異世界リベンジャー

チョーカー

敗走と疾走

 
 「すまないな。俺の汚いベットの上で」

 俺は、動かなくなったクルスの体を優しくベットへ沈めた。
 このまま、冷たい石床へ寝かすのは不憫に感じたのだ。

 「本当は、こんな所じゃなくて見晴らしの良い場所にでも連れて行ってやりたかったんだが……すまねぇな。……本当にすまない」

 気が緩むと涙腺も緩んでいる。
 それをクルスには見せまいと、気を引き締めた。

 「それじゃ、行って来るよ。さようならクルス」

 俺はクルスに別れを告げると、彼女が眠るベットへ――――

 火を放った。

 俺は轟々と炎が立ち上る部屋を後にする。
 そして、ドアの向こう側。通路には、武装した兵士が詰めていた。
 室内でも、鎧兜を身につけた完全装備。全員が抜刀し、抜き身の剣を俺に向けている。
 それに対して、俺は何の感情も浮かばない。
 ただ、無言で攻撃を開始するだけだった。

 地下に響いたのは爆音。
 純度の高い魔力を、そのまま周囲に放っただけだ。
 適当な魔力の使い方だったが、それでも……きっちりと人を殺せる程度の威力を込めたつもりだった。
 しかし、兵士たちは、全員がその場に残り、立ち上がっている。
 俺は首を傾げて考える。すぐに答えはでた。

 「あぁ、クルスが来ていた防具と同等の種類か……イチイチ、胸糞悪い」

 俺は手を上げる。持っている物は、クルスの形見として持ってきた剣。

 『聖剣 魔人殺し』

 高く振り上げたソレを、ただの鈍器のように兵士に叩き付ける。
 鈍い音がして、叩かれた兵士が床に倒れる。

 「対魔力性能は高くても、物理は並みか。上等上等よ」

 兵士たちに動揺が広がっていく。それが、どこか陳腐で面白い。
 俺は笑みを浮かべて、全てを蹴散らしていった。
 1人、2人、3人……100人を超えて数えるのを止めた、
 懐かしい。ほんの少し前の話だ。俺はここから脱走しようとした。
 今、また、同じ事を行っている。
 もしも、あの時――――俺が屋上を目指さなければ運命は変わっていたのだろうか?
 嗚呼、今更だ。今更、こんな事を考えている。
 それは後悔?あぁ、当たり前だ。
 いろんな選択肢があった。けれども、今は悔いしか残っていない。
 いや、希望も残っている。
 託されたんだ。クルスから…… だから……
 せめて、彼女だけは!

 ――――酷い話だ。
 ただ、惚れ女に会いに行く。それだけで俺は――――
 一体、何人の命を奪ったのだろうか?
 振り返れば道ができている。血と死臭で形成された道。
 人間は突き詰めれば、ここまで人であるという事を捨てられるのか。
 そんな事を考えながら上へ上へと昇り上がり、ついに星空が見えた。
 そこは屋上。モナルがいる最上階だった。

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