運命(さだめ)の迷宮
柚子姫は、咲夜の可愛い兄弟です。
咲夜の結核は軽いものだったので、さほど日をおかず退院できた。
そして、
「柚子姫おいで」
こちらも車イスから降り、絨毯の上に座って、子犬を呼ぶ。
すると目をキラキラさせて、てててっ!!とまではいかないが、必死にはって主のもとに向かう。
「わぁぁ!!お利口だね!!柚子姫。じゃぁ、咲夜とこちょこちょ……」
お腹を出した子犬をくすぐるとくすぐったそうにごろごろする。
「あははは!!可愛い!!柚子姫、ウニぃ~。両手を引っ張りまーす」
腕を無理は当然しないが伸ばして、軽くマッサージをする。
そして、
「はい、足もウニょ~ん……あ、いや?でも、もうちょっと頑張ろうね?もみもみしてあげるからね」
言いながら毎日マッサージをする。
すると、足の骨の筋がこわばっていたところが柔らかくなり、痛みもマッサージ以外はさほど感じなくなったらしい。
歩くのは難しくても、自分のように完全に使えないよりも可能性を探るのだ。
すると、遠くから自分のおもちゃをくわえて這って戻ってくる。
「遊んで?じゃぁ、取ってきて?」
うんしょうんしょと這っていくと再びくわえて戻ってくる。
ちょこんと自分の前におもちゃを置き、持ってきたよ?
と言いたげである。
「わぁぁ、偉いね!!持ってこれるようになったね!!賢い!!じゃぁ、もう一回」
といいつつ、数回繰り返すと、
「はい、おしまい……?どうしたの?」
キラキラした目で訴えるのは、ベランダ。
そこから階段を降りれば中庭になる。
しかし、
「柚子姫?柚子姫は、最近チクってしたでしょう?悪いものをなくするお薬なの。その効果がもう少しかかるから、そうしたら散歩しようね?」
ダメぇ?
と言いたげに、首をかしげた柚子姫に、
「うん。ダメ。後で、歌のレッスンがあるから、その時にお出掛けしようね?……!!」
咲夜は忘れかけていた殺気を思いだし、柚子姫を抱き上げる。
自分も必死で這っていき、危険の無さそうな場所に逃げる。
隠れた瞬間、扉が開き、
「おい!!出てこい!!」
ドスの効いた声に身を縮める。
自分の体が動けば逃げた。
でも、この体では無理……采明を守ったことは後悔しない。
後悔しているのは、怯える弱さ。
柚子姫を抱き締め震えが止まらない。
あの、自分を貫いた『拳銃』が怖い……怖いのだ。
「た……すけて……」
呟いていた。
「遼さま……助けて……怖い!!助けて!!」
「そこにいるのか!!女だな!!捕まえろ!!」
足音に、咲夜は必死に声をあげる。
「は、遼さま!!遼さまぁ!!助けて!!助けてぇぇ!!」
「この女!!黙れ!!」
身を縮め、柚子姫をかばう。
拳か蹴りの衝撃が来るのを覚悟していると、
「何をする!!」
と言う声と、
「はる、ガンバ!!お姫様の目の前で良いところ見せな!!」
「アホか!!血まみれを見せるつもりはない!!」
バキッ!!
ドゴッ……
「うぅっ……」
呻き声と共に、ドサッと倒れる。
「遼さま……?遼さま……」
「大丈夫。敵は倒したから、安心して……」
抱き締める腕に、ホッとしたのか涙がポツリ、ポツリとこぼれ落ちて、そして……。
「……咲夜……?咲夜!?」
遼の焦る声を聞きながら、意識を手放した。
「本当に、旦那さまは、どこの者を妻に迎えたんだか」
部屋で静かにしていると聞こえてくるのは、回廊を行き来する侍女たちの声。
「そう言えば、噂では……」
「噂がなぁに?私の事かしら?」
朗らかな声に、咲夜はハッとする。
夫である張文遠の同僚、張儁乂の夫人、麗である。
そして、
「おかしいわね?普通、客人が来た場合は、主人、もしくは奥方が出迎えるものだけど……」
「申し訳ありません。何せ、身分違いも甚だしい、礼儀知らずの奥方でして……」
「はぁ?」
麗ともう一人の女性は声をあげる。
「何を言っているの?普通奥方が迎えるために、侍女は奥方に報告に上がるものです。それすらせずに、自分の屋敷の女主人のあることないこと……品がないこと。こんな侍女を使う奥方がお可哀想ね」
「なっ……」
「言い返してごらんなさい。麗さま。お手数だけれど、奥方を連れてきてくれるかしら?」
「はい」
足音がして、
「咲夜さま?いらっしゃるかしら?」
「は、はい。も、申し訳ありません!!」
慌てて近づき立て付けの悪い扉を開けると、麗はぎょっとした顔になる。
「ど、どうしたの?そのお姿は!!」
薄汚れた侍女も身につけない継ぎだらけの衣で立っている咲夜。
しかも後ろには、侍女の仕事の掃除用具がある。
「あ、あの、皆さんお忙しそうでしたので、お手伝いを。あ、そうでした。ようこそお越しくださいました。これからお飲み物の用意をさせていただきますので、お待ちいただけますか?」
「ちょっと待って!!」
麗は、小さな咲夜を表に出すと、
「芙蓉さま!!木槿さま!!この方が、張将軍の奥方です!!このような姿で、侍女の仕事をしていたと…!!」
「なんですって!!」
「冗談じゃないわよ!!」
二人が、周囲の侍女、下働きを見回し、
「奥方をないがしろにしていると言う噂は聞いていたけれど、最低だわね」
「本当!!」
「咲夜さまだったかしら?行きましょう」
「あのっ、旦那さまが戻られます。その時には、お迎えを……」
必死で告げる。
「その衣で、お迎えするの?」
「皆さんが着替えをしてくださいます。なので……」
「……ますます根性悪いわ!!行きましょう」
芙蓉が夫の主、曹孟德の妻で、木槿が夫の同僚の夏侯妙才の妻であるのを後で知り驚く。
が、馬車に乗り移動するのだが、美しい馬車に自分のようなものが乗って良いのかと気後れする。
「はい、乗りなさい。行きましょうね」
「で、でも……旦那さまが……あっ!!」
一騎の馬が駆けてくる。
そこに乗っているのは、何時もなら冷静な文遠が、
「お待ちください!!芙蓉さま!!」
馬から飛び降り、叫ぶ。
「咲夜は私の妻です!!どこにもやりません!!」
「いじめられていたわよ?」
「この家ごと、売りました。新しい屋敷を、咲夜と家族の家を作りました!!その家には、咲夜が必要です!!私も咲夜がいないと困ります!!咲夜を!!」
「だ、旦那さま……お、おかえりなさいませ!!」
走りより抱きつく。
「ただいま。咲夜。家にいこう。私たちの家に……」
「あの、この衣では……」
「向こうに準備している。帰ろう」
文遠は、3人に頭を下げると、妻の手を引き、手綱を握りながら、歩いていった。
「……まぁ!!文遠さま、本当に素敵だわ!!」
「咲夜さまもお幸せね!!羨ましいわ……あんな素敵な旦那さま」
「私も同意したいです」
3人は話ながら、屋敷に入っていった。
ごつごつとしているものの、暖かな夫の手に、嬉しく思いながら、
「旦那さま」
「何だ?」
「旦那さまが大好きです!!」
その言葉に一瞬固まったが、頬をうっすら赤くして、
「私もだよ……咲夜」
「咲夜!!咲夜!!」
目を開けると、遼の必死な形相に、
「遼さま……すみません。ちょっとビックリしました」
「怪我は!?それと……泣いて……怖かったのだな」
「えっ?泣いて……あ、遼さまに会えて……う、嬉しいです。それで、ホッとして……」
その言葉に、遼はぎゅっと抱き締める。
「そばにいるから……笑っていてほしい。咲夜……」
「はい!!そ、それと、遼さまのことが大好きです!!」
直球の告白に、遼は一瞬驚いたものの、すぐに、
「私もだよ……咲夜」
と囁いたのだった。
そして、
「柚子姫おいで」
こちらも車イスから降り、絨毯の上に座って、子犬を呼ぶ。
すると目をキラキラさせて、てててっ!!とまではいかないが、必死にはって主のもとに向かう。
「わぁぁ!!お利口だね!!柚子姫。じゃぁ、咲夜とこちょこちょ……」
お腹を出した子犬をくすぐるとくすぐったそうにごろごろする。
「あははは!!可愛い!!柚子姫、ウニぃ~。両手を引っ張りまーす」
腕を無理は当然しないが伸ばして、軽くマッサージをする。
そして、
「はい、足もウニょ~ん……あ、いや?でも、もうちょっと頑張ろうね?もみもみしてあげるからね」
言いながら毎日マッサージをする。
すると、足の骨の筋がこわばっていたところが柔らかくなり、痛みもマッサージ以外はさほど感じなくなったらしい。
歩くのは難しくても、自分のように完全に使えないよりも可能性を探るのだ。
すると、遠くから自分のおもちゃをくわえて這って戻ってくる。
「遊んで?じゃぁ、取ってきて?」
うんしょうんしょと這っていくと再びくわえて戻ってくる。
ちょこんと自分の前におもちゃを置き、持ってきたよ?
と言いたげである。
「わぁぁ、偉いね!!持ってこれるようになったね!!賢い!!じゃぁ、もう一回」
といいつつ、数回繰り返すと、
「はい、おしまい……?どうしたの?」
キラキラした目で訴えるのは、ベランダ。
そこから階段を降りれば中庭になる。
しかし、
「柚子姫?柚子姫は、最近チクってしたでしょう?悪いものをなくするお薬なの。その効果がもう少しかかるから、そうしたら散歩しようね?」
ダメぇ?
と言いたげに、首をかしげた柚子姫に、
「うん。ダメ。後で、歌のレッスンがあるから、その時にお出掛けしようね?……!!」
咲夜は忘れかけていた殺気を思いだし、柚子姫を抱き上げる。
自分も必死で這っていき、危険の無さそうな場所に逃げる。
隠れた瞬間、扉が開き、
「おい!!出てこい!!」
ドスの効いた声に身を縮める。
自分の体が動けば逃げた。
でも、この体では無理……采明を守ったことは後悔しない。
後悔しているのは、怯える弱さ。
柚子姫を抱き締め震えが止まらない。
あの、自分を貫いた『拳銃』が怖い……怖いのだ。
「た……すけて……」
呟いていた。
「遼さま……助けて……怖い!!助けて!!」
「そこにいるのか!!女だな!!捕まえろ!!」
足音に、咲夜は必死に声をあげる。
「は、遼さま!!遼さまぁ!!助けて!!助けてぇぇ!!」
「この女!!黙れ!!」
身を縮め、柚子姫をかばう。
拳か蹴りの衝撃が来るのを覚悟していると、
「何をする!!」
と言う声と、
「はる、ガンバ!!お姫様の目の前で良いところ見せな!!」
「アホか!!血まみれを見せるつもりはない!!」
バキッ!!
ドゴッ……
「うぅっ……」
呻き声と共に、ドサッと倒れる。
「遼さま……?遼さま……」
「大丈夫。敵は倒したから、安心して……」
抱き締める腕に、ホッとしたのか涙がポツリ、ポツリとこぼれ落ちて、そして……。
「……咲夜……?咲夜!?」
遼の焦る声を聞きながら、意識を手放した。
「本当に、旦那さまは、どこの者を妻に迎えたんだか」
部屋で静かにしていると聞こえてくるのは、回廊を行き来する侍女たちの声。
「そう言えば、噂では……」
「噂がなぁに?私の事かしら?」
朗らかな声に、咲夜はハッとする。
夫である張文遠の同僚、張儁乂の夫人、麗である。
そして、
「おかしいわね?普通、客人が来た場合は、主人、もしくは奥方が出迎えるものだけど……」
「申し訳ありません。何せ、身分違いも甚だしい、礼儀知らずの奥方でして……」
「はぁ?」
麗ともう一人の女性は声をあげる。
「何を言っているの?普通奥方が迎えるために、侍女は奥方に報告に上がるものです。それすらせずに、自分の屋敷の女主人のあることないこと……品がないこと。こんな侍女を使う奥方がお可哀想ね」
「なっ……」
「言い返してごらんなさい。麗さま。お手数だけれど、奥方を連れてきてくれるかしら?」
「はい」
足音がして、
「咲夜さま?いらっしゃるかしら?」
「は、はい。も、申し訳ありません!!」
慌てて近づき立て付けの悪い扉を開けると、麗はぎょっとした顔になる。
「ど、どうしたの?そのお姿は!!」
薄汚れた侍女も身につけない継ぎだらけの衣で立っている咲夜。
しかも後ろには、侍女の仕事の掃除用具がある。
「あ、あの、皆さんお忙しそうでしたので、お手伝いを。あ、そうでした。ようこそお越しくださいました。これからお飲み物の用意をさせていただきますので、お待ちいただけますか?」
「ちょっと待って!!」
麗は、小さな咲夜を表に出すと、
「芙蓉さま!!木槿さま!!この方が、張将軍の奥方です!!このような姿で、侍女の仕事をしていたと…!!」
「なんですって!!」
「冗談じゃないわよ!!」
二人が、周囲の侍女、下働きを見回し、
「奥方をないがしろにしていると言う噂は聞いていたけれど、最低だわね」
「本当!!」
「咲夜さまだったかしら?行きましょう」
「あのっ、旦那さまが戻られます。その時には、お迎えを……」
必死で告げる。
「その衣で、お迎えするの?」
「皆さんが着替えをしてくださいます。なので……」
「……ますます根性悪いわ!!行きましょう」
芙蓉が夫の主、曹孟德の妻で、木槿が夫の同僚の夏侯妙才の妻であるのを後で知り驚く。
が、馬車に乗り移動するのだが、美しい馬車に自分のようなものが乗って良いのかと気後れする。
「はい、乗りなさい。行きましょうね」
「で、でも……旦那さまが……あっ!!」
一騎の馬が駆けてくる。
そこに乗っているのは、何時もなら冷静な文遠が、
「お待ちください!!芙蓉さま!!」
馬から飛び降り、叫ぶ。
「咲夜は私の妻です!!どこにもやりません!!」
「いじめられていたわよ?」
「この家ごと、売りました。新しい屋敷を、咲夜と家族の家を作りました!!その家には、咲夜が必要です!!私も咲夜がいないと困ります!!咲夜を!!」
「だ、旦那さま……お、おかえりなさいませ!!」
走りより抱きつく。
「ただいま。咲夜。家にいこう。私たちの家に……」
「あの、この衣では……」
「向こうに準備している。帰ろう」
文遠は、3人に頭を下げると、妻の手を引き、手綱を握りながら、歩いていった。
「……まぁ!!文遠さま、本当に素敵だわ!!」
「咲夜さまもお幸せね!!羨ましいわ……あんな素敵な旦那さま」
「私も同意したいです」
3人は話ながら、屋敷に入っていった。
ごつごつとしているものの、暖かな夫の手に、嬉しく思いながら、
「旦那さま」
「何だ?」
「旦那さまが大好きです!!」
その言葉に一瞬固まったが、頬をうっすら赤くして、
「私もだよ……咲夜」
「咲夜!!咲夜!!」
目を開けると、遼の必死な形相に、
「遼さま……すみません。ちょっとビックリしました」
「怪我は!?それと……泣いて……怖かったのだな」
「えっ?泣いて……あ、遼さまに会えて……う、嬉しいです。それで、ホッとして……」
その言葉に、遼はぎゅっと抱き締める。
「そばにいるから……笑っていてほしい。咲夜……」
「はい!!そ、それと、遼さまのことが大好きです!!」
直球の告白に、遼は一瞬驚いたものの、すぐに、
「私もだよ……咲夜」
と囁いたのだった。
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