運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

さてこちらは、どうなっていくのでしょうか……。

自分が悪いのだ……自分のせいで……。

と責め続ける佐々さざれを見かねて、藤資ふじすけは、采明あやめ神五郎しんごろうに頼み込む。

「頼む!!本当に頼む!!……これ以上泣き続けては、佐々礼が参ってしまう。それに、はるもこれ以上滞在させては相手に悪い……だから、景資かげすけと最後に別れたところに、一度でいい!!連れていってくれまいか!!会えずともよいのだ……ただ……」

ボロボロと涙をこぼす藤資に、采明は、

「旦那様……。なにも起こらぬと思いますが、参りますか?」
「……そうだな」



その頃、明日は春の国に飛び立つ事になり、一度、実家に戻り、咲夜さくやとの結納を交わしたはるかである。
咲夜がとても不安そうにしているのを見て、

「咲夜?今度はいつ戻るか解らないし……采明さんたちと別れたところに行こうか?」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「私が抱いていく」
「大怪我してます!!駄目です!!」

必死に首を振るが、横で、春の国で正式に結婚式をあげる祐司ゆうじが、

「一緒についていってやるよ。兄ちゃんが。それに、景虎かげとらも行くんだろう?」
「当たり前だ!!」

一応SPを数人連れて、百合ゆりの案内でその場所に向かう……と、



フワッと空気が揺れたような気がした。
薄もやのなか、数人の足音が聞こえ、姿を見せる。

「……!!父上!!母上!!晴、ゆき与次郎よじろう藤三郎とうざぶろう桃香ももか!!紫苑しおん!!」

咲夜の声に振り返った8人と采明と神五郎。

「景資……景資!!景資!!すまなんだ!!わしが、そなたにばかり苦労を!!景資!!」
「景資!!ごめんなさい!!お母さんが!!お母さんがこんなだったから!!私のせいで……」
「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」

泣きじゃくる家族に、瞳を潤ませた咲夜は、

「ごめんなさい。父上、母上、晴、雪、与次郎、藤三郎、桃香、紫苑……私は、見ての通り、中条弥太郎景資なかじょうやたろうかげすけの名を捨てました。采明さまの妹として、柚須浦咲夜ゆすうらさくやとして生きていきます」

深々と頭を下げる。

「私の怪我は、思ったより重く、まだ杖もつくこともできませんし、このように……」

スカートをめくるのを遼はぎょっとするが、それよりも家族は痩せ細った咲夜の足に瞠目する。

「そ、れは……」

呆然とする藤資に、咲夜は寂しげに、

「腰から下の感覚がありません。傷が深かった上に、この上の部分も動けるようになるのも最近でした。その為に一気に……」

遼が慌てて足を隠す。

「父上。この体では、父上にご迷惑と、ご心配しかお掛けしません……何かあった……今回の事のように襲われた際には私はかえって邪魔になります」
「景資!!」
「景資は……おりません、父上!!私は咲夜です!!私は、戻りません。これ以上愛する父上と母上を苦しめたくはないのです!!お許しください!!お許しください!!親不孝の私を……」

涙をこぼす。
そして、

「父上、母上……私の思いを贈ります。ですから……私を嫌っても良いですから……思いだけは、忘れないで!!」

咲夜は静かに歌い出す。

『瞳を 閉じれば
聞こえてくる
かあさん あなたの
子守唄が
大人に なっても
遠く離れても
私の故郷ふるさと
それはあなた

あんなに はるかに
見えた空は
いつしか 懐かしい
記憶ばかり
そうして 私を
今も呼んでる声
愛する故郷
それはあなた

歌って ください
私を抱いて
かあさん あなたの
子守唄を
まどろむ 向こうに
甘い香りがする
私の故郷
それはあなた』

涙をぬぐいつつ歌いきる。
そして、

「父上、母上!!名前が変わっても、生きる道が違っても、私の故郷……両親は父上と母上です!!育ててくださってありがとうございました!!」
「か、咲夜……わしは……わしは、お前の父親で、よい父親であったのだろうか……?」

藤資の声に、

「はい!!父上は私の自慢の父上です!!今までもこれからも、私の父上は中条藤資です!!」
「咲夜……」
「ごめんなさい……ごめんなさい、こんな母親で……」

泣きくれる佐々礼に、

「母上!!泣かないでください!!母上がいたからこそ私たち家族がいるのです!!私たち……幼い子供など、捨てることもおおい時代に、5人の子供を抱えて必死に生きる事を選んでくれた……母上は私の愛する母上です!!」

そして、涙目で、6人の弟妹を見る。

「晴。幸せになって。大丈夫!!晴は優しい子だから、旦那様と仲良くね?雪は喧嘩しちゃダメだよ?女の子が箒を振り回しちゃダメ」

目を細めて笑いつつ告げる姉に、

「も、戻って、来ないの?お姉ちゃん……」
「やだよ!!雪、いい子にする。喧嘩しない!!だから!!」
「お姉ちゃんは歩けないの。今までみたいにおいかけっこや競走、刀の稽古も出来ないの。今もね?車イスって言う乗って移動するものに乗ってきたけれど、これ以上入れなくて、遼様にだっこしてもらってるの」
「遼様?」

兄弟の不思議そうな顔に、遼を見上げる。

「この方は遠藤遼様と言って、お姉ちゃんを助けてくれたの。景虎さまの隣が、采明さまの妹さんで、私のお姉さん百合お姉さん。側についててくれるのは、山田祐司さんと言って、お医者様なの。私の怪我のあとに、体を何とか元の状態に近くなるまで戻すお仕事なのよ」
「うわぁ!!虎にい!!でけぇ!!」
「何を言う、与次郎と藤三郎だったな?大きくなったな。晴もおめでとう。雪もそれでは嫁の貰い手がないぞ?」
「きぃぃぃ!!とらちゃんに!!」
「やめなさい!!」

にっこりと笑う晴に、

「はーい。お姉ちゃん」
「では……戻ってこぬのだな?」

哀しげな声に、遼が、

「私は、医者であり、ある程度武術もこなす人間です!!一生、お嬢さんをお守りします!!」
「は、い、一生!?」
「はい!!咲夜さんと、本日結納を交わしました。その報告に参ったのです!!」
「ならん!!ならんぞ!!わしよりも強い男でないと許さん!!」

その声に慌てて、

「父上!!待ってください!!」
「咲夜!!」
「父上!!実は、遼様は先日、この時代の左大臣の方の警備に携わっていて、同じく祐司さまは、他国の王子さまを!!そうすると、敵に襲撃されて!!私を抱いて平然としてますが、背中に腰に、木材が刺さり、本当に死にかかったのです!!遼様は本当に、真面目で優しくて、こんな私を大事にしてくれる人なんです!!」

傷に触らないようにしつつ、抱きつき、

「遼様に、駄目です!!遼様は私の……私の、大事な人なんです!!」
「……うぅぅ……」

ハラハラと涙をこぼす。

「嫁に出す……しかも、もう会えぬではないか!!二度と!!」
「あの時に……景資は死んだのです。父上……咲夜になったんです……許してください!!父上!!」
「采明!!えっと、確か神五郎さんだったかしら?」

後ろから現れたのは、采明の母、蓮花れんげ圭吾けいご

「本当はまだ、保育器なの。でも、百合と咲夜が出ていったから、勾田まがたさんにお願いして」
儁乂しゅんがい!!」
「ちゃんとゆかりんに許可を得たさ。短時間ならいいだと」

蓮花と圭吾は腕のなかの子供たちを近づける。

「この子が孔明こうめいだよ。采明を失ってから私たちは本当に……後悔をして、話し合ったんだ。そうして、采明を探すこと、百合を育てることそう決めた……翌年生まれたやんちゃ坊主だよ。遊び疲れて寝ているけどね」
「そうして、この小さな子が実明さねあき。まだ半月は保育器に入っておくことになっているの。でも、元気よぉぉ……あ、ほら」

ぐしゅっ

小さい手が動いたとたん、

「……ふ、ふ、ふぎゃぁぁぁん、ぎゃぁぁぁん」
「うわぁぁ!!何なんだ!!この小さいのが!!」
「おしめでしょうね。ハイハイ。後で換えてあげるから、お父さんの手にタッチ!!」

蓮花がそっと握る実明の手と、手のひらが重なる。

「わぁぁ、実明。パパのお手手とタッチできたわね。パパの手は大きいわねぇ?そして、ママと握手しましょう。ママ、実明です。握手!!」

息子の手を握る……と、采明と神五郎は涙を流す。
この小さな命が、自分達の子供であり、神五郎の世界ではきっと生きられなかった命……そして……、もうすぐ別れなければいけない悲しみと切なさ……。

それを見て、一番に泣いていた圭吾が示す。

「大丈夫だよ!!じいじは子育て失敗だけどばあばもいるし、それに、専門のおじさんがいる!!」

示されたのは遼と儁乂で、

「この二人ね、采明は知っているけど、警察庁から警視庁に特別移動の上に、春の国に留学する百合と咲夜と景虎くんと、首相のお孫さんやお子さんの警備に着くんだよ。あ、そうそう。采明?フフフ、遼先生の新作戴いてるよ!!今度戻ってきたら、もう国籍はここじゃなくて春の国になってるから、采明の宝物全て!!お屋敷に綺麗に、先生が並べてくれてね!!それにいくつか混ざっていたり……」
「えぇぇ!!は、遼先生!?お、覚えていてくださったんですか!?」

妹の婚約者を見ると、優しく、

「それは忘れないよ。本当に…あの時はありがとう。お金をお返しすると言っても、構わないと言うし……本当に戸惑ったんだ。その代わり、出品しないけれど予定だった……私もとても気に入っていたベアを嬉しそうに受け取ってくれて、喜んでくれた君のことは忘れていないよ。失踪事件の時も本当に驚いたし、他の県の方に仕事を回されて……本当に心配した。よかった」
「先生!!」
「咲夜にも今も教えているんだよ。いつか、私と君、そして咲夜の3人で展示会をしたいね。約束だよ」
「は、はい!!嬉しいです!!」
「あ、ご主人も、手伝ってくれると助かります。いつか……あぁ、咲夜と結婚したら兄上になるんですね。兄上ともゆっくりお話が出来るときが……」

遼の声に、泣き笑う。

「ありがとう。私は神五郎と言います。遼さんと呼びますので、神五郎と」
「では、どちらもさんなしで。……ご武運を……。辛く長い戦いが続くでしょうが、義父上、義母上、そして咲夜の兄弟のみんなも、おきをつけて!!手伝えることがあればと思いましたが……」

と横からスッと、

「俺は勾田儁乂。このはるの幼馴染み。武器についてと、防御すべき場所、ついでにえげつない罠の数々を調べておいたんだ。俺は、一応、采明ちゃんには面識はないが、采明ちゃんはうちの実家に良く来てただろう?」
「……勾田……って、勾田商店さんの!?」
「そうそう。妹に投げといた。俺は、ミリタリーマニアなんだ。自衛隊に入りたかったんだが、そっちは止められてな。で、はると一緒に警察大学だよ。だから、ある程度は何とかできそうなものを考えておいた。設計図。これ、一応同じく武器マニアに見せて十分って合格点をもらったから、防衛のために頑張れ!!」

儁乂は笑い、そして、落ち込む藤資に、

「咲夜ちゃんの親父さん。子供はいつか旅立つ。それに、はるは幼馴染みだが本当にいい男だ。俺が知っているなかで、警視総監並みだな。あ、警視総監は、俺たちに特別任務を命じることができるお偉いさんだ。首相の幼馴染みであり、本当に愛妻家で子供好き、趣味は勉強とガーデニング……庭の手入れだ。その人にも認められてるから安心してほしい。咲夜ちゃんと今回の婚約が、急いだのは実は訳があって……」
「ごめんなさいね~♪」

登場したのは藤資と変わらない背丈の、髭親父だが、

「あらぁ……やっぱり、采明ちゃんだったわよね?傷が深いんでしょう!?儁乂ちゃん!!今すぐ、病院にいって、化膿止めと解熱剤をお願い!!……じゃないと、芙蓉ふようちゃんと木槿むくげちゃんのプロレス技!!何なら私のキスつき!!」
「ぎゃぁぁ!!プロレス技で結構です!!行ってきます!!」

逃走する。

「で、元譲げんじょう
「……何度も言うが、今のはパワハラ、セクハラだ!!次やれば逮捕する!!」
「あらぁん。困ったわね。それよりも、神五郎ちゃんだったかしら?あなたの主、抹殺しないの?」

単刀直入の一言に、絶句する周囲で、何とか『ちゃんづけ』から立ち直った神五郎は、

「向こうを潰すには、景虎さま……を旗印に……」
「あ、そうそう。ねぇねぇ、これあげるわ」

元譲の後ろから男が抱え込んできたのは……。

「黄金色……脱色していて荒れてます。しかも衣が……」
「あぁ、これ、采明ちゃんは知っていると思うけど、春の国のロウディーン公主の妹の瑠璃るりちゃんの実の娘よ。瑠璃ちゃんは再婚していて、ロウディーン公主のもう一人の妹の遺児を現在の夫と、義理の息子と育ててるの。その子が琉璃りゅうり姫。琉璃姫を何度も襲うのよ。そっちにあげるわ。捨てるなり、調教して、長尾景虎にしてやってちょうだい。この子は自分の身分に、母親に似てる顔だけしかない、頭も悪いし非常識な最低娘だけど、徹底的にやっちゃって。あぁ、采明ちゃんたちや、咲夜ちゃんのご家族のいる場所から離れたところで、女性のなかに押し込んでちょうだい。お願いね!!」

その一言に、立ち直った藤資は、

「そんな愚かなバカ娘を預かる見返りは?教えていただけるか!?」
「咲夜ちゃんたちの身の安全を最優先にしようと思って。本当はあと二人いるけど、あと二人はこっちで何とかするわ。そのばかをよろしくね!!」

けらけら笑いながら立ち去った3人に、神五郎は、

「あの、女言葉……おかしな人間か!?」

と呟き、景虎は、

「一応、この国の政治を担当する内閣総理大臣……左大臣と思えばよい。あのしゃべり方は、あの人は気迫が凄くてな……普通に喋ると、気絶するのだ。だからあえて普段は緩い人間に扮しているが、なかなか食えん親父だぞ」
「そうなのですか……で、このお荷物は徹底的に礼儀作法とか学ばせましょうか?うちの母と姉が喜びますが……」
「男の側には行かせないようにご注意を。この娘は、自分の顔が美しいと思い込み、こちらの国では禁じられている春を売る……それも、自分や父親が悪いと言うのに、母親が仕事で得た収入で、豪遊し、気に入らないものは徹底的にいじめ、自分の身分にあぐらをかき、当時は見つからず必死に国が探していた春の国の公女の琉璃姫を特に頻繁に苛めていて、いまだに姫は、この小娘に怯えて泣き続けています」

遼ですら嫌悪感あらわな表情をしている。
かなりひどいらしい。

「解った。じゃぁ、家の母と姉に徹底的に鍛えていただきます。手加減なしでと伝えておきますのでご安心を」
「申し訳ない……」

頭を下げる遼。

その後、いくつかの薬と、栄養剤に包帯にガーゼ等々詰め込んだバッグを持ってきた儁乂から受け取り、別れたのだった。

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