運命(さだめ)の迷宮
どうすればいいのか、途方にくれる采明ちゃんと旦那さまです。
姿を見せた景虎と百合に、中条の屋敷は騒然となる。
一応身長が伸び始めた景虎は、現在160㎝ほどであり、当時ではその年代は160㎝は長身である。
その上、その横の百合は巨人である。
「景資!大丈夫か?」
一眠りした少年は、体を起こし、兄弟たちが遊んでいるのを嬉しそうに見つめている。
「あぁ、虎」
「景資?景虎さまのことは……」
「佐々礼母上。景資と私は兄弟同様だ。構わないぞ」
側に座り、佐々礼に見せていたものを見る。
「咲夜の結婚式ではないか!」
「そう。旦那さんが、ドレスのデザインを、世界的デザイナーの月英先生にお願いして、二人でドレスと、ほら、このベア……お母さん、見て?」
映像には、同じドレス姿の花嫁ベアをだっこしている花婿ベアがおり、同じポーズで微笑む新郎新婦がいた。
『さーくや?おめでとう‼今の気分は?』
『う、嬉しいです……遼さまはどうですか?』
夫を見上げる瞳はキラキラとしており、神五郎よりも長身かもしれない新郎が、照れつつ、
『私も嬉しい。よく、私たちは三国一の花嫁と言うけれど、咲夜は世界一の花嫁だよ』
頬にキスをする姿に周囲からヒューヒューと声がかかる。
「えっと、これは……」
「旦那さんの遼さんは真面目なんだけど、不真面目と言うか、仕事めんどう~‼とかいって遊んでたお兄さんと弟3人いて、遼さんにお説教されたの。で、きちんと公私を分けるんだけど、こういうときは兄弟だもん、からかって遊んじゃえってね」
「あら、この方は……」
咲夜の額に口付けたあと、
『これ以上は見せない‼見たければ、論文仕上げることだな』
『何だよぉ!』
『つまんないの!』
と声がかかる中で、遼は、
『あ、そうそう。今まで言っていなかったけれど、今年の末に子供が生まれるから。叔父として、責任感のある大人になってくれ』
「え、えぇぇぇぇ‼あ、あの子に、赤ん坊が……‼」
声をあげた佐々礼は瞳を潤ませる。
「大怪我を……あんなに弱っていたあの子が、お母さんに……‼」
『わぁぁぁ‼おめでとう‼兄さん、咲夜‼』
『どんな子かな?可愛いといいね‼』
『どんなお母さんになるの?』
その言葉に、咲夜は、
『葉子お母様のようにしっかりとしていて、蓮花お母様のように努力家で、そして、自慢の私の母のように生まれてくる子供皆に愛情を注いであげられる、優しいお母さんになりたいです。それに、あの、私一人ではダメなときは、遼さまと皆さんに助けていただけたらと思います。よろしくお願いいたします』
頭を下げる娘の映像に、佐々礼は、
「あの子にとって、私は良い母だったのかしら……辛いことばかりで、嘆いているだけの母親だったと思うわ……」
涙をぬぐいながら囁き、
「あの子……咲夜は嫁いでいったけれど、采明さんのお子さんは……」
「あ、実明は、この子だよ……お母さん」
タブレットを操作し、映像を見せる。
3才だが、叔母になる咲夜の結婚式に、何故か、新郎の遼の膝に座っていた。
「あら……まぁ、お母様、お姉様!」
佐々礼の声に振り返ると、景資が見惚れる美女二人である。
「景資が大怪我をしたときいたのでな、参ったのじゃ。景資?傷は大事ないか?」
「は、はい‼お、おばあ様。このとおりにございます」
「雪をかばって、何て無茶を‼」
少々お怒りは、叔母の橘樹らしい。
景資は目を伏せ、
「申し訳ございません。実は、私の腹違いの姉は、とても賢い人で、美しい顔立ちをしておりましたが、顔を切られ……本人は、気にされていない振りをしていたのですが……」
「なんと‼犯人は‼」
「私の実の兄たちです。できの良い妹になる姉を妬み……」
「許せぬな……その小僧ども!」
梓の言葉に周囲はうなずく。
「それにしても愛らしいのぉ……」
「遼さんは、小児科……子供専用の病院の副院長です。それで、とても可愛がっているんです」
映像の中では最初はキャッキャ‼喜んでいたが、疲れたのかぐずりはじめ、
『わぁぁぁん‼だっこぉ、だっこぉ!』
『はいはい、疲れたね?ねんねしよう』
遼はいやがりもせずあやすが、次第に泣き声が大きくなり、口のなかに手をいれて、ボロボロ大粒の涙をこぼしながら、
『ママァァ~‼パ、パパァァ~‼いいこする。いいこする。帰ってきてぇぇ。わぁぁぁん‼』
と声が響く。
咲夜の義母になる、百合に瓜二つの蓮花が会場から連れ出そうとするものの、いやいやと首を振り、
『まんま~‼ママァァ!だっこぉ!パパァァ~わぁぁぁん‼』
と泣き続け、しばらくしてぐったりするので、遼が額に手を当てると、
『熱があります。すぐに点滴を‼』
『俺が行くよ。ほーら実明。はるか兄ちゃんにバイバイして、咲夜お姉ちゃんにも行ってきます、しような?』
と大柄な男が出ていく。
「あの方が、私たちが最後にすんでいた国の病院の総合病院長先生です」
「幾つになったのかの……」
「数えで4才です。でも、体が小さいのと、咳がひどくて悪化すると治療が……」
「可哀想に……」
梓の頬に伝うものに気付き、景虎や百合に景資が驚く。
特に百合や景資は烈女、剛毅な女性と聞いていた梓が泣くとは思わなかったのである。
袖で涙を拭いた梓は、
「皆はわらわが烈女と褒め称えるが、本当は、腹帯を締めて出陣せねばならぬほど切迫しておったのじゃ……旦那様に付く味方も少なく、幼い……『かあしゃま』と追いかけてくる橘樹を預け、出陣したのじゃ。今生の別れ……と覚悟を決めての。で、戦は勝利したが、神五郎が生まれての……。橘樹や重綱よりも小さく、泣き声も上げず、諦めかけたときに祈ったのじゃ……『息子をお救いください。その為ならば、この命を‼』と……」
「お母様‼そ、そんなことが⁉」
「祈った……すると、声が聞こえたような気がしたのじゃ……」
梓は告げる。
「『そなたの強い思い、しかと聞き届けた。しかし、将来この子供が重大な決断をするであろう時に、背中を押してやるが良い……。苦しむ息子に、旅立ちを促してやるが良い』……そう言われたのじゃ」
「そ、そんな‼でも、ですが‼お母様‼直江家はどうなるのです‼」
橘樹の問いかけに、景虎は、
「重綱か、橘樹姉上の夫の欅兄上で良いのではないか?」
「景虎さま‼あっさりと言わないでくださいませ‼直江家は‼」
「橘樹‼」
梓の鋭い声が響く。
「神五郎は、幼き頃から直江家の者として生きた。直江神五郎実綱として!充分やって来た。直江家のしがらみから解き放ってあげたいのじゃ」
「ですが⁉」
「では、先程の幼い体の弱い実明をここにつれてくると言うのか?両親のもとに戻れたと喜ぶであろうが、体の弱いあの子が次の直江家の中心になれるのか?」
「ですから……」
「このまま親子を引き離したままにするのか‼わらわは決してしとうはない‼あの寂しげに両親を探す瞳を見たであろう?橘樹。そなたの息子たちの一人が数年も引き離されて、同じように泣いていたらどう思うのじゃ⁉言うてみい‼」
梓の迫力に気圧される。
「梓おばあ様。この姿を、神五郎様方にお見せすることは出来ませんか?私が向かいます」
「何をいっているの‼数日は安静にと言っているでしょう‼」
「母上。私にも実の母はおりました。可愛がって下さいましたが、愛人に浮気、不倫と繰り返す父には次々子供が生まれ、隠し子騒動に、母は3番目の妻でしたので、最初の奥さんとの間に3人の子供がいて、長兄の息子……つまり甥の一人は私よりも5つ上だったりします。確か、20人は男児だけで子供がおりました」
「‼……と言うか、ようやるのぉ?で、子供ができても多すぎるのぉ……長尾の殿もそうであったら良かったのに」
素直な言葉に、プッと吹き出し、
「母は、格闘家で、父が浮気をしたり、隠し子騒動になるたびに、殴る蹴るの攻撃をするのですが、それでもやめられない病気ですね。最近は、母は逆に父が浮気をしないと、『ゆうちゃん。最近、お父さんが浮気していないのかしら?せっかく久しぶりに木槿と現役当時に肉体改造したから、攻撃したいのに‼犯ジャーマンスープレックス‼とか面白いのよ?』と言う感じに……」
「……母上も母上じゃのぉ。面白い」
笑う梓に、
「一応その映像もお見せしましょうか?小さい方が父で大きい方が母の妹の木槿叔母の夫の妙才叔父です。妙才叔父は、父のいとこです」
映像を見せると、梓と橘樹は目をキラキラさせる。
「それは素晴らしい‼姉妹による連携攻撃‼おぉ‼片腕で投げ飛ばした‼百合は……」
「いえ、日本の格闘術を。これは一種のパフォーマンス攻撃なので大袈裟に見えるのですが、でも、本気でやっていらっしゃるので……」
「これはすごいわ‼私もやってみたい‼」
橘樹の声に、
「それよりも、実明じゃ‼ゆくぞ」
梓の声に周囲はうなずいたのだった。
一応身長が伸び始めた景虎は、現在160㎝ほどであり、当時ではその年代は160㎝は長身である。
その上、その横の百合は巨人である。
「景資!大丈夫か?」
一眠りした少年は、体を起こし、兄弟たちが遊んでいるのを嬉しそうに見つめている。
「あぁ、虎」
「景資?景虎さまのことは……」
「佐々礼母上。景資と私は兄弟同様だ。構わないぞ」
側に座り、佐々礼に見せていたものを見る。
「咲夜の結婚式ではないか!」
「そう。旦那さんが、ドレスのデザインを、世界的デザイナーの月英先生にお願いして、二人でドレスと、ほら、このベア……お母さん、見て?」
映像には、同じドレス姿の花嫁ベアをだっこしている花婿ベアがおり、同じポーズで微笑む新郎新婦がいた。
『さーくや?おめでとう‼今の気分は?』
『う、嬉しいです……遼さまはどうですか?』
夫を見上げる瞳はキラキラとしており、神五郎よりも長身かもしれない新郎が、照れつつ、
『私も嬉しい。よく、私たちは三国一の花嫁と言うけれど、咲夜は世界一の花嫁だよ』
頬にキスをする姿に周囲からヒューヒューと声がかかる。
「えっと、これは……」
「旦那さんの遼さんは真面目なんだけど、不真面目と言うか、仕事めんどう~‼とかいって遊んでたお兄さんと弟3人いて、遼さんにお説教されたの。で、きちんと公私を分けるんだけど、こういうときは兄弟だもん、からかって遊んじゃえってね」
「あら、この方は……」
咲夜の額に口付けたあと、
『これ以上は見せない‼見たければ、論文仕上げることだな』
『何だよぉ!』
『つまんないの!』
と声がかかる中で、遼は、
『あ、そうそう。今まで言っていなかったけれど、今年の末に子供が生まれるから。叔父として、責任感のある大人になってくれ』
「え、えぇぇぇぇ‼あ、あの子に、赤ん坊が……‼」
声をあげた佐々礼は瞳を潤ませる。
「大怪我を……あんなに弱っていたあの子が、お母さんに……‼」
『わぁぁぁ‼おめでとう‼兄さん、咲夜‼』
『どんな子かな?可愛いといいね‼』
『どんなお母さんになるの?』
その言葉に、咲夜は、
『葉子お母様のようにしっかりとしていて、蓮花お母様のように努力家で、そして、自慢の私の母のように生まれてくる子供皆に愛情を注いであげられる、優しいお母さんになりたいです。それに、あの、私一人ではダメなときは、遼さまと皆さんに助けていただけたらと思います。よろしくお願いいたします』
頭を下げる娘の映像に、佐々礼は、
「あの子にとって、私は良い母だったのかしら……辛いことばかりで、嘆いているだけの母親だったと思うわ……」
涙をぬぐいながら囁き、
「あの子……咲夜は嫁いでいったけれど、采明さんのお子さんは……」
「あ、実明は、この子だよ……お母さん」
タブレットを操作し、映像を見せる。
3才だが、叔母になる咲夜の結婚式に、何故か、新郎の遼の膝に座っていた。
「あら……まぁ、お母様、お姉様!」
佐々礼の声に振り返ると、景資が見惚れる美女二人である。
「景資が大怪我をしたときいたのでな、参ったのじゃ。景資?傷は大事ないか?」
「は、はい‼お、おばあ様。このとおりにございます」
「雪をかばって、何て無茶を‼」
少々お怒りは、叔母の橘樹らしい。
景資は目を伏せ、
「申し訳ございません。実は、私の腹違いの姉は、とても賢い人で、美しい顔立ちをしておりましたが、顔を切られ……本人は、気にされていない振りをしていたのですが……」
「なんと‼犯人は‼」
「私の実の兄たちです。できの良い妹になる姉を妬み……」
「許せぬな……その小僧ども!」
梓の言葉に周囲はうなずく。
「それにしても愛らしいのぉ……」
「遼さんは、小児科……子供専用の病院の副院長です。それで、とても可愛がっているんです」
映像の中では最初はキャッキャ‼喜んでいたが、疲れたのかぐずりはじめ、
『わぁぁぁん‼だっこぉ、だっこぉ!』
『はいはい、疲れたね?ねんねしよう』
遼はいやがりもせずあやすが、次第に泣き声が大きくなり、口のなかに手をいれて、ボロボロ大粒の涙をこぼしながら、
『ママァァ~‼パ、パパァァ~‼いいこする。いいこする。帰ってきてぇぇ。わぁぁぁん‼』
と声が響く。
咲夜の義母になる、百合に瓜二つの蓮花が会場から連れ出そうとするものの、いやいやと首を振り、
『まんま~‼ママァァ!だっこぉ!パパァァ~わぁぁぁん‼』
と泣き続け、しばらくしてぐったりするので、遼が額に手を当てると、
『熱があります。すぐに点滴を‼』
『俺が行くよ。ほーら実明。はるか兄ちゃんにバイバイして、咲夜お姉ちゃんにも行ってきます、しような?』
と大柄な男が出ていく。
「あの方が、私たちが最後にすんでいた国の病院の総合病院長先生です」
「幾つになったのかの……」
「数えで4才です。でも、体が小さいのと、咳がひどくて悪化すると治療が……」
「可哀想に……」
梓の頬に伝うものに気付き、景虎や百合に景資が驚く。
特に百合や景資は烈女、剛毅な女性と聞いていた梓が泣くとは思わなかったのである。
袖で涙を拭いた梓は、
「皆はわらわが烈女と褒め称えるが、本当は、腹帯を締めて出陣せねばならぬほど切迫しておったのじゃ……旦那様に付く味方も少なく、幼い……『かあしゃま』と追いかけてくる橘樹を預け、出陣したのじゃ。今生の別れ……と覚悟を決めての。で、戦は勝利したが、神五郎が生まれての……。橘樹や重綱よりも小さく、泣き声も上げず、諦めかけたときに祈ったのじゃ……『息子をお救いください。その為ならば、この命を‼』と……」
「お母様‼そ、そんなことが⁉」
「祈った……すると、声が聞こえたような気がしたのじゃ……」
梓は告げる。
「『そなたの強い思い、しかと聞き届けた。しかし、将来この子供が重大な決断をするであろう時に、背中を押してやるが良い……。苦しむ息子に、旅立ちを促してやるが良い』……そう言われたのじゃ」
「そ、そんな‼でも、ですが‼お母様‼直江家はどうなるのです‼」
橘樹の問いかけに、景虎は、
「重綱か、橘樹姉上の夫の欅兄上で良いのではないか?」
「景虎さま‼あっさりと言わないでくださいませ‼直江家は‼」
「橘樹‼」
梓の鋭い声が響く。
「神五郎は、幼き頃から直江家の者として生きた。直江神五郎実綱として!充分やって来た。直江家のしがらみから解き放ってあげたいのじゃ」
「ですが⁉」
「では、先程の幼い体の弱い実明をここにつれてくると言うのか?両親のもとに戻れたと喜ぶであろうが、体の弱いあの子が次の直江家の中心になれるのか?」
「ですから……」
「このまま親子を引き離したままにするのか‼わらわは決してしとうはない‼あの寂しげに両親を探す瞳を見たであろう?橘樹。そなたの息子たちの一人が数年も引き離されて、同じように泣いていたらどう思うのじゃ⁉言うてみい‼」
梓の迫力に気圧される。
「梓おばあ様。この姿を、神五郎様方にお見せすることは出来ませんか?私が向かいます」
「何をいっているの‼数日は安静にと言っているでしょう‼」
「母上。私にも実の母はおりました。可愛がって下さいましたが、愛人に浮気、不倫と繰り返す父には次々子供が生まれ、隠し子騒動に、母は3番目の妻でしたので、最初の奥さんとの間に3人の子供がいて、長兄の息子……つまり甥の一人は私よりも5つ上だったりします。確か、20人は男児だけで子供がおりました」
「‼……と言うか、ようやるのぉ?で、子供ができても多すぎるのぉ……長尾の殿もそうであったら良かったのに」
素直な言葉に、プッと吹き出し、
「母は、格闘家で、父が浮気をしたり、隠し子騒動になるたびに、殴る蹴るの攻撃をするのですが、それでもやめられない病気ですね。最近は、母は逆に父が浮気をしないと、『ゆうちゃん。最近、お父さんが浮気していないのかしら?せっかく久しぶりに木槿と現役当時に肉体改造したから、攻撃したいのに‼犯ジャーマンスープレックス‼とか面白いのよ?』と言う感じに……」
「……母上も母上じゃのぉ。面白い」
笑う梓に、
「一応その映像もお見せしましょうか?小さい方が父で大きい方が母の妹の木槿叔母の夫の妙才叔父です。妙才叔父は、父のいとこです」
映像を見せると、梓と橘樹は目をキラキラさせる。
「それは素晴らしい‼姉妹による連携攻撃‼おぉ‼片腕で投げ飛ばした‼百合は……」
「いえ、日本の格闘術を。これは一種のパフォーマンス攻撃なので大袈裟に見えるのですが、でも、本気でやっていらっしゃるので……」
「これはすごいわ‼私もやってみたい‼」
橘樹の声に、
「それよりも、実明じゃ‼ゆくぞ」
梓の声に周囲はうなずいたのだった。
コメント