異世界リベンジャー

チョーカー

『魔王』

 
 上から下へ。角度をつけて剣を振り下ろす袈裟切りが振るわれる。

 俺は後ろへ下がり、それを避ける。
 俺が下がるスピードに合わせて『魔王』が前に出てくる。

 今度は、下から上に。手首を返して剣を跳ね上げてくる。

 俺は、先ほどと同様に後ろへ下がる。

 さらに横薙ぎの一閃……

 『魔王』の剣捌きは単調だった。その動きは読みやすい。
 もしかしたら、人類最強の騎士であるオルド。人間の力を最大限まで跳ね上げたシェル。
 2人との連戦の直後であり、知らず知らずにその2人と戦闘能力を比べているのが原因かもしれない。
 つまり、『魔王』の実力は、オルドとシェルに劣る?
 ……いや、それは剣技だけでの話だろう。その証拠に『魔王』の魔力は、膨大に膨れ続けている。

 何度、『魔王』の剣を回避しただろうか?
 カウンターが狙えない。
 その不必要なほどに力みを込めた剣技は、強いプレッシャーとなって、間合いを詰めさせてくれない。
 それに加えて、彼の剣技は ―――拙いものはあれど――― 決して遅くはないのだ。
 むしろ、速い。
 ここにきて、何か狙いがあるのか?と俺は考えるようになった。
 観察する。自身に向かって来る剣技をじっくりと観察する。
 さっきまで、ただ歩くと言う行為ですら、洗礼され、優雅であり、華麗さすら秘めてた人間が、なぜ剣を持つだけで、ここまでも、ぎこちない動きへ変わったのか?
 剣を避け、ただひたすら避けて、避けて、避けて――――
 避け続けた結果、あることに気がついた。
 それは―――

 膠着時間

 『魔王』が剣を振る瞬間に、僅かながらも動きが止まる瞬間があるのだ。
 なぜか?まるで――――痛みに耐えているように――――
 何かに耐えて、何かに堪えているような動きのタイムラグ。
 耐えてる?何に?
 俺の直感が強めの違和感を訴え、警戒心を促してくる。
 違和感? それはまるで間違い探しに似ている。
 通常ではありえない現象が目の前で起きているにも関わらず、その正体がわからない状態。
 既に答えは出ているはずなのに、それを理論化できていない。
 だから、わからない。 だから、考えないと……
 答えは出ているのだから……

 ……魔力?
 違和感に気がつくと、途端に疑問符が脳裏に浮かび、覆い尽くしていく。
 なんで魔力が膨大に膨らんでいるんだ? そもそも、魔力って膨らむものなのか?
 そりゃ、消費したら縮む物なのだろうけど、本来は内蔵されている魔力が増加されていくってどういう現象なんだ? 

 「……暴走している。いや、暴走させている意図的に?」

 思わず、声に出た。
 瞬間、顔が隠れているはずの『魔王』が笑ったのがわかる。

  
   

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