影が薄いけど魔法使いやっています
第1話旅立ちと熊さん
光の魔法を授けられ、その後色々とやり取りはしたものの大体がロクでもない話だった。
「あのさ、そろそろ異世界へ行くなら行かせて欲しいんだけど」
流石にその状態がいつまでも続いているとあれなので、僕は本題に戻す。
「え、あ、ごめん。魔法を授けただけで満足してた」
「本当に大丈夫なのかな」
「心配しないで。何も怖くないから」
「フラグにしか聞こえないんだけど」
先ほどからグダグダな女神様。そもそも今のところ彼女が女神と思えるような事を一つもされていない気もする。魔法を授けられたとはいえど、果たしてそれが本当に僕が使えるのかも分からない。そもそも魔法って、ゲームでいうMPとか必要になるのでは?
「ねえ、こんな杖渡されたけど魔法が本当に使えるの?」
「その辺りは心配しなくて大丈夫。さっき私は魔法と一緒に魔力とかも渡しておいたから。あとそうだ、これ」
そう言ってシレナさんは僕に一枚のカードを渡してくる。
「これは?」
「異世界に行けば分かるよ。大切なものだから失くさないでね」
見た目は僕の世界で言う免許書に近いものだけど、今は何も記されていない。強いて言えば僕の名前と写真が……。
「って、何で僕の顔写真があるの?」
しかも少し前の写真とかではなく、明らかに最近なもの。僕最近写真なんて撮った記憶がないんだけど。
「もしかして盗撮?」
「盗撮なんて神様がするわけないよ。それは極秘ルートから入手したもので」
「極秘ルートって何?!」
神様なら堂々と理由を明かして欲しいのだけど、そんなあからさまに隠す必要はどこに?
「と、とにかく、だいぶ時間も経っちゃったしそろそろ出発しようか」
「話を逸らさないでほしいんだけど……」
「ほら、心の準備はできた?」
僕の言葉を無視して話を進める女神様。
(心の準備なんて言われても)
準備する時間なんてなかったんですけど。
「ま、まだ、そんなすぐには」
「じゃあ五秒で準備して」
「そんな無茶な」
でも時間はなさそうだし、ここは自分に嘘をついてでも……。
「準備はできたよ、一応」
「よし、じゃあ行こうか」
そう言って気がつけば僕の隣に来ている女神様。足元にはワープする為のものであろう魔法陣が。
あれ? この状況って……。
「出発前に一つ聞いていい?」
「何?」
「もしかして一緒に行く気?」
「え? 最初からそのつもりだけど。サポートするって言ったし」
「それって大丈夫なの? 一応神様なんだし、仕事とかあるんじゃ」
「一応は余計だよ。それに付いて行くって言っても、ユウマ君以外には姿見えないようになっているから」
「それってつまり、仮に会話をしていても独り言になるって事?」
「うん」
何かそれ周りの人から怪しい目で見られてしまいそうで、怖いんだけど。
「ほら、そろそろ行こう」
「え、あ、ちょっ」
女神様は僕の手を取る。同時に足元の魔法陣が光だし、僕の視界は光に包まれた。
こうして僕高坂悠馬の長い長い冒険の幕が開いた。
■□■□■□
光が消え、再び目を覚ますとそこは草原だった。
「ここは……?」
見知らぬところに立たされた僕は、一瞬どうなっているのか理解できなかったけど、すぐにそこが異世界だと理解できた。何故かって、それは、
グワァァ
僕の目の前で咆哮を上げる一頭の熊がいたからだ。昔童謡とかで森の中で出会う熊さんとかがいた気がするけど、これはそんな生ぬるいものではない。
ある日、草原の中、熊さんに……。
「は、ハロー?」
鋭い目でこちらを見てくる熊さん。うん、明らかに駄目な奴ですねこれ。
(と、とりあえずここは)
「逃げるが勝ち!」
僕は熊に背を向けて全速力で走り出した。
スタコラサッサッサノサ
って、そんなノンビリ逃げている場合ではない。
(早速ピンチなのに、さっきから女神様の声も何も聞こえないんですけど)
サポートするなら早く助けてほしいのに。
「ちゅ、チュートリアルとかは……」
草原を見回してみるけど、RPGみたいに優しい説明文がどこかに書いてあるわけでもなく、
「あるわけないよなぁ」
それより、さっきから背後からものすごいスピードで足音が聞こえてくるのは気のせいだと思いたい。
「は、早っ!」
チラッと後ろを見ると、もうすぐそこまで熊さんがやって来ていた。隠れる場所とかがあればいいのだけど、何せここは草原。そんな場所などあるはずがない。もう逃げられないし、ここはもうぶっつけ本番で魔法を試すしか、
「君、伏せて!」
突然どこからか声が聞こえる。僕は声に従って体を伏せる。それと同時に、誰かが僕を踏み台にした感触が背中に感じる。でもその感覚がしたのはほんの一瞬の出来事で、次には熊の悲鳴が聞こえた。
(もしかして、誰かが僕を助けてくれたの?)
助けてくれたのは嬉しいんだけど、背中を踏まれたせいで顔面が泥だらけになってしまった。
そしてしばらくした後……。
「ふぅ、大丈夫だった君……って、あれ? どっか行っちゃった?」
女性の声と思わしき声は、僕を探している。すぐ近くに伏せているのだけれど、案の定影が薄いので気付かれていないのだろう。
「もしかして私、殺しちゃった? ねえ、返事してよ」
しばらく黙っていると、更に困ったような声がする。
「ぼ、僕はここです。イテテ」
このまま黙っているのも可哀想になったので、僕は体を起こしながら返事をする。
「あ、よかった! そんな所にいたんだ」
「いたも何も、ずっと動いていなかったんだけどなぁ」
泥を払って女性と向き合う。そこに立っていたのは、いかにもな騎士の鎧をまとった、黄色の長い髪型をしている女性だった。
「まさかこんな所に初級の魔法使いの子がいるなんて、思いもしなかったなぁ」
「こんな所?」
見た目は最初の草原みたいな場所なんだけど、あの熊の事もあるしもしかして中盤の場所とかなのかな。
「ここは魔王の城の手前の魔の草原という場所。さっきの熊はあなたのレベルの十倍くらいの差はあるモンスターよ」
「ま、魔王の城の手前?!」
つまりラスダン前の場所とかなのここ。
「もしかして何も知らないでこんな所を彷徨ってたの?」
「知っているも何も僕は……」
と、説明しようとしたところで僕は、女性の後ろで倒れたはずの熊が立ち上がるのが見える。
「あ、あの後ろ」
「後ろ?」
女性が振り返り、熊の事に気がつく。そして、彼女は慌てて僕の手を取った。
「に、逃げるよ!」
「え?」
一撃で仕留めたから、格好いいと思ってしまったのに……。
ああ女神様
僕の冒険は最初から終わりを迎えそうなので、早く助けてください。
「あのさ、そろそろ異世界へ行くなら行かせて欲しいんだけど」
流石にその状態がいつまでも続いているとあれなので、僕は本題に戻す。
「え、あ、ごめん。魔法を授けただけで満足してた」
「本当に大丈夫なのかな」
「心配しないで。何も怖くないから」
「フラグにしか聞こえないんだけど」
先ほどからグダグダな女神様。そもそも今のところ彼女が女神と思えるような事を一つもされていない気もする。魔法を授けられたとはいえど、果たしてそれが本当に僕が使えるのかも分からない。そもそも魔法って、ゲームでいうMPとか必要になるのでは?
「ねえ、こんな杖渡されたけど魔法が本当に使えるの?」
「その辺りは心配しなくて大丈夫。さっき私は魔法と一緒に魔力とかも渡しておいたから。あとそうだ、これ」
そう言ってシレナさんは僕に一枚のカードを渡してくる。
「これは?」
「異世界に行けば分かるよ。大切なものだから失くさないでね」
見た目は僕の世界で言う免許書に近いものだけど、今は何も記されていない。強いて言えば僕の名前と写真が……。
「って、何で僕の顔写真があるの?」
しかも少し前の写真とかではなく、明らかに最近なもの。僕最近写真なんて撮った記憶がないんだけど。
「もしかして盗撮?」
「盗撮なんて神様がするわけないよ。それは極秘ルートから入手したもので」
「極秘ルートって何?!」
神様なら堂々と理由を明かして欲しいのだけど、そんなあからさまに隠す必要はどこに?
「と、とにかく、だいぶ時間も経っちゃったしそろそろ出発しようか」
「話を逸らさないでほしいんだけど……」
「ほら、心の準備はできた?」
僕の言葉を無視して話を進める女神様。
(心の準備なんて言われても)
準備する時間なんてなかったんですけど。
「ま、まだ、そんなすぐには」
「じゃあ五秒で準備して」
「そんな無茶な」
でも時間はなさそうだし、ここは自分に嘘をついてでも……。
「準備はできたよ、一応」
「よし、じゃあ行こうか」
そう言って気がつけば僕の隣に来ている女神様。足元にはワープする為のものであろう魔法陣が。
あれ? この状況って……。
「出発前に一つ聞いていい?」
「何?」
「もしかして一緒に行く気?」
「え? 最初からそのつもりだけど。サポートするって言ったし」
「それって大丈夫なの? 一応神様なんだし、仕事とかあるんじゃ」
「一応は余計だよ。それに付いて行くって言っても、ユウマ君以外には姿見えないようになっているから」
「それってつまり、仮に会話をしていても独り言になるって事?」
「うん」
何かそれ周りの人から怪しい目で見られてしまいそうで、怖いんだけど。
「ほら、そろそろ行こう」
「え、あ、ちょっ」
女神様は僕の手を取る。同時に足元の魔法陣が光だし、僕の視界は光に包まれた。
こうして僕高坂悠馬の長い長い冒険の幕が開いた。
■□■□■□
光が消え、再び目を覚ますとそこは草原だった。
「ここは……?」
見知らぬところに立たされた僕は、一瞬どうなっているのか理解できなかったけど、すぐにそこが異世界だと理解できた。何故かって、それは、
グワァァ
僕の目の前で咆哮を上げる一頭の熊がいたからだ。昔童謡とかで森の中で出会う熊さんとかがいた気がするけど、これはそんな生ぬるいものではない。
ある日、草原の中、熊さんに……。
「は、ハロー?」
鋭い目でこちらを見てくる熊さん。うん、明らかに駄目な奴ですねこれ。
(と、とりあえずここは)
「逃げるが勝ち!」
僕は熊に背を向けて全速力で走り出した。
スタコラサッサッサノサ
って、そんなノンビリ逃げている場合ではない。
(早速ピンチなのに、さっきから女神様の声も何も聞こえないんですけど)
サポートするなら早く助けてほしいのに。
「ちゅ、チュートリアルとかは……」
草原を見回してみるけど、RPGみたいに優しい説明文がどこかに書いてあるわけでもなく、
「あるわけないよなぁ」
それより、さっきから背後からものすごいスピードで足音が聞こえてくるのは気のせいだと思いたい。
「は、早っ!」
チラッと後ろを見ると、もうすぐそこまで熊さんがやって来ていた。隠れる場所とかがあればいいのだけど、何せここは草原。そんな場所などあるはずがない。もう逃げられないし、ここはもうぶっつけ本番で魔法を試すしか、
「君、伏せて!」
突然どこからか声が聞こえる。僕は声に従って体を伏せる。それと同時に、誰かが僕を踏み台にした感触が背中に感じる。でもその感覚がしたのはほんの一瞬の出来事で、次には熊の悲鳴が聞こえた。
(もしかして、誰かが僕を助けてくれたの?)
助けてくれたのは嬉しいんだけど、背中を踏まれたせいで顔面が泥だらけになってしまった。
そしてしばらくした後……。
「ふぅ、大丈夫だった君……って、あれ? どっか行っちゃった?」
女性の声と思わしき声は、僕を探している。すぐ近くに伏せているのだけれど、案の定影が薄いので気付かれていないのだろう。
「もしかして私、殺しちゃった? ねえ、返事してよ」
しばらく黙っていると、更に困ったような声がする。
「ぼ、僕はここです。イテテ」
このまま黙っているのも可哀想になったので、僕は体を起こしながら返事をする。
「あ、よかった! そんな所にいたんだ」
「いたも何も、ずっと動いていなかったんだけどなぁ」
泥を払って女性と向き合う。そこに立っていたのは、いかにもな騎士の鎧をまとった、黄色の長い髪型をしている女性だった。
「まさかこんな所に初級の魔法使いの子がいるなんて、思いもしなかったなぁ」
「こんな所?」
見た目は最初の草原みたいな場所なんだけど、あの熊の事もあるしもしかして中盤の場所とかなのかな。
「ここは魔王の城の手前の魔の草原という場所。さっきの熊はあなたのレベルの十倍くらいの差はあるモンスターよ」
「ま、魔王の城の手前?!」
つまりラスダン前の場所とかなのここ。
「もしかして何も知らないでこんな所を彷徨ってたの?」
「知っているも何も僕は……」
と、説明しようとしたところで僕は、女性の後ろで倒れたはずの熊が立ち上がるのが見える。
「あ、あの後ろ」
「後ろ?」
女性が振り返り、熊の事に気がつく。そして、彼女は慌てて僕の手を取った。
「に、逃げるよ!」
「え?」
一撃で仕留めたから、格好いいと思ってしまったのに……。
ああ女神様
僕の冒険は最初から終わりを迎えそうなので、早く助けてください。
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