運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

このリサイタルは、日本で募集する生徒の最終選考でもあります。

咲夜さくやは、車イスで会場に赴く。
そして、一番舞台が見える席にはるかうらら、その横に儁乂しゅんがいと並んで座る。
前の方は患者さんで埋まり、後ろには、何故かスーツの人々が……。

「あの……遼様?」
「ん?なぁに?」
「一杯人がいます。何か緊張しています。向こうの世界の武士……みたいです」

遼はちらっと見ると、

「あぁ、彼らはセキュリティポリスと言う、要人警護任務に携わる警察官だよ。私がいた警察庁ではなくて、警視庁と言う別の機関の特別な警察官」
「警察庁と警視庁は?どう違うのですか?」
「警察庁は日本のほぼ全土の地域の警察官や警察署を纏める庁で、警視庁は東京都。東京には国会があったり、内閣総理大臣方がいるからね。外国から来られた景虎かげとら君たちも守るんだよ」

咲夜は感心したように、

「凄いですね。遼様とさほど変わらないくらい鍛えていらっしゃるようです。武器をもったら本当に強いですね。私では無理です」
「はぁぁ!?咲夜ちゃん、喧嘩売る気か!?ムリだ!!やめとけ。この麗位だ。勝てるのは」

狂暴だから。

儁乂の一言に、麗は鳩尾に拳を叩き込んだ。
苦しむ夫を無視し、

「大丈夫よ?私もいるし、遼さんと一応儁乂いるから」
「あ、ありがとうございます」

にこっと笑う。
クローバーとてんとう虫のイヤリングが揺れる。
髪型も結い上げられて、元々美少女だが益々綺麗に見える。
SPたちもチラチラと警備と称して咲夜を見るのが少々疎ましい遼に、儁乂は、

「大変だねぇ。咲夜ちゃんは。この遼だよ?大丈夫?」
「えっ?」
「これでも……」

ちらっと見ると、一人の女性が遼に声をかける。

「遠藤さんですよね!!父に良く伺っていますの!!」
「そうですか……失礼を。本日はコンサートの客であり、大事な人の警護をしております」

そっけなく告げるが、彼女は無理矢理横の席に座り、

「とても、お強いのだとか。素晴らしいですわ!!それに今回同じコンサートだなんて!!もしよろしければ……」
「失礼。先程の言葉を繰り返しますが、私は大事な人を守るためにこの場におります。暇ではありません。延々とお話を伺うような時間はないのです」
「な、何ですって!!私を侮辱なさるの!!この私に声をかけられて喜ぶ男は大勢いるのよ!!」
「では、その方にお声を。それよりも、後ろをご覧になられては?」
「何を……!!」

蒼白になって慌てて立ち上がる。

「し、失礼致しましたわ!!この方に声をかけられて……」
「おや、そうでしたか?私には、彼がいやがっているように見えましたが」

にっこりと笑うのは金髪に青い瞳の春の国の公主ロウディーンとその奥方モクラン妃。連れているのは3才になったばかりの、諸岡喬もろおかきょう
りょうの息子である。

「おじいちゃま。きょうね?咲夜お姉ちゃんとお話しする!!駄目?」

首をかしげる愛くるしい幼児の言葉に、にっこりと、

「構わないよ。遼どのにお願いするかな?」
「はい!!……あの、お姉さん?ここは、おじいちゃまとモクランお母様と日本の総理大臣ご夫妻に警視庁の警視総監ご夫妻のお席です。関係ない人は駄目って言ってましたよ?」

3才の少年の首をかしげつつ放った痛烈な一言に、顔を真っ赤にした女性は、

「も、申し訳ありませんでした。失礼いたしますわ」

と立ち去った。

「……礼儀がなっていませんね。おじいちゃま。ご迷惑をおかけした、お兄さんにご免なさいって言わなくちゃパパにおしりペンペンなのに……」
「喬はお利口だね。後でパパに会いに行こうね?」
「はい!!パパとママに会いたいです」

座席につく。

「先程はありがとうございます。ロウディーン公主殿下……」
「いいよいいよ。それよりも、あぁ言うのはピシャッと言い切るべきだよ」
「申し訳ありません。言ってはいるのですが……あぁ言う女性は苦手で……」
「まぁ、君は、ぐいぐい押してくる女性より清楚で、凛としているが、時々甘えたいとべそをかく、可愛らしい女性が似合うだろうね」

くすっと笑い、そして、

「初めまして。柚須浦咲夜ゆすうらさくやさん。私は、春の国の公主、ロウディーンと言います。彼女が妻のモクラン。そしてこの子が」
「初めまして!!咲夜おねえちゃま。僕は、諸岡喬です。父がりょうと言います」

咲夜を除く3人が唖然とする。
亮はまだ25で、将来結婚するのは咲夜のひとつ上の琉璃りゅうりである。
その姿に、ロウディーンが、

「この子はね、本当は亮の兄の瑾瑜きんゆ教授……帝王学を徹底的に叩き込む特別クラスの学長の次男なんだけれど、奥方はまともだけれど、学長が変人でね。この兄にこの喬の子育ては無理だ!!と引き取ったんだよ。私の国の次期当主は、琉璃の夫の亮。亮の次は喬だよ」
「えぇ!そんなの国家機密じゃないんですか!?」

儁乂の一言に、にっこりと、

「実はですね。琉璃の母のディアナは私の娘なんです。正式な結婚はしていませんでしたが、母親だった女性は昔から将来を誓いあっていて……病に倒れ、ディアナを遺して……妃を迎えましたが、彼女もディアナを他の子供と一緒に育ててくれました。しかし……行方不明になり……クーデターがおき、全てを失った虚無感に苛まれていたときに、ディアナの遺児に関する問い合わせに……」

ロウディーンはうっすらと瞳を潤ませる。

「琉璃は私の孫であり、娘であり、姪です。私は琉璃のためなら、何でもできますよ。それこそ……この国を潰しても、何の後腐れもないです。それだけ私はあの子を愛しているのです。そして……5年前まで探し当てることが出来なかった事への懺悔でもあります」

警察関係であり、当時大騒ぎとなった事件を知っている3人は納得するしかない。

「何かあったのですか?」

咲夜の頭を撫でる。

「咲夜?この子は、喬君だよ。とても優しい子でね、お話ししたいって」
「おねえちゃまこんにちは!!景虎お兄ちゃんから聞いています。僕は喬です。お年は3才です」
「か、賢いですね!!私の弟はもっと年上なのに父が怒ってました」
孔明こうめいのことですか?」
「あ、違うのよ。与次郎よじろう藤三郎とうざぶろうと言うの。とても元気で暴れん坊で困るのよ」

微笑む。

「大きくなったら中条の家を支えなくてはいけないのに……と心配しているの」
「中条……?」
「あ、喬君、お隣に……」
「お久しぶりですわ!!モクラン様」

大変な美人ではないが快活でそれでいて、笑顔の可愛い女性である。

「まぁ、芙蓉ふよう様!!私、芙蓉さまの笑顔を見ると本当に元気が出ますわ。姉も今度表向きでは無理だと思いますが、お会いしたいと」
「私もお会いしたいわ!!今度、しょうちゃんと熊斗ゆうと月季げつきちゃんがそちらの学校に入学するので、夫は放置して、行くつもりよ」
「失礼な!!私も行くつもりよ!!」
「その口調で喋るな!!」

その隣の渋いおじさまが何故か、中条の父に見えて瞳を潤ませる。

「ど、どうした?驚かせてしまったか?」
「い、いえ、申し訳ありません。父に……似ていて……父に会いたく……」
「こんなにいかついの?」
「いいえ、仕草が優雅で、しゃべり方が……威厳があって……首相ですか?」

そのとぼけた一言に、ガッタンとよろめく。

「えっと……」

よろめいた男の横で元譲げんじょうが、示す。

「内閣総理大臣は、この方だ。私は、警視総監の夏侯元譲かこうげんじょうと言う。初めまして。柚須浦咲夜さん」
「も、申し訳ありません!!し、失礼……ご無礼をお許しくださいませ!!」

頭を下げる少女に、孟徳もうとくは、

「いいわよ~。気にしないで。取って食ったり……それに、遼ちゃんの元部下みたいなことは決してしないわ」
「で、でも……とても失礼を……」
「じゃぁ、咲夜ちゃん?遼ちゃんに何でも言うことを聞いてもらいなさいね。一つでいいと思うわよ?」
「えっ??」

咲夜はモジモジすると、遼に、

「えっと……元気になったら、春の国に行くのだと、聞きました。は、遼さまには、お仕事があって大変だって聞いています。でも……」

ふにゃっと顔が歪む。

「遼さまと一緒にいたいです。一杯頑張るので、遼さまに釣り合うような人になるので、一緒にいてください」

月英に言われたとおり、耳のイヤリングを片方取って恐る恐る差し出す。

「あのっ、沙羅さらさんに聞きました。四つ葉のクローバーの花言葉は『私を好きになってください』なんだと……こんな体で、自分の素性も怪しくて、不審でしょうが、でも……」

俯く咲夜の頭をなで、そして、それを受けとる。

「咲夜?クローバーには沢山の葉っぱが生える場合がある。7枚葉のクローバーもあって……」

遼は、取り去ったイヤリングの後に、そっと飾る。

「貰ったイヤリングのように高価ではないけれど、咲夜の告げてくれた言葉の返事を返すよ。君の耳に飾る新しいイヤリングの意味は『絶対の幸福』。誓うよ。咲夜が、結婚できる年になったら、結婚しよう」

口を覆い、そしてポロポロと涙をこぼす。

「ほらほら……泣かない。もうすぐ始まるよ」
「だって……嬉しいです」
「私も嬉しいよ」

よしよしと抱き締める初々しいカップルに、首相は砂を吐きそうになり、妻に鳩尾に拳とウエスタンラリアットを決められて悶絶したのだった。

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