超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

オント対ゴドー 決闘の開始

 広い空間。ここはダンジョンの10層。
 10層ボスの間と言われる場所がある。
 かつては強力なボスが支配していたらしい……
 倒しても、倒しても、一定期間が経過すれば、新たなるボスが、いつの間にか誕生して探索者を襲っていた。
 しかし、それも過去の事。
  むき出しの岩肌だったはずの通路は、平たく均され、石畳が敷かれている。左右の壁には、滑らかな木が打ち付けられている。
 天井には特殊なランプが吊るされ、暗闇に晒される事はない。
 現在は階層自体が、人の手によって開拓されたのだった。
 その結果、ボスはもちろん、魔物が生まれる事すらなくなり、ダンジョンの安全地帯セーフティゾーンとして使われている。 ダンジョンの中には、こういった場所が複数存在している。
 途方もない時間を使い、ダンジョンの構造を変化させた先人たち。
 それは、いつか、必ず、人類がダンジョンを攻略する日が来る信じて……

 コロちゃん様から決闘を挑まれたのが1か月前。
 そして、今日が決闘が行われる日。

 静まり返った通路を3人で歩く。
 僕、オント、サヲリの3人だ。全員無言だ。話すべき事は、すでに終わらせている。
 この通路の先、ボスの間がある。 そこが決闘の場所となる。
 ここを決闘の場所になったのは必然的だ。
 僕とオントの決闘とは違い、王族の決闘。
 王族が探索者としての道具を全て賭けた決闘に挑む。
 要するにスペシャルマッチ。
 学園の校庭では観客希望者が入りきれないのだ。

 そして―――――
 僕らはボスの間に、足を踏み入れた。

 人、人、人、そして――――また人。
 人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人……
 よくぞ、ここまで人が集まったものだ。 関心が9割……1割は呆れ。
 四方八方に隙間なく人間の壁が出来上がっている。
 学園の関係者全員が集まっているんじゃないか? 
 いや、それよりも明らかに多い。 完全に部外者としか見えない人間も多い。
 良いのか? ここって関係者以外は完全立ち入り禁止だったはずじゃ?

 人の声援が、ボリュームを増す。
 瞬間的に、爆発でも起きたようなエネルギーを感じる。
 その理由を知る。
 対角線上から対戦相手、ゴドーが現れたのだ。

 彼は、登場と共にレザージャケットを脱ぎ捨てる。
 上半身は裸に、下はジーンズ姿。 
 武器は短剣。飾り気のない無骨なタイプ。
 右手に短剣を持ち、左手には盾。
 円状でコンパクトな形状。籠手のように腕に直接装備しているようだ。
 素材は木。表面には木目が見えている。
 裏側に薄い鉄板が張られている。盾の周りは鉄で覆われている。
 木でできてる盾と言っても、人間の力で破壊する事はできない分厚さがある。
 かなり軽量化された武装。 対魔物用ではなく、完全対人用の装備なのだろう。

 一方、こちら側。
 オム・オントの装備は、普段通り――――
 普段通りに探索者の装備を身につけている。
 バックパックを背負い、魔物の突進を受けても破壊できない鎧姿。
 重装備と言っても良い。 そして武器は――――
 大剣だ。 
 人間よりも強度を持つ魔物を相手に戦うための装備。
 あまりにもゴドーとは対極的な武装だった。

 やがて、時間が来た。
 オントはフィールドの中心へ向かっていく。ゴドーも向かって来る。
 2人が中心で止まる。

 何か、小さな声でしゃべっている。 
 何を話しているのかまでは、聞き取れない。

 両者、相手の武器に魔法をかける。殺傷能力を極限まで落とす魔法だ。
 決闘と言っても、殺し合いではない。最低限の安全を保つ必要性がある。
 そのために、互いが互いの武器に自分の命を守るために弱体化の魔法をかけるのがしきたりになっている。

 そして、両者は背を向けて歩き出す。
 オントは僕とサヲリのいる場所まで戻ってきた。
 僕とオントは、ただ無言で見つめ合い、どちらかともなく頷き合った。
 オントが勢いよく振り返る。 そのまま駆け出した。
 ゴドーに向かって―――――

 戦いは始まったのだ。


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