超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

エピローグ その1

 
 ――――3日後――――

 これで、医務室のベットからサヨナラだ。
 キク先生の無言の観察プレイから、ようやく解放された。
 そんな僕の復帰の祝いとして、僕は放課後に町へ遊びに行く約束をしていた。
 待ち合わせの校門の前へ行くと「おい、遅いぞ」と声をかけれる。 どうやら、僕が最後だったみたいだ。
 メンバーはオントとカヲリとアリスの3人。 
 いつの間にか、このメンバーで行動を共にする事が多くなっていた。
 気がつくと、くすッと小さな笑い声が自分の口から漏れていた。

 「ん?どうした」とオント。 僕は「なんでもない」と答える。
 「変な奴だな」とオントは先行して歩き始めた。

 僕が笑った理由は、いつの間にかみんなの仲が良くなっていたからだ。
 オント、サヲリ、アリス、僕は、それぞれに苦手意識を持っていた。
 逆にオントとサヲリは、僕に対して敵愾心しか持っていなかったと思う。
 オントとサヲリは、顔を合わせるたびに怒声が飛び交っていた。
 僕に一方的な信頼と好意を寄せてくるアリスには、薄ら寒いものを感じていた。
 アリスとサヲリだって、最初から円満な主従関係だったわけではない。むしろ……

 「おい、早く来いよ!」

 オントが僕を呼ぶ声がした。 僕は駆け出した。

 「さて、バックパックと新調した大剣を紛失したからな」
 「サヲリお姉さんは、水着かな? 16層は水中フィールドで激よわの敵ばかりだからね。バカンス気分でルンルンしょ!」
 「げっ、お前っ、もう16層まで行ってるのかよ?」
 「ふふん、もちろんソロでね」
 「―――ッ!?」
 「あれ?どうしたのかなぁ?オム家の鬼っ子さんだったけ?」
 「鬼っ子いうな!」

 オントとサヲリが騒がしげな会話で盛り上がる。
 僕の後ろからはアリスがついて来ている。

 「わ、私は、アクセサリーが良いです」
 「あー 遠慮するなよアリス。 お前から新品の短剣も貰っているわけだし……」

 僕の片手には、カバン。 中身は……札束だ。
 あの後――――

 オーク王討伐成功。 なぜか、その栄光は僕の総取りとなった。
 事前に設定されていたボスの討伐成功報酬。 オーク王の体から得られた素材の売り上げ。
 その金額は、一般的な探索者の生涯獲得金額を上回る。
 その金額の全てが僕のカバンに入っている。 今日の目的は、その金額を学園の外にある銀行バンクへ預けるためだが……
 流石に、この金額を独り占めるするには罪悪感がある。 かと言って、辞退するほどの豪快さを持ち合わせていない。 いろいろ、悩んだ挙句、普段、お世話になっている人たちへ快気祝いを行う事にした。
 今日は、オント、サヲリ、アリスの3人に、普段なら買えない物をプレゼントすると話てある。

 結局、どうして安全地帯であるはずの10層にオーク王が現れたのかは、まだ調査中らしい。
 問題はシュット学園の手を離れて、国を巻き込んだ事件として大掛かりな調査が行われ、ダンジョンは一部封鎖中だ。 
 それは……
 それは、つまり、自然発生的にオーク王が上層を目指して上がってきたわけではない。
 そういう意味だ。

 何らかの方法で、何者かの手によって、オーク王があの場所へ誘導された。
 多くの人がそう考えている……らしい。  噂だと、そういう道具アイテムが使用された痕跡があるとか……
 僕も正確な話を聞かされたわけではないので、どこまで本当かは不明だったりする。
 ただ、今回の事件は―――― 犯人の目的はテロだったと言われれば納得する点もある。
 シュット学園は国家戦略としての探索者の育成機関だ。
 そこが管理しているダンジョンで不測の事態が起きる。 
 そこには王位後継者もいた。 
 奇蹟的に死者こそは出なかったが……
 犠牲者がいなかったわけではない。
 何人もの生徒が、再起不能の怪我を負い、探索者の道を絶たれる。

 しかし、それらが事実だとするならば―――――

 テロリストは誰なのだろう?

 確かに、あの日のダンジョンには部外者も入っていた。
 王族の決闘をお祭り気分で、見に来ていた。
 ダンジョンの管理状況からいって、かなり杜撰だったと言ってもいいかもしれない。
 しかし、部外者が、本当に誰にも気づかれずボスをあの場に誘導できただろうか?

 内部犯?

 学園の関係者が犯人?

 「……」と僕は無言で頭を振るった。
 素人考えはやめよう。 実際に調査しているプロがいるのだから……

 そんな事を考えてると、不意にズボンを引っ張られた。
 アリス? にしては、場所が低すぎる。
 振りむと、見知らぬ少女がいた。

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