超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

不思議な少年 

  「うへぇ~ もう食べれない」

 僕は、テーブルに頭をつける。 当然、器の中身は残っていない。
 その代償に、僕の腹部は、丸みを帯びた曲線が付け加えられていた。

 「もう一生分のラーメンは食べたな」

 横を見ると、ケンシも同じ体制で休息を取っていた。
 たぶん、体を動かすと、肉体が精神に叛逆を行い、内側からナニカが出てこようとする。
 具体的には、胃に詰まっているラーメンの事だけど……
 ん~? 頭を垂れている僕に影が差す。誰か、背後に立っている。
 誰だろうと頭を上げると、サヲリがいた。 
 さっき、声がした気がしたけど――――どうも、気のせいではなかったようだ。
 僕は彼女を注意深く観察する。 一見して不機嫌そうな表情であるが、よそ行きモードのサヲリお姉さん化しているみたいだ。

 「どうも、サヲリさん」
 「おやおや、サクラくん。珍しいねサヲリお姉さん相手に他人行儀な。人目が多い学食だからって気にせず、サヲちゃんって呼んでみればいいじゃないのか? さ~くん」
 「……相変わらず、テンション高めですね」

 ちなみに、僕はサヲちゃんなんて呼んだ事はない。それにサヲリからさ~くんなんて呼ばれた事もない。

 「はっはっはっ、それだけが私の取柄だからね。 そうそう……君とのおしゃべりは楽しいけれども、楽しすぎて時間を無限に消費してしまうのが、問題だ。さっそくだけど本題に入ろうじゃないか?」
 「本題?僕に何か御用でも?」

 一瞬、彼女の視線が、僕に意志を伝える。
 言葉に訳すならば「用がなければ、おめぇなんかに話しかけるわけねぇだろ!」となるに違いない。

 「そうなんだ。君と同様に私の愛すべき人間、アリスから頼み事を承っていてね」
 「……!?アリスから!」

 サヲリの視線は「アリス様だろが、クソ虫野郎の分際で!」と本心を伝えてくる。
 いい加減、視線で意志の疎通なんて高等技術を僕に披露してほしくないのだが……

 『ごっとり』と、どこか剣呑な音を上げて、机にソレは置かれた。投げるように……

 「これは?」と驚きの声をあげる僕に、サヲリは、どこか満足気だ。

 「だから、アリスちゃんからのプレゼント。貴方への安否を気遣うあまり、貴方に会いにいけない気高い少女の想いを汲み取りなさい」
 「会いに行けない?」
 「アリスちゃんは、自分が無力だと思っている。いや、今回の件で痛感している。だから、せめて、貴方の無事を祈ると共に、実用品をプレゼントした。そういう乙女心よ」

 「……よくわらないな」と僕は、サヲリさんへの恐怖心を忘れて、つい本音を漏らした。
 それでも、僕に直接渡しに来ず、サヲリさんに頼んだのか?
 それで、どう『会いにいけない』という事になるのか?
 そんな僕にサヲリさんは――――
 「そうな、ここで少女の複雑な乙女心を理解して同調する振りをするより、不可解だと真摯に考える方が好感的ね。でも、それは、それとして、貴方は会いに行きなさいよ?アリスに」

 「そりゃ、もちろん」と僕は答えた。
 僕の手には、新しい短剣が――――アリスのプレゼントが握られていた。
 サヲリは、役目は終わったとその場を去っていく。
 その背中に「ありがとう。サヲリも」と声をかけると振り向いて驚いたかのような表情を見せた。
 何に、そんなに驚いたのか?よくわからなかった。
 そのまま、サヲリの姿が見えなくなった直後――――

 「すまんが、少し失礼させてもらうよ」

 !?
 僕は驚いた。
 声の主が反射的に女性だと思ったからだ。
 高い女性の声。 それにしては独特の口調。
 しかし、視線を向けた先にいた人物は女性ではなかった。
 少年だった。 第二次成長期前で声変わりもしていない高い声の持ち主。
 気になるの、少し大人びた―――――と言うよりも少年が使うにしては奇妙な口調についてた。

 「失礼。ただ、知り合いの名前が聞こえてきたので――――つい――――な?」

 「知り合いですか?」と僕は、彼の口調につられて、つい『ですます』調の言葉になってしまった。
 そんな僕の様子を――――僕の動揺を見た少年はクスッと笑い。

 「おぉ、余の婚約者であるはずのアリス――――トクラター・アリスの名前が聞こえてきたので――――つい―――な?」

 どこか、少年は勝ち誇るかのように――――宣言するかのように、そう言ったのだった。

 

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