運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

現在世界中の絶世の美女の勢揃いは、本当に圧巻です。

結婚式の前日、VIPである春の国の公主夫妻をはじめとする面々が、首都圏の光来家こうらいけの超高級ホテルで小さいとはいえ、はるかのみならず、明日の主役のゆかりが蒼白になるほどの賓客が集まっていた。
まだ未婚で、綺麗な女性を見ると追いかけようとする弟たちは、母の葉子ようこに頼まれた祐司ゆうじがぶん殴ったため大人しいが、祐司自身は、

「何で、みんな大騒ぎなんだ?」

と遼に聞き、遼は、

「あちらが、首相夫妻と、首相の長男の子脩ししゅうさんと弟の子楓しふうさん。で、子脩さんの隣の小柄な方は北の雪の国の王女殿下クリスタル様。奥さまだよ。そのお隣の少年はしょう君と言って子脩さんの長男。子楓さんの隣は、首相の認知された娘で月季げつきさん。まだ若いのに天才で、その才能を伸ばしてやりたいと首相は望むものの、子脩さん、子楓さんは賛成するけれど、今の奥方の上の二人の息子が苛めるらしいです。その隣は、奥方の3番目の子で熊斗ゆうと君です。熊斗くんはヴァイオリンを4才から始めていてとても素晴らしい演奏者です。そのため、3人を追い落とそうと目論む人間が多くて……安全なところにとのことです」
「首相は、子供たちを襲うやつらを知っているんだろう?それなら……」
「と言うか……襲う相手が兄弟ですもの、無理でしょう。お久しぶりね?祐司さん」

ワイングラスを手にした美しい双子のような美女たちに、遼はぎょっとし、祐司は微笑む。

「久しぶり、カランとモクランだよな……あ、モクランもカランもトウリャン国の女王陛下の姉と春の国の公主妃殿下だ。こんな口調は無礼なって言われたらどうしようかな」
「何言ってるのよ。私達と祐司さんの仲じゃないの」
「そうですわ。私は最初、姉様と祐司さんが結婚するかと思ってましたのに……あ、お兄様が嫌いではなかったのですよ。姉様と祐司さん楽しそうだったから……」

モクランが失言をしてしまったと口を閉ざす。
カランと祐司は顔を見合わせ、

「無理よ~祐司さんは旦那より頭が良いんですもの。勘も鋭いし。今のように、春の国にやって来るアホな使者とか、トウリャン国の当主とか言う、猿とは違うのよ?」
「あ、俺も多分無理。と言うか……カランと俺とじゃ身分も、それに背中に背負う荷物も違う。例え、俺がその半分……それ以上を持ちたいと言っても、カランは頷かない。ショーン王子や、王女殿下がたを必死で一人でまもりきるつもりだろう。手助けをさせてくれと言っても……無理だ」

苦笑する。
と、思い出したように、

「あ、悪かった!!あいつの葬儀に出席できなくて……何かを贈ろうと思ってはいたが……信じたくない気持ちもあってな……」
「解ってるわよ。その程度で、あの人が文句は言わないでしょ」
「だよな!!」

二人は笑い、遼はモクランに、

「あの……祐司兄さんとお知り合いだったのですか?」
「えぇ。昔、祐司さんが中学生頃に、お父様が柔道の監督としてトウリャン国に。沙羅さんはお母様とこちらに残られたのですが、祐司さんは、同年代の方だけではなく、年上の人を投げ飛ばしてましたわ。亡くなったお兄様とも仲が良くて、よく笑いながら話してましたわ」
「……兄さんの通訳なしの会話は留学のお陰なのか……」
「ウフフ……祐司さんはとてもモテていらしたんですよ」
「こらぁ!!それを言うなよ……モクラン。俺には良く解らないんだ。あぁ言うのは!!」

祐司は止める。

「それより、あぁ、遼?咲夜ちゃんを連れていかなくて良いのか?」
「あ、そうでした。咲夜?行く?」

カランとモクランに挨拶をされてドキドキしていた咲夜は、

「は、はい。では、行って参ります。祐司お兄さん、カラン様、モクラン様」

頭を丁寧に下げると遼に押してもらいながら去っていく。

「いやぁぁ!!可愛い!!可愛いお姫様を守る騎士ね。憧れたわぁ」
「と言うか、カラン自身が騎士だっただろうに……本当に、お前って意地っ張りだな」
「何言ってるのよ。年上だからって子供扱いしないでよね」
「……おい、カラン。俺、昔はお前とモクラン間違ったけど、今は間違わないよな?」

キョトンとして。

「あら、そうね。えぇ!?もしかして、幸せなモクランには笑いシワがあって、私には、眉間のシワにひきつり笑いのシワが!?どうしましょう!!」

本気で焦るカランに、モクランは、

「酷いですわ。お姉さま。私にシワなんて!!」
「何言ってるのよ。モクランは昔は強ばったと言うか悲しげな顔しかしなかったじゃない!!あぁぁどうしましょう」
「おい、俺だって、友人とはいえ女性にそんな失礼なことは言わないぞ!!いくら筋肉バカと呼ばれようが!!」
「そうよね……見た目は熊なのに、本当に優しい人よね」
「その台詞ってなぁ……一応男は傷つくんだぞ?振られ文句だ」

祐司に、

「えぇぇ!?祐司さん振る女なんていたの!?」
「ん?振られるように仕向けた。相手は、このバカの前の嫁!!浮気相手との付き合いの隠れ蓑に俺を使おうとしたんだ。鬱陶しいし、優しいふりして出張増やした。で、こいつはバカだから、泥沼!!」
「あぁ!!あのゆかりんさんってこの人?あぁ、顔も頭も良いけど、詰めが甘い方ね」
「折角のその顔だけでも良い方ですのに、そう言う方に妹さんを……祐司さんお可哀想……」

カランとモクランの言葉に、紫は絶句する。

「ガーン!!沙羅……沙羅に怒られるのも辛いけど、美女のお二人にお馬鹿さんって言われるのって、ものすごく落ち込む……」
「大丈夫ですよ!!紫さんはこれ以上ない、タラシさんです!!でも、浮気したら、兄さん!!あの投げ技を!!」
「よっしゃぁ!!」
「……ふふふ、アハハハ!!祐司さんの妹さんは可愛いし、すごくしっかりされてて、羨ましいわ。優柔不断そうな旦那さんの操縦法教えてあげましょうか?沙羅さんだったわよね?」
「はい!!カラン様、モクラン様のことは兄に良く聞いておりました。周囲は美人だと言うけれど、二人は美醜より心根が優しい。お前もそんな女性になれって、良く手紙が」
「それは言うな!!」

祐司の声をかきけすように、咲夜たちが集まっていた小さめの舞台に、

「日本でのコンサート、リサイタルは……ある事件により、終わってしまいましたが、今回の来日には、コンサートだけではなく、学院の生徒を迎え入れる事にも力を入れておりました。今回の入学生の4人を紹介いたします」

1回生と二回生の4人の後ろから登場したのは、3人の少年……いや、一人男装の美少女がおり、そして遼に車イスを押してもらいながら咲夜も壇上に上がる。

「では、皆?自己紹介を」
「はい!!院長先生」

一番年長の少年は、明るい金色の髪と瞳の童顔の少年である。

「初めまして。私は曹彰そうしょうと申します。国籍が二つあるため、もうひとつの名前は、黄晶おうしょう・トパーズ・彰・クリスタと申します。特技と言うのは、中国の古い時代より呼ばれている、琴棋書画きんきしょがを、ある程度身に付けているつもりです。そして、トランペットとサックスが大好きです。よろしくお願いいたします」
「初めまして。私は曹月季そうげつきと申します。彰兄上は、私の異母兄の子脩兄上の息子になります。私は、中国の二胡にこが得意です。そして、琴棋書画もある程度……となっております。よろしくお願いいたします」
「初めまして!!僕は曹熊斗そうゆうとと申します。ヴァイオリンを4才から練習しています。姉の月季ほど熱心でないのですが、他の勉強も頑張ろうと思います。よろしくお願いいたします」
「え、えと、えと……」

どんな挨拶をしようか悩んでいたため、言葉に詰まった咲夜は、目を閉じて、そして……。

「み、皆さんの心に届けます!!」

と、歌い始める。

『瞳を 閉じれば 聞こえてくる
母さん あなたの 子守唄が
大人に なっても 遠く離れても
私の故郷ふるさと それはあなた

あんなに はるかに 見えた空は
いつしか 懐かしい 記憶ばかり
そうして 私を 今も呼んでる声
愛する故郷ふるさと それはあなた

歌って ください 私を抱いて
母さん あなたの 子守唄を
まどろむ 向こうに 甘い香りがする
私の故郷ふるさと それはあなた』

歌が途切れると、静けさが広がる。

そして、瞳を潤ませた祐司が立ち上がり、

「ブラヴォー!!」

と手を叩いた。
その音に誘われるように、人々は涙をぬぐいながら、微笑み、手を叩く。

「わ、私は、柚須浦咲夜ゆすうらさくやと申します。姉の百合のように、先生方に教わりつつ、舞台にたって、皆さんが感動するような、美しい歌を歌いたいと思っております。私は、12才まで事情があり男として育ちましたが、琴、琵琶等の楽器、囲碁、将棋、文字は毛筆を習っております。ですが、絵は、ウサギさんを書くと、犬になってしまいます。頑張って、絵の勉強をしようと思います。よろしくお願いいたします」

頭を下げる咲夜の肩を抱いて、瑠璃るりは微笑む。

「小さいコンサートの始まりでブラヴォー!!と声が。私たちも頑張りましょうね」

その声で、コンサートが始まる。

琉璃りゅうりの『私のお父さん』から始まり、景虎かげとらは『天使のかて』、百合は『サムソンとデリラ』から『あなたの声に心は開く』を歌いきると、瑠璃が歌い始める。

「あぁ!!『花から花へ』だ!!」

歌劇『椿姫』の名曲である。
そして、歌劇『アイーダ』の曲を歌うと、3人の子供たちが得意の楽器で即興の曲を弾き、それに楽しげに、咲夜が音のテンポを確認して、『蘇州夜曲そしゅうやきょく』を歌い、それからは、パーティー会場に広がり、リクエストされた曲を歌っていく。

そして、人々は最後に、カルメンの『乾杯の歌』を歌い、お開きになったのだった。

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