影が薄いけど魔法使いやっています
外伝 大剣少女とキノコと水神祭
話は少し戻って、水神祭前日の出来事。
「屋台で出す特産品が足りない?」
「はい。数は確保していたつもりなのですが、一つだけ足りないものがありまして」
「足りないものとは?」
「フュリーナの近くの山で取れるキノコです」
水神祭の準備が順調に進む中、屋台で出す料理の食材が足りないという事態が起きていた。
「水の都なのに、キノコが特産品の一つなのね」
「セレナ、そこは突っ込まないであげようよ」
「美味しくなさそう」
「アリスはもっと自重しようか」
何はともあれ、食材が足りないとなれば僕達の出番。時間も残されていないので、セレナとアリスに他の作業を任せて、僕とハルカの二人でキノコ狩りに出かける事になった。
「な、何でよりによって私とユウマと なのよ」
「僕じゃ役者不足?」
「そ、そうじゃないけど」
キノコを入れるためのカゴを背負いながら、ハルカは文句ばかりを言っている。彼女の村での一件から、微妙ながらハルカとは距離を感じている。
別に避けられているというわけでもなさそうだけど、どうもよそよそしい。
「それにしてもキノコか……」
「ユウマの住んでいた国にもあったの? キノコ」
「勿論。主食にもなっていたくらいだし」
こちらの世界はどうかは分からないけど、日本にはキノコの品種は多かった。特に松茸とかは、秋には一度は食べてみたいキノコの一つ。
「この辺のキノコって美味しいのかな」
「私は分からない。でも、特産品として出しているくらいなんだから、美味しいんじゃないの?」
そんな会話をしている間に、山奥の方に登ってきた僕達は、ようやくそのキノコが生えていそうなエリアを発見した。
「結構な数あるね。どれくらい持っていった方がいいのかな」
「売り物として出すなら、それなりの量は必要だと思うけど」
僕は試しにキノコを採ろうとする。
ズボッ
だが何故かキノコは地面に潜り込んだ。キノコ自身の意思で。
「あれ?」
(今僕はおかしいものを見なかったか?)
気のせいだと思いながら、他のキノコを採ろうとするが、同じ結果が繰り返される。
うん、絶対おかしい。
「ねえハルカ、ここのキノコ」
何かが変だと言おうとした時、そこに居たはずのハルカの姿がどこにもなかった。
「ハルカ?」
僕は慌てて辺りを見回す。しかし彼女の姿が見当たらない。
「きゃあああ」
代わりに聞こえてきたのは、ハルカの悲鳴だった。僕は急いで彼女を探す。すると、キノコを採った場所より少し離れた先、そこで大量のキノコ型のモンスターに押し倒され、どうにもできない状態になっているハルカの姿が。
「何やっているの?」
「何やっているの、じゃない! 早く助けて! ふぐぅ」
助けを呼ぶハルカだが、口が塞がれてしまう。
「いや助けようにも」
この数だと近寄るのは容易な事ではない。おまけに今このハルカが置かれているこの状況、キノコに口を塞がれて、大量のモンスターに囲まれて、これはこれで、
「ありかな」
「ふぁ、ふぁにいっふぇるの(な、何言っているの?)」
「うーん、記録に残しておきたい光景だ」
「ばふぁぁ(馬鹿ぁぁ)」
少しだけ楽しんでいる僕とは裏腹に、ハルカの悲鳴が山に木霊するのであった。
男の性なんだから、仕方がないよね。
「そんなわけないでしょ!」
ちなみにこのキノコは本当にフュリーナの特産品だったらしく、ハルカがたくさん引き付けてくれたおかげで、大量に収穫できた(とは言え、モンスターだったので倒すしかなかったけど)。
「もう嫌。ユウマの馬鹿ぁ」
「楽しそうだったし、いいじゃん」
「良くないわよ!」
何はともあれ、無事食料不足は解決されたのであった。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
キノコの問題が解決し、水神祭の準備も終了してホッとしたのも束の間、その日の夜もう一つの問題が発生していた。
「え、えっとハルカさん。僕の布団がないのですが」
「ふん!」
それはキノコ狩りの一件で激怒したハルカが、僕の布団をどこかに持ち去った事から始まった。
「もしかしてまだ怒っていますか?」
「むしろどうして怒ってないって思うの?」
「ですよねー」
僕も少しばかり調子に乗った事を反省している。けどあの状態でハルカを救い出すのは難しかったのだ。
「あーあ、ハルカの事怒らせちゃったわね」
「自業自得」
「そ、それはそうなんだけどさ……」
僕はうなだれる。いや、ああいうのはこういう異世界ものとしては絶好のシチュエーションだと思ったんだよ? 助けなきゃって言う気持ちもあったけど、やっぱり男の子として僕は、
『最低』
しまいには女神様にまで罵倒されてしまいました。
「ちょっと頭冷やしてくる」
「それがいいと思う。流石に私もそれはドン引きしたから」
僕はセレナに小声でそう告げて一度宿を出た。その間もハルカは一言も発せず、僕はただひたすらに反省したのであった。
それから数時間経って。
アリスと話をした後、時間を置いて宿に戻った僕は、部屋の隅で一人うずくまって寝る事にした。
(そもそもどうして男女の部屋が一緒なんだろ)
初日は作業していて気づかなかったが、僕達四人に用意されていた部屋は一つ。そこに四つの布団が敷かれて、そこで寝泊まりする形になっていた。
なので、僕の布団がなければ自然と僕の寝床は失われるわけで……。
「ちょっとは反省した?」
静かな部屋でふとハルカの声がする。もしかして起こしてしまったのだろうか。
「流石に調子に乗りすぎたと思ってるよ」
「本当は少しだけ見直してたのに、最低な事するんだねユウマは」
「本当にごめんって」
暗闇の中で僕は土下座をする。勿論その姿は見えていないだろうけど、せめてもの謝罪の意を示したかった。
「もういいよ。油断していた私も悪かったから」
「そんな事は……」
「本当に反省しているなら、明日誠意を見せて」
「誠意?」
「私、祭りっていう行事は初めてだから勝手が分からないの。だから案内してほしい」
そんな簡単な事でいいのかと聞きそうになるが、彼女がそれでいいと言うならそれでいい。僕が偉そうに言える立場じゃないけど。
「分かった。僕が出来る限りの事は尽くすよ」
「期待してる」
僕とハルカは小さな約束をして、その後に眠りについた。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
ハルカとの昨晩の約束を果たす事ができたのは、水神祭も終盤に差し掛かった頃。デルーテとの戦いで疲れが取れない僕に対して、ハルカは僕をあっちこっち振り回した。
「ねえハルカ、そんなに食べて大丈夫なの?」
「そう言って私が買うのをやめると思ったら大間違い。今日はとことん食べるんだから」
ハルカの食事代を僕が払い、ハルカはひたすら食べ続ける。逆に僕はほとんど食べられず、まさに振り回されるとはこの事だった。
「ふぅ、流石にここまで頑張ってくれたから、昨日の事は許してあげる」
ひたすら食べて数時間、ようやくハルカはそう言葉をもらした。
「え? いいの?」
「いいも何も、もうお金ないでしょ?」
「うっ、それは……」
「流石にユウマの誠意は伝わってきた。こんな私に付き合ってくれてありがとう」
恥ずかしながらハルカは言う。喜んでもらえたならこちらとしては付き合ってよかったと思えるし、彼女が笑顔なら多少の出費は……いや、ちょっと明日からの生活が危ないかもしれない。
「ごめんハルカ、こんなタイミングで頼むのもアレなんだけど」
「何?」
「明日からの生活費貸してくれないかな」
だからこうなってしまうのも自然な形だし、仕方がないよね?
「貸すわけないでしょ!」
「え、何で?」
「もうやっぱり反省してない! 絶対許さないんだからぁぁ!」
結局僕にとってのお祭りは、お金がなくなっただけのとても不幸なお祭りになってしまったのだった。
「屋台で出す特産品が足りない?」
「はい。数は確保していたつもりなのですが、一つだけ足りないものがありまして」
「足りないものとは?」
「フュリーナの近くの山で取れるキノコです」
水神祭の準備が順調に進む中、屋台で出す料理の食材が足りないという事態が起きていた。
「水の都なのに、キノコが特産品の一つなのね」
「セレナ、そこは突っ込まないであげようよ」
「美味しくなさそう」
「アリスはもっと自重しようか」
何はともあれ、食材が足りないとなれば僕達の出番。時間も残されていないので、セレナとアリスに他の作業を任せて、僕とハルカの二人でキノコ狩りに出かける事になった。
「な、何でよりによって私とユウマと なのよ」
「僕じゃ役者不足?」
「そ、そうじゃないけど」
キノコを入れるためのカゴを背負いながら、ハルカは文句ばかりを言っている。彼女の村での一件から、微妙ながらハルカとは距離を感じている。
別に避けられているというわけでもなさそうだけど、どうもよそよそしい。
「それにしてもキノコか……」
「ユウマの住んでいた国にもあったの? キノコ」
「勿論。主食にもなっていたくらいだし」
こちらの世界はどうかは分からないけど、日本にはキノコの品種は多かった。特に松茸とかは、秋には一度は食べてみたいキノコの一つ。
「この辺のキノコって美味しいのかな」
「私は分からない。でも、特産品として出しているくらいなんだから、美味しいんじゃないの?」
そんな会話をしている間に、山奥の方に登ってきた僕達は、ようやくそのキノコが生えていそうなエリアを発見した。
「結構な数あるね。どれくらい持っていった方がいいのかな」
「売り物として出すなら、それなりの量は必要だと思うけど」
僕は試しにキノコを採ろうとする。
ズボッ
だが何故かキノコは地面に潜り込んだ。キノコ自身の意思で。
「あれ?」
(今僕はおかしいものを見なかったか?)
気のせいだと思いながら、他のキノコを採ろうとするが、同じ結果が繰り返される。
うん、絶対おかしい。
「ねえハルカ、ここのキノコ」
何かが変だと言おうとした時、そこに居たはずのハルカの姿がどこにもなかった。
「ハルカ?」
僕は慌てて辺りを見回す。しかし彼女の姿が見当たらない。
「きゃあああ」
代わりに聞こえてきたのは、ハルカの悲鳴だった。僕は急いで彼女を探す。すると、キノコを採った場所より少し離れた先、そこで大量のキノコ型のモンスターに押し倒され、どうにもできない状態になっているハルカの姿が。
「何やっているの?」
「何やっているの、じゃない! 早く助けて! ふぐぅ」
助けを呼ぶハルカだが、口が塞がれてしまう。
「いや助けようにも」
この数だと近寄るのは容易な事ではない。おまけに今このハルカが置かれているこの状況、キノコに口を塞がれて、大量のモンスターに囲まれて、これはこれで、
「ありかな」
「ふぁ、ふぁにいっふぇるの(な、何言っているの?)」
「うーん、記録に残しておきたい光景だ」
「ばふぁぁ(馬鹿ぁぁ)」
少しだけ楽しんでいる僕とは裏腹に、ハルカの悲鳴が山に木霊するのであった。
男の性なんだから、仕方がないよね。
「そんなわけないでしょ!」
ちなみにこのキノコは本当にフュリーナの特産品だったらしく、ハルカがたくさん引き付けてくれたおかげで、大量に収穫できた(とは言え、モンスターだったので倒すしかなかったけど)。
「もう嫌。ユウマの馬鹿ぁ」
「楽しそうだったし、いいじゃん」
「良くないわよ!」
何はともあれ、無事食料不足は解決されたのであった。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
キノコの問題が解決し、水神祭の準備も終了してホッとしたのも束の間、その日の夜もう一つの問題が発生していた。
「え、えっとハルカさん。僕の布団がないのですが」
「ふん!」
それはキノコ狩りの一件で激怒したハルカが、僕の布団をどこかに持ち去った事から始まった。
「もしかしてまだ怒っていますか?」
「むしろどうして怒ってないって思うの?」
「ですよねー」
僕も少しばかり調子に乗った事を反省している。けどあの状態でハルカを救い出すのは難しかったのだ。
「あーあ、ハルカの事怒らせちゃったわね」
「自業自得」
「そ、それはそうなんだけどさ……」
僕はうなだれる。いや、ああいうのはこういう異世界ものとしては絶好のシチュエーションだと思ったんだよ? 助けなきゃって言う気持ちもあったけど、やっぱり男の子として僕は、
『最低』
しまいには女神様にまで罵倒されてしまいました。
「ちょっと頭冷やしてくる」
「それがいいと思う。流石に私もそれはドン引きしたから」
僕はセレナに小声でそう告げて一度宿を出た。その間もハルカは一言も発せず、僕はただひたすらに反省したのであった。
それから数時間経って。
アリスと話をした後、時間を置いて宿に戻った僕は、部屋の隅で一人うずくまって寝る事にした。
(そもそもどうして男女の部屋が一緒なんだろ)
初日は作業していて気づかなかったが、僕達四人に用意されていた部屋は一つ。そこに四つの布団が敷かれて、そこで寝泊まりする形になっていた。
なので、僕の布団がなければ自然と僕の寝床は失われるわけで……。
「ちょっとは反省した?」
静かな部屋でふとハルカの声がする。もしかして起こしてしまったのだろうか。
「流石に調子に乗りすぎたと思ってるよ」
「本当は少しだけ見直してたのに、最低な事するんだねユウマは」
「本当にごめんって」
暗闇の中で僕は土下座をする。勿論その姿は見えていないだろうけど、せめてもの謝罪の意を示したかった。
「もういいよ。油断していた私も悪かったから」
「そんな事は……」
「本当に反省しているなら、明日誠意を見せて」
「誠意?」
「私、祭りっていう行事は初めてだから勝手が分からないの。だから案内してほしい」
そんな簡単な事でいいのかと聞きそうになるが、彼女がそれでいいと言うならそれでいい。僕が偉そうに言える立場じゃないけど。
「分かった。僕が出来る限りの事は尽くすよ」
「期待してる」
僕とハルカは小さな約束をして、その後に眠りについた。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
ハルカとの昨晩の約束を果たす事ができたのは、水神祭も終盤に差し掛かった頃。デルーテとの戦いで疲れが取れない僕に対して、ハルカは僕をあっちこっち振り回した。
「ねえハルカ、そんなに食べて大丈夫なの?」
「そう言って私が買うのをやめると思ったら大間違い。今日はとことん食べるんだから」
ハルカの食事代を僕が払い、ハルカはひたすら食べ続ける。逆に僕はほとんど食べられず、まさに振り回されるとはこの事だった。
「ふぅ、流石にここまで頑張ってくれたから、昨日の事は許してあげる」
ひたすら食べて数時間、ようやくハルカはそう言葉をもらした。
「え? いいの?」
「いいも何も、もうお金ないでしょ?」
「うっ、それは……」
「流石にユウマの誠意は伝わってきた。こんな私に付き合ってくれてありがとう」
恥ずかしながらハルカは言う。喜んでもらえたならこちらとしては付き合ってよかったと思えるし、彼女が笑顔なら多少の出費は……いや、ちょっと明日からの生活が危ないかもしれない。
「ごめんハルカ、こんなタイミングで頼むのもアレなんだけど」
「何?」
「明日からの生活費貸してくれないかな」
だからこうなってしまうのも自然な形だし、仕方がないよね?
「貸すわけないでしょ!」
「え、何で?」
「もうやっぱり反省してない! 絶対許さないんだからぁぁ!」
結局僕にとってのお祭りは、お金がなくなっただけのとても不幸なお祭りになってしまったのだった。
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