」

 この子は一体? 僕の名前をフルネームで言い当てるのだから、ただの偶然ではない。
 何度も繰り返すが、僕には心当たりが皆無だ。

 「……私、冷静になって考えてみたのですが……」
 「何? 心当たりがあると嬉しいのだけど?」
 「可能性として、お相手の連れ子だと考えればサクラさまの歳でも十分に……」
 「サヲリさん! 護衛対象の姫さまが、若干錯乱中です。すぐに来てください!サヲリさん!」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・

 その後、先行していたオントとサヲリと合流した僕らは、少女の保護者を探していたのだが……成果は上がらず……

 「本当に心当たりはないのか?」とオント。
 僕は首を横に振って答える。

 「しかし、それはおかしいのよね」とサヲリ。
 「おかしいって言われても……」

 「このロリっ子は、サクラくんの顔面を指差して、フルネームを言い当てたんでしょ?」
 「いや、ロリっ子って……」
 「一方的にサクラくんを知っていたなら、どこかに、なんらかの接点があって然る可きなんだけどなぁ~」
 「う~ん」と頭を捻る。
 どこかで、この少女と見た記憶はないか? 例えば、知り合いの子供?
 子供…… 子供…… 子供…… 何か、最近…… 子供に関わる出来事があったような?
 ……ダメだ。 無表情で距離を詰めてくるアリスのせいで集中できない。

 そんな時――――

 「あー いた! ってサクラさんじゃないですか!」

 こちらに向かってくる女性がいた。 しかも、僕の名前を言いながら……
 けど、やっぱり、僕には心当たりのない女性だった。

 

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