ホラー大好き少女は日本人形になって異世界を(無自覚で)恐怖のどん底に突き落とす

宮藤小夜

ホラー大好き少女は日本人形になって異世界を(無自覚で)恐怖のどん底に突き落とす

ヒタ・・ヒタ・・。


足音・・?バカな。この家には俺以外誰もいないはずなのに・・。バッ、と男は振り返る。だが、誰もいない。気のせいか・・?そう思い前を向いた瞬間ぽつり、と目の前に人が立っていた。うつむいていて顔は見えないが、陶器のような白い肌に、白いワンピース。そして、地につくかのような真っ黒で長い髪の少女だ。

「だれ・・だ?」

男の声は震えていた。そうだ、だって、誰もいるはずがないんだ・・この家には。少女はゆっくりと顔を上げる。ゆっくり、ゆっくりと・・ニヤリ。笑った。

次の瞬間、少女の姿は変わっていた。長い黒髪は地に着くまで伸び、その隙間から覗く二つの、なにも写してないような不気味な瞳。ケタケタと笑いながら獣のように、少女は男へと歩み寄る。

「っ来るな!来るなああああああ!!!!!!!」

恐怖に駆られた男は、上着のポケットから折りたたみ式のナイフを取り出すと、振り回しながらむちゃくちゃに逃げ回った。

気づいたら、男は二階にいた。息が荒い。落ち着け、落ち着け!!手を口元に当てて、息を整える。しばらくそうしていると、ギイ・・ギシっ・・・と、階段を上る足音が聞こえて来る。男は慌てて近くの部屋に入った。そして、鍵を閉める。そして安心したのか、ドアに額を当てゆっくりと息を吐いた。




ギイッ・・




ヒタ・・・ヒタ・・・・。


階段を上がったのだろう。足音が変わった。体が、無意識にブルリ・・と大きく震えた。

どくんっ・・。どくんっ・・・。静かにして、耳を澄ませる。


ヒタ・・ヒタ・・・。


足音がドアの前を通りすぎた。ほっ、と息を吐いた。その瞬間・・



ガチャ・・ガチャガチャ・・。


と、目の前のドアの取手が音をたてた。男は恐怖で一歩、また一歩と後ろに下がる。

ガチャ・・ガチャ・・・・・・

ガチャガ、チャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャッッッ!!!!!!!

ガチャッ!!!・・・。し〜ん。


音が止んだ。諦めたのか・・?
男はそっと息を吐いた。だがその時、男の背後の窓から、音がした。




キリ・・パキッ・・




何で・・馬鹿な。ここは二階だぞ?男が振り替えると、窓が開いていた。そしてゆっくり、ゆっくりと少しずつまた窓が開いていく。どくん、どくんと、心臓の音が聞こえる。まるで全身が心臓になったみたいだ。男はふらふらと窓に近付く。そして思いきり窓を開けた。


・・ギギッ・・ギギギッ・・・・バンッ!!!!


すぐに窓の外を見渡す。そこから見えるのは、風に揺れる木々だけだった。

なんだ・・風のせいで開いただけか・・。

男はほっとして窓に背を向けた。そしてドアのほうへ向かおうと足を踏み出した瞬間、ピタリ、と体全体が止まった。

おかしい。この家の窓は全部閉めてたはず・・。なんで・・・・開いていたんだ?

そう考え付いたとき、背後から冷たい風が頬を撫で、目の前が暗くなった。















みぃつけたぁ






















「ぎゃあぁああぁぁぁぁあああぁーー!!」

「きゃあぁああぁぁぁぁあああぁーー♪」


この室内には、三人の女がいた。二人は恐怖の表情で抱き合い悲鳴をあげ、残りの一人は・・頬を染め輝いた瞳で喜びの叫びをあげていた。想像がつきにくいのなら、有名な芸能人に群がる女たちを思い浮かべるといいだろう。

「いやちょっと待て!!♪はおかしい!!こんな怖いのになんでそんな恋する乙女のような顔で叫んでんじゃボケー!!」

「そうよ!ほんっとあり得ない!私達でも見れそうなあんまり怖くないやつ持ってきてっていったのに!何よこれ!めちゃくちゃ怖かったじゃない!!」

最初に喋ったのが永島光希ながしまみつき。肩に付くか付かないかぐらいのショートの髪で男前な性格。そしてもう一人が九瀬未来ここのせみらい。ふわふわした長い髪で少しキツい性格。光希いわくツンデレ?らしいよ。そんな二人が青白い顔をし、泣きながら一人の女の子に詰め寄る。だがその少女はきょとん、とした顔で二人に言った。

「え、ごめん。これでも怖かったの・・?一応家にあったなかでマシなの選んできたんだけど・・。それにしても・・そんなにおかしいかな?でも、しょうがないよ。だって、私・・ホラーとか・・・・大!大!大好きなんだもーん♪」

私の名前は市松ミコト。将来の夢は理科室にある骸骨になって七不思議になることかな!身長は160くらいで体重は秘密!私立寿園しりつじゅおん高校に通う高校2年生です!

私がこの高校に決めた理由は・・分かるよね?

そう!名前!この高校の漢字を変えるとね、呪怨になるんだよ!もう、運命感じちゃった♪しかもしかも、制服は黒いセーラー服だしね!いやー、偏差値高くて焦ったけど、なんとかなるもんだよね!あんなに勉強したのって人生で初めてだったかも。私は自分の大好きなことのためならなんでも出来ると思う。ドヤァ。

今日は高校でできた友達の家でホラー映画を見てたんだ。私セレクトのやつ!内容は簡単に言うとね、ひとりですんでる家に女の幽霊が来て男の人を殺そうとするの!実はこれ、r18のやつもあるんだけど
・・二人に見せちゃったらトラウマになっちゃうかも。

そんなことを考えていたら光希にあのDVDを渡された。

「ミコト!これ!今すぐ!もって!かえって!!」

「え~!せっかくこれからがいいところなのに・・あ、飽きちゃったの?なら違うやつでも見る?」

私は鞄から「バラバラ殺人~怨み~」という題名のDVDを出した。ら、物凄い勢いで手ごと鞄に戻された。

「嫌だ!それも絶対ホラーでしょ!題名からして恐っろしいわ!!」

「いてっ」

うえ~殴られたー。手加減なしだったよ。じくじくする。頭をさすさすと撫でていたら未来が体を震わせて言った。

「は・・吐きそう」

先程のDVDを見た恐怖で気持ち悪くなったらしく、口元に手をあてぐったりしていた。

「もう・・限、界・・・・」

倒れてしまった未来に慌てて駆け寄る光希とミコト。

「未来ー!!?」

「未来ちゃーん!!?」



*********



「あー・・またやっちゃった・・」


もうじき夕陽が沈みそうだ。そんな家への帰り道、ミコトは少し後悔していた。今日みたいなことがあったのは何もこれが初めてではない。両手の数以下くらい同じ事があった。そのうちの三回くらいは中学のときのことで、なかのよかった友人を失った。その時は私にとって、友情よりもホラーが一番だったからだ。

だけど、光希と未来だけは離れずに、こんな私のそばにいてくれた。目の前で死んだふりしたり、手首をちょんぎったふりをしたイタズラをしたときでも、そばにいてくれた・・。トラウマになりそうな呪いのDVDを無理矢理見せたときも、悲鳴をあげながらも最後まで一緒に見てくれた。二人は私のかけがえのない、とってもとっても、大切な友達だ。

だからこそ私の好きなものを共有したいとおもっちゃうんだけどね・・。



うん。もう少し恐怖レベル抑えたDVD探そ・・。


心のなかでそんな決意をしていると道の先にあるごみ捨て場の上に、一体の人形が座っていた。



ーーそう、これが運命の出会いだったーー。



サラサラと透き通り、太陽に照らされると光輝き黒曜石のような腰まである黒い髪に、まるで血に染まっているような蝶が描かれている黒い着物。頬はほんのりと赤色に染まっており、パッチリとした黒いビー玉のような瞳。

ミコトは、その人形と目があったような気がした。そして、心臓を撃ち抜かれたのだ。一目惚れだった。今まで見たどんな人形(呪いコレクション)より美しい・・・。人がいないか辺りを見渡し、人形に近付いていく。そして、まるで吸い寄せられるように手に取った。

「か・・か、かっわいー!!」

この子、ごみ捨て場にいたってことは捨てられたんだよね?うー!もったいない!なんでこんな美人で可愛いこを捨てられるんだろう?ああでも、捨ててくれた人に感謝しなくちゃ!だって、私とこの子を出会わせてくれたんだもん!

そしてもう一度辺りを見渡す。

・・よし、誰もいない!

ミコトはその人形を両手で抱き、家へ向かって走り出した。幸い、家につくまでに他の人には会わなかった。家につくとミコトは人形とお風呂場へ入り汚れを落とし綺麗にして、寝るために自分の部屋へ向かった。もちろん人形も一緒だ。

ミコトの部屋は、なんというか・・恐ろしい。壁にはジェイ⭕ンやフレ⭕ィ、チャッ⭕ーなどの壁紙が張ってあり、棚の上には体の一部が欠けていたり溶けていたりする人形並んでいる。本棚には拷問や心霊、殺人などの本が山のようにあるのだ。普通の人から見ると、おかしい人というより、確実にヤバイ人だろう。

ミコトは人形と一緒に布団に入りった。そして横を向き、人形の顔をじっと見る。

「ふふ・・やっぱり暗闇から見るとさらに可愛いなー。そうだ、名前をつけてあげなきゃ!何がいいかなぁ・・ふあぁ・・・眠い。うん、明日決めよ・・おやすみなさーい・・」


***************







コポッ





なんか、ゆらゆらする・・気持ちいい・・・。







ゴボゴボッ・・







ん?なんだろ・・苦しい・・?

ミコトはそっと目を開けた。

・・?・・・・!?ええぇぇぇえ!?

目を開けたら、水のなかだった。

なんでなんでなんで!?私、家で寝てたよね!?なんで水のなかにいるの!?・・ってヤバイ!息が!!

両手がうまく動かない。早く!早くー!!








ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッッッ!!!








ヤバイ苦しい!え、ちょ、空気!マジで空気頂戴!ほんとヤバイヤバイヤバイ!!!









ゴボゴボゴボッ・・ザバッッッーー!!!






「っぷはー!!ケホケホッ!はぁ・・はぁ・・し、死ぬかと思ったー!!」



ミコトはなんとか水の中から出てきた。辺りを見渡す。木が沢山ある。森かな?風が心地いい。水だと思っていたのは泉のようなものだったらしい。ミコトは泉から出ようとすると、近くに黒い靴があることに気がついた。


・・ん?



視線を靴から上になぞっていく。そこには、青ざめた顔の男の人が立っていた。風に揺れサラサラしている金色の髪に、透き通るような水色の瞳。

かっこいい人・・だけど、タイプじゃないな~。てかこの人日本人じゃないよね。外国の人だよね・・?

「あの・・」

ミコトが今いる場所を聞こうとしたが、急に男の人が倒れた。

「うえぇえぇぇええええぇええ!?」

その男を心配して泉から出たミコト。そのときふ、と泉に視線をやった。

「え・・?」

そこに映っていたのはあの人形だった。だが、ミコトの近くには誰もいない。もう一度泉を見る。・・やはりいる。そこにむかい何か喋ろうと口を開くと、泉に映っている人形も口を開いた。

・・ん?

今・・いやいやいや。気のせい気のせい!

右手を左右に降り否定するが、泉の人形も同じ動作をする。・・右手を上げる。・・左手を上げる。・・変顔・・。

ミコトがすること全部が泉に映る人形も真似している。



つまり、人形=・・・私!?



「な、な、な・・なんですとおおおおぉおぉぉおぉおお!!?」




これは何故か人形になってしまった少女と、完璧人間と言われている騎士様(怖いものが大嫌い)が送る、異世界でのお話の始まりである。

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