運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

掃除要員に適しているのは、元直さんと亮さんと琉璃ちゃんと、意外なことに景虎君です。

やって来たのは、二人の青年。
一人は琉璃りゅうりと同じ黄金色の髪に瞳は青、青年なのだが本当に性別を間違って生まれてきたのだろうと思うほど美しい。
もう一人は、落ち着いた印象の、微笑みの優しい青年。

「お久しぶりです。柚須浦ゆすうら教授。蓮花れんげさんも百合ゆりちゃんも、こんにちは」
「久しぶりだね。時々君の性別を間違えそうだよ」
「自分でもそう思うんですよね……」

くすくす笑う青年の横で、

「柚須浦教授にご家族は、もしよろしければ、主、光来こうらいよりお茶をと申されておりました。いかがでしょう?そして、そちらのお子さんは……」
「初めてお目にかかる。我は越後の長尾景虎ながおかげとらと申すもの。よろしくお願い致す」

少年の子供らしからぬ一言に絶句し、そして、

「景虎君だね?私は庄井元直しょういげんちょく。年は、亮より二つ上だよ。よろしくね?」
「で、私は、琉璃の兄で、光来月英こうらいげつえいです。デザイナーをしているんだ。よろしく」

二人は落ち着いた雰囲気と美貌の主だが、どちらも気さくである。

「じゃぁ、まずは、景虎君、こっちに来て。一番きれいな部屋は采明あやめちゃんの部屋だって解るから、行きましょう」

月英が案内し、そして亮が元直に封筒を渡し、

「元直兄、向こうについてから、蓮花さんにお渡ししてください」
「あぁ、解った。琉璃も帰る?」

大好きな兄の言葉に、

「ううん、琉璃もお手伝いしゅゆの!!がんばゆ!!」
「そうか、偉いね、琉璃は。じゃぁ、お兄ちゃんが戻ってくるまで頑張ってね?」
「うん!!」

元直は頭を撫でると、3人を連れ出ていった。
亮は、

「やっぱり……采明ちゃんがいないとこうなると思っていたんだよ。あの子は本当に真面目な子だから」
「采明ちゃん?」
「そう。12才。中学一年生だね。だからもうすぐ13才なんだけど、百合ちゃんよりも小さくて、ほら、そこれが家族写真。教授と蓮花さん。頭ひとつ高いのが百合ちゃんでしょう?この小さくて眼鏡をかけている子が、采明ちゃんだよ」

琉璃は首をかしげ、

「お家の人皆黒い髪に瞳。でも、お姉ちゃんは明るい色でしゅね?」
「蓮花さんのお母さんが北欧出身で、采明ちゃんはおばあ様に似ているんだよ」
「しょうなのでしゅか、うらやましいでしゅ。綺麗でしゅ」
「琉璃の髪も瞳も可愛いし綺麗だと、私は思うよ?」

よしよしと頭を撫でると、

「まずは、琉璃とこの部屋から綺麗にしようね?全ての部屋から洗濯物は持ってきて、色分けをして、洗濯しよう。そして、その間に掃除と、台所に庭の掃除をして……頑張ろうね?」
「あいっ!」

と言ったものの、琉璃の家よりも小さいものの、豪邸の中にある洗濯物にごみに琉璃はぐったりする。

「大丈夫か?」

テディベアを抱いた少年が兄と並んでいる。
長い髪は横でゆったりと編み流している。

「あ、景虎君!!しゅごいねぇ?かっこいいね!!」

服装は少々固めのブルーのシャツに紺色の半ズボン、サスペンダーを着けている。
靴は焦げ茶色の学生靴、靴下は少し厚めの白のハイソックスである。
景虎は自分の格好を見て、

「良くわからぬが、月英兄上が模様違いの服なので大丈夫かと。琉璃の服は可愛いな」
「本当?にーちゃまに選んでもらったの」
「兄上?」

月英を見るが、首を振り大荷物を抱えて姿を見せた亮を示す。

「亮は、琉璃の事に関しては、本当に厳しくてな」
「そうなのか。でも、亮兄上ご自身はご自分に無頓着そうだな」
「そうなんだ。巨人と言うか、背が高いがほっそりとしているだろう?背丈で合わせると肩幅や腰の幅が合わない、腰の幅で合わせると、足が、こんな感じになる」

月英は、自分の足を持ち上げ、裾をつまむ。

「それは大変だ……と言うか、普通の人間は立ったままそういう風に平衡感覚を保てないが、月英兄上は、何かされていたのか?」
「あぁ、バレエに声楽に、社交性を身に付けるためにある程度のマナー……礼儀作法を学ぶんだ。景虎も学んでもらうぞ」
「な、何だと!?我がか!?」

目を見開く少年に、月英は、

「景虎のその堅苦しい言葉遣いや、その動きも固い。言葉遣いはもっと柔らかく、動きもしなやかで優雅に、上品さを求める。それに、周囲の意見を聞いたり、自分の意見を押し付けではなく、私としてはこう言う風な事も考えられないかと思うのだが……と話題をすり替えたり、国の当主として、柔軟な考え方を覚えるといいと思う。琉璃も頑張っているし、一緒に頑張るといい。それに、この屋敷のこの様子では、教授達はここに住むのは無謀だな。采明がいれば何とかなっていただろうが、采明も本当に大変だっただろうな、この状況では」

亮の動きに、琉璃も小走りに追いかけるが、よろけて、亮に支えてもらう。

「ごめんなさい。にいしゃま」
「良いよ?それよりも怪我はなかった?」
「あい、ありましぇん。大丈夫でしゅ」
「それはよかった」

微笑み、歩き出す。

「亮は本気で、こういうところの片付けは大好きだが、そういうのをさせておくと徹底的に始めて、食事もとらなくなるんだ。困ったもんだ」
「それは大変だな。食べなかったせいで痩せているのか?」
「いや、元々食べても太らない。あれでも筋肉は無駄なくついているんだ。筋肉だるまのデカイ男二人や、お転婆に、毒舌家と、いたずら坊主と、可愛い妹を5人まとめて担ぐからな」
「お転婆、毒舌家、いたずら坊主、可愛い妹……4人だろう?」

景虎の問いかけに、月英は、

「亮の姉はお転婆を通り抜けた暴走魔二人だ。年子で、本当に乱暴者。7才上の兄は天才で、表向きはにこにこしているが、毒舌で相手を言いくるめる。弟は、おもちゃが大好きで、弓を改良しては矢を放って、亮に説教をくらってる。妹は、音楽家の卵で、弦楽器……琵琶びわや、琴の一種の楽器の奏者として世界的に活動している」
「それは素晴らしい!!是非聞いてみたいものだ」
「亮は、弦楽器どころか、声楽家だ。景虎の頃から世界的に認められた歌い手で、声が変わったあとでも、今でもひっきりなしに出てくれと来ている。うちの母上もとても美しい声を持たれていて、琉璃と……あぁ、そうだ。聞いてみるか?」

月英はポケットから小さなものをだし、その四角い箱から紐が伸びていて、その先は二つに割れて、片方を景虎の耳にいれる。

「な、な、耳がつぶれる!?」
「大丈夫大丈夫。音を聴くだけだ。よし」

耳に音が流れていく。
コロコロとした可愛い声で、歌うのは……

「琉璃?歌の翼?」
「綺麗だろう?習い始めてからまだ二月にもならないのに、世界的な権威の声楽家や、オーケストラと共にとくるんだ。琉璃は人見知りが激しいし、まだ言葉がはっきり話せないから、止めているが、時々、父や母上主催の慈善ボランティアコンサートに出演している。そして、これが……」

曲が変わり、女性の繊細で甘い声が言葉は解らないが聞こえてくる。
喉で歌う声ではない。
慈愛に満ちた優しい声……琉璃の声は幼く音程は高いが声は小さい。
だが、この声は広がりがある、美しい高音の響く声……。

「……美しい……琉璃の声も綺麗だったが、とても広がりのある、愛情……と言うのか?愛おしい声だと思う」
「そうだろう?この歌は、『今日は本当に疲れたでしょう?さぁ、お休みなさい。お外の小鳥もお休みの時間ですよ。ほら、『森の賢者』のふくろうさんが、悪いものからあなたを守ってくれるわ。お母様もお父様も、お兄様も皆一緒。だから、可愛い琉璃。お休みなさい』と言う、母上が作詞して、作曲したのは亮の、『琉璃の子守唄』だ」
「琉璃の?どうして?」

月英は、奇妙な表情になり、伝える。

「琉璃は私の妹だが、血の繋がりはない。両親ともだ」
「えっ!?」
「景虎と行く国の当主ロウディーン様のただ一人の血の繋がりのある姪。ロウディーン様は再婚されていて王妃様の連れ子の双子の王子、王女がいるけれど、琉璃は、ロウディーン様の年の離れた妹の忘れ形見。妹君は行方不明になっていて、琉璃の存在も隠されていた。亮は、偶然雨の中、ずぶ濡れで泣きながら歩いていた琉璃を見つけて、家に連れて帰った。そして、父が養女ではなく実子として戸籍を作ったんだ。で、私の妹。母上は琉璃の実母の親友で、行方不明になった琉璃を探していて、前の夫と離婚問題もあって父に相談したんだ。で、琉璃は、本当の母のように可愛がってくれていた母上との再会に、泣きじゃくり、一緒にいてと訴え……ちょうどその頃、琉璃の実母の戸籍を問い合わせたら、公主ご本人が迎えに来てね。母上は公主の妹として、父と結婚して下さって……父は、琉璃を本当に可愛がっているよ。家の雰囲気も全然違う。琉璃のお陰だよ」

月英は苦笑する。

「琉璃を与えてくださった奇跡を、本当に感謝するよ」
「そうだな……私も出会えて感謝する」
「で、これは、亮の歌。『誰も寝てはならぬ』と言う歌とお芝居が一緒になった歌劇の歌のひとつ。凄いだろう?この声量に、この感情を込めた迫力……これは、外で歌ったものだが、この広がりは、他には聞けない。偶然録っておいたが、本当に残しておけることを感謝したことはないな」

景虎はその歌に聞き入る。

「素晴らしいな。これは……」
「大丈夫だ。景虎が行く国の学校では、必須授業になっている。言語もいくつか教わるし、頑張れ」
「は、はぁ!?こ、こんな曲を私に歌えと言うか!?般若心経ならともかく!!」
「子供の癖に地味だな……」

月英は顔をひきつらせるが、

「まぁ、頑張れ」

と、応援だけしておくことにした。

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