運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

采明ちゃんは、両親の愛情を再確認して涙を流します。

悲しみをこらえ、別れようとしたときに、祐司ゆうじが、

采明あやめちゃん。これは知っていると思うけれど、写したらすぐに出てくる写真機だよ。二台入れておくのと電池に、写真の現像用のものも、ありったけ入れてきた。これを、この間見せてもらった写真みたいに家族を撮って納めておくといい。アルバムも入れている」
「えぇぇ!!ほ、本当に……よろしいんですか?」
「携帯では充電が持たない。現像もできない……この方が、すぐに見られる」
「それと、お姉ちゃん!!」

百合ゆりが差し出す。

「これ、アルバム。それと、お姉ちゃん。私ね?新人ではあるけれどオペラ歌手としてリサイタルに出たのよ。景虎かげとらも、咲夜さくやも!!私たちの先生は、瑠璃るり先生とりょう先生で、琉璃りゅうりと、亮先生の妹の珠樹しゅじゅ姉さんとも!!私ね、メゾソプラノだけど、それでも将来は『カルメン』の主演が夢なの!!お姉ちゃんのお陰よ!!私も、だらだら……しかも、子供だからって侮って馬鹿にして、着替えの最中に入ってきてジロジロ裸を見てニタニタしている変態プロデューサーとか、ベタベタ触ったりね。そう言う人間の言うことも聞く気はないわ!!それにこんな、自分に誇りもない、将来にこうなりたいんだって思いもない、そんな中途半端で馬鹿げた人間にはなりたくないのよ!!」
「百合……そんな目に……!!」

絶句する周囲に、百合は笑う。

「お姉ちゃん!!きっと戻ってきてね!!そして琉璃と私と咲夜と一緒に歌って!!約束よ!!……あ、その時には義兄さん。お姉ちゃんの代わりに、景虎あげます!!」
「采明と景虎様は……采明は絶対にいるから、景虎様は要りません。贈呈します。これ以上……眉間にシワと辛い思いは……こりごりです」

最初は冗談で返していたが、暗くなる神五郎しんごろうに、

「私が要らんと申すのか!!この不忠者!!」

と景虎が投げる。

「な、何ですか!?」
「咲夜のテディベアじゃ。琉璃の伯父の公主が、テディベアメーカーに特別発注したものじゃ!!佐々さざれ母上。咲夜は本当に苦しんで、日々、祐司先生とはるか先生が、少しでも、先程の衰えた足を、動かせるよう、立って歩けるように訓練をしておる……人形だと思わず、咲夜と思うて、大事にしてあげてほしい。もうひとつは采明姉上にじゃ」
「……か、可愛い……」
「大きいであろう?大体の子供の大きさに作っているのだと言っていた。衣の着せ替えも出来るように手足がしっかり動く……咲夜として……可愛がってあげてくれると嬉しい」
「あ、ありがとう……ございます……景虎様……!!咲夜を返していただけて……それだけで幸せです。ありがとうございます……こちらの世界で、咲夜が頑張れるように、応援して……」

はらはらと涙をこぼす。

「ありがとうございます……」
「母上!!泣かずともよい。笑っていてほしい。我は景資ほどつようはないが、そこそこ勉強しておるぞ!!大丈夫じゃ!!何なら、このはるちゃんをつれていくゆえ!!」
「誰がはるちゃんです!?」
「一人しかおるまい。ゆかりん、はるちゃん、なつりん、あきりん、ふゆりんが!!」
「……諦めろ。はる」

儁乂しゅんがいの一言に、

「うるさい……」
「遼様のお名前は、素敵ですよ。お名前通り、遠く先を見つめている名前です」
「……うん、ありがとう」

娘のでれでれイチャイチャに藤資は刀を抜こうとするが、

「伯父上、お止めください!!ぶきを身に帯びていない人間に、そのようなことは!!」
「アホぉ!!こやつは外見は生真面目一辺倒だが、武器を持たんでも戦える人間じゃ!!戦えんでも、半殺しで良いのに!!」
「父上……」

瞳を潤ませる咲夜に慌てて、

「せぬ!!絶対にせぬゆえ気にするな!!咲夜!!父は約束は守る!!」
「父上!!」

ふわぁっと微笑む顔に、神五郎は、

「あぁ、その顔をすると、すぐ解るな……遼。義兄弟だから伝えるが、采明も咲夜も、その百合も本人無自覚。甘い香りを発する花だな……気を付けろよ」

こそこそと話し、遼も、

「采明ちゃんは、今でも格好の餌かもしれぬから、そちらもな」
「何とか」

二人は微笑み、そして、

「オーイ!!はるちゃんにしんちゃん!!俺も仲間に入れてくれ!!」
「いらん!!」
「チャラチャラしたのは弟で十分」
「そんなこと言ってたら、俺たちと年の近いじいちゃんが、落ち込むよ」

示した先には、息子を抱いた采明たちの父、圭吾がいる。
一応22の時に采明が生まれたので、まだ30代である。

「……わ、すすみません!!義父上!!父親に思えないくらい童顔で!!」
「よく言われるんだ~……日本人だからねぇ……馬鹿だねぇ……しかも、30代で祖父。あははは……子供ってすぐ大きくなるねぇ……」
「いやいやいや、まだ、まだ、お若いですよ!!父上!!」

慰めるが、うじうじと、

「だって、義理の息子が年が変わらないなんて!!」
「でも、父さん?馬鹿でアホは嫌いなんでしょ?ならいいじゃない。神五郎お兄さんも、遼先生も、とっても賢いわよ」

百合の一言にぱぁぁ!!と明るくなる。

「わぁぁ、じゃぁ将来は、義理の息子たちと一献いっこん!!」
「お父さん、お酒弱いでしょ。私がするわよ~!!」

コロコロ笑う蓮花。



楽しい時間は短く……。別れは早い……。
名残惜しげに、時代の境目を別れていくのだった。

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