影が薄いけど魔法使いやっています

りょう

第3話初めての仲間と初めての戦闘

 深夜。隣でセレナが寝息を立てている中、僕は眠れずにいた。本当は疲れて眠いはずなのに、何度目を瞑っても眠れない。原因はやはりこの世界に来たばかりだから、なのだろう。

(突然死んだり、熊に襲われたり、散々な一日だったな今日は)

 忘れそうになるが僕は、何時間前までは普通に生きていたはずの人間だったのだ。それなのに、いきなり病気で死んだとか、異世界に行って魔法使いになって影の薄い自分を変えるとか、半分僕の意思であったにせよ滅茶苦茶過ぎる。

(おまけにサポートしてくれるはずの女神様も、声すら聞こえないし)

 一体どうなっているのだろうか。

「どうしたのユウマ、寝れないの?」

 そんな事を考えていると、起こしてしまったのかセレナの声が聞こえる。

「ちょっと考え事してたら、眠れなくてさ」

「そういえば別の所から来たみたいな言い方してたけど、それと関係があるの?」

「うん、まあ」

「そっかぁ」

 しばらくの沈黙が流れる。あれ?

「理由とかは聞かなないの?」

「別にそれはどうでもよくなっちゃった。聞いたところで私には分からない話だと思うし」

「それは……そうだけど」

 急にしおらしくなったセレナにちょっとだけ驚く。恐らくこの話が通じるのは、あのシレナくらいかと思うから、それはそれで助かるんだけど。

「ねえユウマ、あなたこれからどうするの?」

「まだ何も決まってないんだ。そもそもこの世界で何をすればいいかも分からないし、とりあえずこの馬車の行く先の街でゆっくり考えてみるよ」

「じゃあさ、こうして出会えたのも何かの縁だし私とパーティを組まない?」

「パーティ?」

 あのRPGとかでやつ?

「そう、パーティ。見たところまだ何も出来なさそうだし、私があなたとパーティを組んで基本的な事から教えてあげる」

「それはすごくありがたいけど」

 僕にはそのレクチャー係が、本来ならいるはずなんだけど、怒られたりしないだろうか。

「もしかして不満?」

「いや、むしろ大歓迎なんだけど。こんな僕でもいいの?」

「勿論。それに私もずっと一人だったから」

「え?」

「あ、えっと、今のは聞かなかったことにして」

「もしかしてセレナって強そうに見えて、ボッチだから寂しくて……」

「そ、そうじゃないわよ馬鹿!」

 頭を殴られる。どうやら図星だったらしい。

「と、とにかく、今日からユウマと私は仲間。それだけ! おやすみ」

 それだけ言ってセレナは再び眠りについた。僕も彼女と話をしたおかげか眠気が増し、すぐに眠りにつくことが出来た。

(仲間、か)

 二十年の間誰からも認識されずに一人の時が多かった僕にとって、その言葉はとても喜ばしい言葉であった。

 ■□■□■□
 この世界に来て二日目の朝を迎えた。目を覚ますと、馬車はまだ目的地に到着しておらず、僕達は馬車に揺られていた。

(馬主の人は朝方には着くって言っていたし、もうすぐかな)

 そう思ってもう一度眠ろうとしたところで、馬車が突然急停車する。衝撃で積荷が崩れ、僕達は巻き込まれてしまう。

「な、何だ」

 荷物をどかしながら外へ出る。どうやら馬車はどこかの森の中で停止してしまったようだ。

「すいません、どうかしまし……」

 裏側から出て馬車の前方の方を覗いてみる。

「……え?」

 しかしそこには馬主の姿がなく、馬だけが残されていた。しかもその馬も、足を怪我しておりすぐには進めなさそうだった。

「一体何が……」

 さっきまで普通に馬車は動いていたはずなのだから、この一瞬で馬主はどこかへ消えてしまったのだろうか。血とかそんな跡は見当たらないし、

「いたた、どうしたのユウマ」

 衝撃で目を覚ましたのか、セレナが馬車から出てくる。そして僕の視線の先を見て、驚きの声を上げた。

「え? ちょっと、これって」

「ついさっきまで馬車は動いていたはずなのに、一体何が起きたのかな」

「もしかしたら私達が寝ている間に、魔物の襲撃にでもあったのかも」

「でもそうだとしたら、血が……」

「ちょっと待って、誰かいる」

 会話の途中でセレナが何かに気づく。僕にはそういう気配を感知するような力はないので、誰かがいるようには思えないけど、

「構えてユウマ。どうやら私達パーティの初めての戦闘になると思うから」

「え? でも僕」

「いいから」

 避けられない戦いだと分かったのか、セレナが常に腰につけている鞘から剣を抜き出す。僕も一応身につけておいた杖を手に取り、戦いに備える。

「来る!」

 セレナの台詞とほぼ同時に、近くの草むらから何かが飛び出してくる。それは物凄いスピードで僕の方ではなく、セレナへと飛びついてきた。

「くっ、ウルフね」

 それを受け流したセレナは、その勢いで斬りつけようとするが、草むらからもう一匹、セレナがウルフと呼んだ獣が襲いかかってくる。
 だがそれは、明らかに僕の横を通り過ぎているのに、セレナへと襲いかかっていた。

「あれ? 何で私? ユウマも狙ってよ。寧ろユウマが囮になれば」

「セレナ、それはちょっと酷い」

 とはいえ、戦闘に慣れているのか、それもスルーする。けど、何故かさっきのようには斬りかからない。

(あれ? どうしたんだろ)

 熊の時も一撃加えたら、そのまま逃げたけど何かあるのだろうか。
 その後しばらくセレナはウルフの攻撃を避けるだけという姿が僕の目の前に広がり続けた。だが次第にウルフは一つの群れになっていた。

「はぁ……はぁ……ねえ、どうして私ばかり……」

 だけど案の定というべきか、その群れは僕をスルーしてセレナぬばかり攻撃を続けるのであった。

「セレナ、次後ろから来てるよ」

「ちょっとユウマ、見てないで戦ってよ」

「そうは言っても……」

 魔法使った事ないし。

『シャインって唱えて、ユウマ』

 困っていると、ようやく聞きたかった声が僕の耳に届いた。

(何でこういう時だけ……)

 最初の熊の時に助けてほしかったと思いながらも、僕は声に従って、

「セレナ、避けて」

「わかった」

「シャイン!」

 魔法を唱えた。すると魔法陣が形成され、そこから光が光線のごとく放たれた。その光線はウルフの群れに直撃して、そのまま消し去った。 

 近くにあった馬車や木をもろとも全て巻き込んで。

「え?」

「ユウマ、何その威力」

 軽い気持ちで放った魔法は、馬車が通ったであろう道がほぼ焼け野原になるくらいの威力を誇っていた。

『これが基本的な魔法よ』

「絶対嘘だ!」

 光の女神様は誇らしげに言うが、これが基礎魔法だなんて信じられない。

「誰と話してるの?」

「あ、えっと」

 神様とだなんて、言えないよな絶対的。それに……。

「これどうしよう」

 今の魔法で森が焼け野原と化してしまった。

(どこかからか苦情来たりしないよね?)

 僕の初めての戦闘は、思わぬ被害を残して終わったのであった。

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